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第10話 握られた手




「あの後はお友達に会えましたか?」


「その事なんだけどさ、聞いてくれよ。川に入ったせいで臭いって言われてさー」


「私もあの後、村に着いたらみんなに言われちゃいました」



笑い合いながらしばらく草原を歩いていると、大きな川に架けられた橋を進むと木々に囲まれた村はさっきまでいたネルトと違い、自然溢れる美しい所だ。



「家までもう少し歩くので頑張ってくださいね。」


「おーけー」



村を歩いていると、八百屋や魚屋などお店がずらりと並んだ通りに出た。

昼前のせいか、沢山人が居る。 

人だかりを見て身体が思わず硬直してしまった。


村の人たちが俺のことを腫れ物扱いのようにじっと見つめている……気がする。

そう思うと緊張して体が動かなくなる。

そんなのは自分の被害妄想だって分かっているのに引きこもっていた俺の過去がそう思わせてしまう。



「……イツキさん?」



俺が歩みを止めたのを気づいたのか、リリスは心配した様子で後ろを振り返る。



「あ、あぁ。ごめん、ごめん。今行くよ」



 気のせいか足が鉛のように重く、思わず顔が引き攣ってしまう。



「……大丈夫ですか?」



そんな俺の様子を見てリリスは心配そうにこちらに歩み寄って来てくれる。

駄目だ。これ以上不要な心配はさせたくない。それに、人だかりが怖いだなんて情けないこと言えなかった。

そんなちゃちなプライドがそれを拒んでいたのだ。



「だ、大丈夫だって。ほら行こう」



手が震えている。

だけれど、それをリリスに悟られたくなくて無理やり足を前に出そうとした。



「ちょっと失礼しますね。」


「えっ」




リリスは震えている俺の手を掴んで前に出し、包み込むように握ってくれた。

リリスの手は暖かくて、握られるとなんだか安心した。



「ごめんなさい。私、イツキさんを傷つけるような事をしてしまいましたか?」



リリスの心配そうにしていた顔が徐々に悲しそうな顔になっていった。

知らぬ間に自分が傷つけてしまったと考えているのだろう。


そんなことない。リリスは悪くないんだ。悪いのは……俺なのに。



「違う。リリスは何もしてない。……怖いんだ。知らない人達が、その目線が。情けないよな。人が怖いだなんて」



いまだにギルドの奴らでさえも怖いと感じる時がある。

リリスの顔を見る事が出来ず、俯いてしまった。


彼女はいまどんな表情をしているのだろうか?

想像したくない。見るのが怖い。 鼻で笑われてもしょうがないくらい今の俺は情けなかった。



「イツキさんは情けなくなんてありません」



リリスの握ってくれている手の力が強くなった。

それに釣られ、思わず顔を上げるとリリスは優しく微笑んでいた。

泣きたくなるような、今まで見たことのないくらい優しい笑顔。



「怖いモノがあるとこは当たり前のことです。私だって蛇が怖くて見るといまだに体が震えちゃいますもん」


………………


「震えるなら、止まるまで手を握ります。怖いなら怖くなくなるまで手を繋いでそばに居ます。だから、大丈夫です」


リリスの言葉がゆっくりと心の中に落ちていく。

不思議と手の震えは止まっていた。



「……ありがとう。本当にもう大丈夫だから」



本当はまだ村の人たちが怖いけれど、心は大分軽くなった気がした。

心に少し余裕が出来たのだろうか。



「行きましょうか」



え、手は繋いだままのか……まぁ安心するからいいんだけどさ。

リリスに手を引かれながら、村人たちがいる通りに歩いて行った。



「リリスちゃん! おかえり! 今帰りかい?」


「あ! おばあちゃん! ただいま! 今帰りました!」


「リリスおねぇちゃん! おかえり!あとで遊ぼっ!」


「はい! また後で遊びましょうね」


「お、リリスちゃん。美味しいメロンが入ったんだ! 持って行きなっ!」


「美味しそう! ありがとうございます!」


「リリス、俺が持つよ」


「ありがとうございます! お願いしますね」


「おっ!? そこにいるののは彼氏かい?」


「あ、違いますよ」


「アハハ、オジサンメロンハボクガモチマス」



このように人に会うたびに笑顔で話しかけられた。

リリスは人の輪の中心に居て笑顔をい振りまいていた。

リリスの笑顔を見て周りの表情も明るくなリ、彼女を中心に笑顔が広がっている。


それは俺には到底出来ないことだ。だから、リリスが羨ましいよ。すごく。



「リリスって人気者なんだな」


「そうですか? でもみんないい人で、私はそんな彼らが大好きなんです」



そう言ったリリスの笑顔は眩しく輝いていて、そんな笑顔に見惚れてしまった。

やっぱり、俺はリリスの大好きだ。


そんなことを思っていると少し離れた小さな丘の上に木造の家が見えてきた。



「あっ! あそこですよ」


リリスは指差しながらそう言って家にって走る。

いまだに繋がれた右手に引っ張られながら俺の歩く速度も上がっていき、家の扉が開かれた。



「着きました! どうぞ上がってください」



リリスは扉を開く為に繋いでいた手をぱっと離した。

……少々名残り惜しい気がしなくもない。


「ただいまー」


扉を開け、家の中に入って行くリリスに続いていく。



「お、お邪魔しまーす」



うぅ…初めてのお、女の子の家……緊張しながら扉を開けて入る。


すると


「おかえりリリス、あら? そちらの方は?」



リリスのように垂れ目で黒茶色のボブヘアーで同じ髪の括り方をしている女性がいた。

リリスとそっくりで少し大人びている。

あまり歳が離れてなさそうだし、もしかするとお姉さんかな?



「私の友達なんだけど、お腹が減ったから一緒にご飯に誘ったんだけどいいかな?」


「あら、リリスのお友達なんですか? どうぞ、たくさん作っちゃうから、食べて行ってください」


「やった!ありがとう!」


お姉さんは嫌な顔せず、穏やな表情で言ってくれた。お姉さんの心の暖かさに俺は涙目になる。


「うう、ありがとうございます。お姉さん」


俺の言葉を聞いてリリスとお姉さんは目を丸くした。

妙な空気が漂っている。


あ、あれ? 俺何か変なこと言ったかな?



「あらやだ、お上手ですねっ 私は姉ではなく母です」



くすくすと笑いながら言った。


「なん、だと?」


(こんな若くて可愛いのに人妻 ? 異世界ってすげぇわ……)


(そこは異世界関係ないんじゃないかな )


驚きを隠せなかった。


「ご飯まで少し時間がかかるから村を回って来たら?」


リリスのお母様は野菜を切りながら言った。



「イツキさんどうしましょうか?」



リリスは俺に確認を取るかのように聞いてきた。

先程のことを気にしてくれているのだろうか?



「……俺も村を探検したいと思っていたところだし、いいんじゃないか? 行こうぜ」



実際、この村を見て回りたいと思っているのは事実だし、リリスと一緒なら大丈夫だって思えたからここは勇気を出してみる。


「分かりました。では行きましょうか」


その勇気が伝わったのかリリスは嬉しそうに笑って頷いてくれる。

……その笑顔に俺の心はまたも奪われた。









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