血ミドロ
「アキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!!!!!!」
血だ……血だ!!
オレ達が求めているのはたった一つ、抉り込んだ矢先に流れ出るこの温い血だけだ!!
お前達には他に何もいらない、ただオレ達の喜びのためだけに血だけ流していればいいのだ!!
「よぉ、どんだけ血を啜りゃあ気が済むんだお前さんは」
「ハハハ……お前は、血を流すかァ……?」
でっぷりとした腹だ……これを引き破ったらどれだけの血が流れ出るんだろうか……想像しただけでぞくぞくするじゃないか!!
「晒せ、オレ達に、たっぷりの血を!!」
「ったく、何度やったら気が済むんだお前はよぉ」
きたぁ!! 破裂したぞ、この腹が!! 醜い腸と共に、あの、生温かい大量の血を……!!
──緑色の飛沫が飛び散った。そうだ、そうだった……。
「あ、……」
「ちょっくら眠って落ち着けよ」
「血ィーーーーー!!!……うげっ、ゴホッ、ゴホッ!!!」
「ようやくお目覚めか、本当良く眠るヤツだ」
「うう……オレ、どれくらい寝てたの?」
「大体1ヶ月ぐらいじゃねぇかー? そんなに細かくぁ覚えてねーよ」
「1ヶ月か……まぁ、早く起きた方なのかな」
手は、しっかりヒトの形をしている。
大丈夫みたいだな。オレはちゃんとオレのままみたいだ。
「ベッドは買い換えないのか、すごくジメジメするぞ」
「意外だな、そういうのが気に入ってるんじゃないのか」
「オレは、オレはチゲぇよ……」
「知らん、お前がどう思おうがアレはお前だろ」
「…………。なぁ、ガスドール。地獄から出たいって思ったことは無いか?」
「んぁ? 出てどうすんだよ」
「地の上ってのは気持ちいいらしいぜ。ヒトも元々地の上にいたって言うし、だからオレは地獄があんまり好かんのかもしれん」
「上、か……考えたことも無かったな。俺様は生きれりゃそれでいーんで」
オレ達の住む地獄……。ずっと暗くって、何よりジメっぽい。ここで生きてる奴らもなんだかおどろおどろしいヤツが多くって、まともだって思えるヤツなんか極わずかだ。
まぁ、オレ自身、オレがまともだとは思えねーんだけど……。
とにかくオレは地獄が気に入らない。それはもしかしたら、やっぱりオレは地の上に生きるべき生き物なんじゃないかって。
「で、何か食うか」
「……あ、ああ。そうだな」
ガスドールは、オレと同じヒトの形をした生き物だ。
ものすごく太ってて、ジメジメして生臭くて、腹から緑色の気持ち悪い液を出す所以外におかしい事はない。
そのガスドールは、信じられないくらい美味い揚げドーナツを作ってくれる。
オレはその、信じられないくらい油たっぷりの揚げドーナツが大好きだ。
「お前の血はくれないのか」
「勝手に飲め」
「イヤ、もういいさ。もう懲りた。オレは学ぶ、学ぶのでね。イヒヒヒヒヒヒ」
「で、お前どうすんだ。そんな口でドーナツ食えんのかよ」
「あぁ……? いらね。血だオレは血が欲しい!!」
「だったら外行け外」
ガヒヒヒヒ!!! ガヒャ!!!! ハガ!!!!
血だ!!! あの流れ出る温かい血の感触が忘れられない!!!
ハハハヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!! 啜れ啜れ啜れ啜れ見える贄から血を啜れ!!!!
お前達はオレ達に血を捧げるために生まれて来た事を知れ!! 知れ!!
「ンジュル……チュー、チュー……」
地獄の餓鬼ドモはイイ。血はすくねぇが、数はいる。パラダイスみてぇだ。
「食いモンだ、食いもんを見つけたぞ……」
「ヘヘ、お前の足を寄越しな……!!」
ア、何だアイツら。
「お前ラ、血ィーなさそうだな」
何だこの、長細ェーーーーヤツらは。
「女王様!! うんまそーな餌があります!!」
「ホホホ。アヤツ逃げぬのか。カマ=斬りイを知らぬとみた。家臣ドモや、即刻捕らエ!」
女王……女王……!! アイツ、すげぇでっぷりした腹だなァ……!!
アア~~~~……たまらねぇ。早く引き裂いてお腹の中身が見たい!!!!
「オレに啜らせろお!!!!!!!」
血だ、血だ血だ血だ血だ血だ血だ血だ血だ血だ血だ!!!!!!
はちきれんばかりの血だ!!!!!
「コイツ、バカだぜ!!」
「オレがまずテメェの足を引き裂いてそれからじーーーーっくりと女王様のために──」
アァーーーーーー…………また、やっちまった。
コレ、したらつまらねぇんだけど。
ま、いーよな。コイツらどーせ血ぃーなさそーだし。
「……こんだけ千切って飛沫も散らネェ。餓鬼以下だ。ガッカリどころのレベルじゃねぇや」
「ア、ア、か、家臣タチや!? 家臣タチや!!!」
「ハハハッ、ハハハハハ……なァ期待していいか……??? お前のその腹、裂いたらどっっっっぷり血がでてくれるんだよなぁ……??? 頼むぜ、つまらないことしてくれるなよ……???? 血を見せてくれよ……????」
「ヤ、ヤメるのだ!! ワラワの腹に詰まってオルは卵!!! ソナタの望みは決して叶わヌ!!!!」
「あ、そー?……そっか、血じゃないんだ」
「ウ、ウム。この卵が孵れば、沢山血のツマッタ子ドモが生まれるのダヨ」
「子供って、サッキのヤツ????」
「チ、チガう!! ソレとはチガウ!!! アヤツらはいうなればゴミ、ゴミさね!!!」
「……フーン」
「ジャからノウ、ソナタ? ワラワが卵を産むまで待ってはくれヌカ? ソナタの妻と、妻とナッテ……ア、レ?」
「嘘ツキ。全然詰まってないじゃん、血ィ」
「ア、アア、ア、ア……!!!」
──こんな触手まみれの気色悪い姿になっても、オレの意識は若干ある。
すごくぼやけていて、水の中にいるみたいな様だから、ほとんどの事はわからない。
オレは嫌だ。コイツは決まって、そう言うから……。
「オレ達のために流す血が無いなら、死ね」
オレは、コイツがオレ達って言うのが、死ぬ程嫌いだ……。
「あー、バラバラだな。色々と。」
「……ガスドールか」
「ほら、食うだろドーナツ」
「……ああ」
「どうだ?」
「美味い」
地の上が本当のオレの世界だったら、地の上に行けばコイツが何なのか、少しは分かるかな。
分かっても、分かんなくても、どっちでもいい。ともかくオレは……
こんな場所に、骨を埋めたくはない。