16①・友との最後の朝に+アドニスの呪い
朝が来た。
昨日はさんざんな目にあったが今日はなんだか心地いい目覚めである。カーテンの隙間から差す太陽光が暖かい。
どうやら確認してみたが僕は布団で眠っていたらしい。廊下で寝ていたはずなのに、誰かが哀れんでくれたのだろうか。
しかし、そんな心地よい朝もあいつによって再び壊されのであった。
「zzz…………」
「いや、寝てるのかよ!!……ってあれ?」
目が覚めると、そこは宿屋であった。
側ではキユリーが座ったまま今も眠りについている。
おかしい。確か、昨日はハルファスからのお願いでルーラーハウスでお泊まりをしていたはずだ。
それなのに、目が覚めると宿屋に戻ってきている。
不思議だ。訳が分からない。
ふと眠気眼で周囲を見渡してみると、さらに不思議な事が起こった。
部屋のすみに1人の少女がいたのだ。
初めて見かけた少女のはずだ。いや、僕は知っている。この少女は夢の中で前に出会った少女だ。
夢の中出会った少女は和服を来ていて肌は今にも消えそうなほど白く、そして飲み込まれそうな真紅の瞳に黒髪のショートヘアーの女の子。
「おはようフレンド。
そこの子が眠ってしまったから、代わりに起こしに来てあげたよ。いやはや、少女2人と同室になってるフレンドが羨ましいですね。
間違いが起こらなければ良いのですがね~」
夢の中で出会ったことのある少女はそう言いながらニヤリと微笑んだ。
どうやらこの少女は僕の事を知っているようだ。
本当なら、不審者でもある少女に警戒心を向けていなければならないし、キユリーでも起こして外に助けを呼びに行ってもらうなどを行うのだろうけど。
なぜか、目の前の少女は信用できる存在のように思えてしまった。
「君は誰だい……?」
僕は目の前の少女に問う。
「私はただの物語を話に来た語り部の少女『フレンドちゃん』。
ただ、少しお話をしに来てあげたのさ」
少女はそのように言って自己紹介を行った。
物語を話に来た?
フレンドちゃんの目的がよく分からない。
それよりも僕は何故ルーラーハウスから宿屋に戻ってきているのかが気になっている。
しかし、そんな疑問も聞く暇もなく。
「はぁ、それは私が話してあげますよ。もう私としては先に進んでいただきたい。40日経過してるんです。そろそろ私もこの国を出ていきたいですから」
フレンドちゃんと名乗る謎の少女はそう言うと僕の両肩に手を置いてきた。
正面で向かい合っている状態。
このまま何をされるのかと僕は警戒しながらフレンドちゃんを見つめる。
すると、フレンドちゃんは身長差が納得いかないようで、片手を離して手招きするような素振りを見せた。
しゃがめと言うことだろうか。
僕は頼まれるがままに膝を曲げて頭をフレンドちゃんと同じくらいの高さにする。
顔と顔が同じ位置だ。
「そうです。その位置です」
「……???」
すると、フレンドちゃんは頭を大きく後ろに向け始めて……。
そして勢いよくガツンッと骨が折れるような音を立たせながら頭突きを行ってきたのだ。
数十分後、目が覚めた僕は頭を抱えながら起き上がる。頭が重く頭痛がする。
まるで船酔いにでもあっているかのように気分が悪く、頭が混乱していた。
「…………僕はいったい?」
頭の中で白黒映画のフィルムみたいな映像が無数に上映されている感覚である。
「それは私とフレンドがこの国で見聞きした記憶です。
約40回分のあなたの記録ですね」
「これがこれまでのループでの僕の記憶……!?」
何十日もの記憶が一気に頭の中に入ってくる。その重量に吐き出しそうになるが僕はそれを我慢して耐え抜く。
ルーラーハウスでの会談・赤羅城との戦闘・アドニス殺害・フレンドちゃん殺害・青い目の男・アドニスの母親殺害・僕殺害・僕投獄などなど……。
それはもう無数の分岐点の映像だった。
「さぁて、フレンド。次は無いからね?
今回のループを最後にしてくれよ。
私ももう奴の相手はごめんなんっすよ。
あなたが奴に会った回から必ず奴が最後に登場するようになっちゃって」
「ちょっと待って。フレンドちゃん。最後ってどう言うことさ?」
「ああ、私はこの国を去るのですよ。有給休暇も途切れそうですし……。このままじゃ夏に旅行にいく分が無くなるのです」
「おいおいおい、君は社会人だったのか……もっと子供かと思っていたよ」
「……まぁ、そんなことは置いておいて」
「置いておくのか。もったいない。
僕はもっと君の事を知りたいんだけど」
「引き延ばしは効きませんよ。私は早く仕事に戻らなければならないのです」
そう言い残して部屋から立ち去ろうとするフレンドちゃん。
フレンドちゃんには今回頼りにしすぎなのかもしれないが、僕は最後にどうしても聞いておかなければいけない事を思い出した。
「ちょっと待って。フレンドちゃん」
「何ですか?
セクハラですか?」
「まだなにもしてないよフレンドちゃん。それよりもだ……。
アドニスにかけられた呪いって解除する方法はあるよね?」
僕は最後の頼みの綱としてフレンドちゃんに尋ねる。
この今日という日は僕はアドニスと知り合っていないので心配する必要もないかもしれないが。
せめて、知られていなくても救ってあげたいと考えたのだ。
すると、フレンドちゃんは再びニヤリと笑みを浮かべながら、嬉しそうに僕の質問に答えてくれたのである。
「無ッ理でーーーーーす」




