15 ・呑天結界+青い目の男
走った。走った。走りきった。
ようやく、ネゴーテェウムの門がようやく見えてきた。
僕はふと馬車の墓場道の方向を見てみると、土煙は舞っているが、あの巨大な酉の姿が見えない。
あの場所でしか見えないのだろうか。だからバレずに今まであの場所に巣くっていた。
そして、深夜に馬車を襲っていたのだろう。
ただし、見えないだからと言っても赤羅城は今でも酉との戦闘を行っている。
酉との戦闘が終わっていると判断するべきではない。
とりあえず、ここは冷静になってフレンドちゃんを捜すべきである。
「あちゃー、しまったなぁ。フレンドちゃんの住所を聞いておくべきだったか。いや、そもそもこんな深夜に訪ねてもいいのか?」
改めて考えてみると問題がどんどん浮き彫りになっていく。
あの裏道に行ってもフレンドちゃんに会えるわけではない……。
その事をすっかり考えていなかったが、もはや手段はこれしかない。
僕は夜のネゴーテェウム内を走る。裏道を訪れるために走……。
「ヒッ!?」
全身に走る悪寒。
僕は思わず、足を止めて周囲を見渡してみる。
夜の闇。昼間は何も思わなかった裏通りなどの闇が気になる。
僕はふと左にある裏通りを見続ける。
すると、暗い闇に白く光2つの光。それが揺れ動いている。
「フェェェェンアー」
まるで赤ちゃんの泣き声のような声をあげながら、そいつは裏通りから現れた。
地面を這っている緑色の見た目であり、白い目が特徴の赤ん坊ではあるが、とても不気味だ。
まるで妖怪みたいな存在である。
僕はその赤ちゃんに恐れをなして、その場から動けないでいた。
「なんだよ。こいつ……!?」
赤ちゃんを見続ける。すると、赤ちゃんと眼があってしまった。
赤ちゃんが僕を見る、僕が赤ちゃんを見る。
その時であった。
「……!?」
僕が緑色の赤ちゃんに気をとられている隙に何者かが僕の顔に飛び付いてきたのだ。
それは赤い小鬼のような生命体。
「ギャギャギャ!!」
そいつも赤ちゃんのように小さい体ではあったが、その鋭い爪が僕の顔を裂いていく。
小鬼の爪によって僕の顔からは大量に血が流れ落ちる。
「くそったれが!!」
僕は全力で顔に張り付いた小鬼を掴む。そしてそのまま地面に投げ落とした。
すると、小鬼のような生命体は「グエッ」という断末魔をあげて、そのまま動かなくなる。
小鬼のような生命体を剥ぎ取った僕は、急に緑色の赤ちゃんにも危険性を感じてしまう。
そこで、血が流れてくる顔を押さえながら僕はその場を後にしようとした。
走る。その場から逃げ出す。
今、なぜ僕が妖怪みたいな存在に襲われているのかは依然として不明だが……。
せめて、フレンドちゃんがいた裏道に逃げこまなければと考えたのである。
僕は全速力で走る。痛む顔を押さえながら走る。
そんな僕の姿を青い月の光が照らしている。
闇夜に踊る。影のモノ達が血の匂いに勘づいて笑う。静かで無音。
まるで深海を走っているような雰囲気を感じた。
走っている僕の全身を何かが通りすぎていく。霧のように触れることはできず、見ることも出来ない。それは風のように通りすぎていく。
それらを必死に無視しながら、僕はフレンドちゃんのいた裏道へと向かっていく。
そしてもう少しでたどり着けるという所で、何者かが僕に声をかけてきた。
「…………我が呑天結界にようこそ」
僕はその声のした方を振り向く。その正体は分からない。その肉体はまるで深淵のように地面の影と重なっている。
けれど、その氷のような冷たい視線を向けている青色の瞳がその正体を明らかにしてくれていた。
「お前か。釘野郎と相棒を送り込んできた奴は……」
「ええ、麿の仕業にございますとも……。天の導き故に先日は失礼ながら殺害を企てておりました」
「そうか。わかったよ」
そのまま、青色の瞳の持ち主を無視して裏道へと向かおうとする僕のことを疑問に思ったのか、奴は僕に声をかけてきた。
「何故に?
麿をいたぶらないのですか?
罵らないのですか?
麿はあなたの殺害を考えているのです。今もこれからもですぞ!?」
「悪いけど疲れてるんだよ。用事があるんだ」
「はぁ~ぁん。無視無関心。
やはり、あなたは面白いですねぇ」
奴は何がおかしいのかクククッと笑う。
確かに、命を狙っている奴が目の前にいるのになにもする気力もわかない僕はおかしい。
けれど、それほど疲れているのだ。
よく分からないがとても体力を消耗している。
「ですが、その用事。達成できるとお思いか?
この『呑天結界 百鬼異界夢幻』。解除せずならあなたは地獄を見ることになりますぞ?」
「そうか……。それは嫌だっ……」
体がふらついて僕は思わず住宅の壁にもたれ掛かった。
先程から体がダルい。
「オヤオヤお疲れのようですね。大丈夫ですかぁ~?」
奴は僕を煽るような口調で、僕のことを心配してきた。
まさか、なにかこいつにされたのだろうか。毒でも撃たれたのか?
「ご名答。麿の飼物はどうでした?
その爪での痛み、血の流れる感触。いかがでしたかな?」
先程の小鬼はこいつの仕業だったのか。
まんまと罠にはまっていたのかもしれない。
「さてさて、あなたの力……食させて頂きます!!」
僕の体はだんだん言うことを聞かなくなっていく。立っているのも辛くなったので、僕は地面にしゃがみこむ。
そして見る。
奴の周囲にもたくさんの異形の生命体達がいる。その数は30匹を超えていた。
「くそっ……」
フレンドちゃんに教えることができなかった理由はこれだったのか。
僕はここで“青い目の男”に殺されるのだ。
だから、フレンドちゃんに助けを求めることができずに死んでしまうというわけだ……。
そして、僕は目を閉じた。
──────────
目を閉じたままの僕に分かったのは耳から聞こえてくる音だけ。
ザシュッ……。
「ムムムム?
その刃。その魂。
それは真か?」
「─────────!!」
「なんという事だ。そうなっているとは……。
だが、よいのですか?
いずれは死ぬ定め!!」
「─────。─────」
「なんというなんという。これは愛か!!
あああああああああいいいいいいい良い。
麿は感動いたしましたぞ。まさかこの戦乱の世にあなたのような仔がいたとは……人もまだまだ価値のある。
エリゴル。貴様は憎たらしくいとおしいィccccccc!!」
「…………」
「いいでしょう。それがあなたの言う道であるなら、此度の麿は退きましょう。
だが、忘れる事なかれ。
麿は全てを手に入れる。麿は悪行を極める者でございます。あなたもその歯車に必要だと言う事をお忘れなく」
「────!!!」
「それでは、いずれ戦場で会おうぞ★」
そんな声が聞こえると同時にザワザワとした音が消えて静かになった。
奴は消えたのだろうか。
僕は誰かに助けられたのか?
目を開けようとする。
僕を助けてくれた恩人の正体を確かめようと考えたのだ。
そうして、僕の目にその恩人の姿が認識できそうなその時。
─────一番鶏が高らかに朝の訪れを告げるため、鳴いたのである。
第4章・大商廻鳴国ネゴーテェウム シーズン1はこれにて終了。第4章・大商廻鳴国ネゴーテェウム シーズン2は6月に投稿します。日付についてはまた後日こちらに記載させていただきます。
6月23日シーズン2投稿開始!!
時間については当日順に公開します。




