13 ・答え+十二死 酉
馬車の墓場道。
そこは忌み嫌われている立ち入り禁止の荒野である。
馬車がその道を通るときには必ず夜ではない時間に通らねばならない。
夜に通ってしまえば、その道は馬車に牙を向く。
被害者は残さない。そこに残っているのは馬車とも言えない部品が散乱しているだけである。
そのため、馬車は夜に東側を通ることはない。
馬車は遠回りをして来るか、夜に通らないかの二択に分けられる。
さて、そんな深夜に行ってはいけない場所に佇んでいたのは僕を入れて2人。
「…………なぁ」
僕は目の前にいる女性に声をかける。
女性は振り向き、ため息をつきながら僕を見つめていた。
「なんで君はこんなところに来たの?」
「それはあなたにも言えることだぞ」
「それもそうね。それで、なんで私がここにいるのか説明してあげましょうか?」
「いや、いい。だいたい分かってる」
僕よりも先にこの場を訪れていたのはアドニスの母親である。
偶然というには無理があるこの状況。おそらくループ現象を起こしていた犯人は彼女で間違いないだろう。
理由は予想がつく。
その原因となる未来予知は既に行ってきた。
「そう、ねぇ聞かせてくれない。あなたが見たアドニスの死因はどんな物だった?」
「衰弱死だよ。外で倒れてた」
「そう、やっぱりあの呪いによる不治の病のせいかしら」
「冷静だな」
「フフフ、もう何百回目だもの。だって明日の早朝には彼は死んでしまうのよ。太陽が登る頃にはもうね……」
そう言ってアドニスの母親は遠くの空を見つめる。
「ただ、私だと見破れたのは初めてよ。誉めてあげる」
どうやらアドニスの母親がこの場所で出会ったのは今回が初めてらしい。
あの未来予知を見ることができなかったら僕もその真相にたどり着くことはできなかった。
あの最悪なタイミングでの未来予知が役に立つとは、最低なんて罵った事を取り消さなければいけない。
だが、それもすべてが終わってからである。
「この現象を止めろ」と僕はまずそう言っておくべきだったかもしれない。
その揺れ動かぬ意思があれば僕はアドニスの母親を止めることができたかもしれない。
しかし、その言葉を言う前にアドニスの母親は僕に訴えてきた。
「悪いけど私の邪魔はさせないわ。私の息子のためだもの」
「くッ……」
確かに、このループ現象を止めてしまえばアドニスが死んでしまう。
「それにどうするつもりなの?
私を殺す?
残念だけどそれは無理よ。この場所がどこなのかは教えてあげたでしょ?
ここは忌み嫌われている場所、馬車の墓場道なのよ」
そういえば……と僕は疑問を思い出す。
それは彼女がこの場に訪れた理由である。
僕がこの場に訪れたのは未来予知、それに加えてもう1つの理由があった。
それはこの国に充満している匂いである。臭いなどという匂いではなかったがこの国に来てから、匂いを感じていた。
この国の独特の匂いなのかもしれないと判断はしていたのだ。
もちろん、アドニスからも匂いはするし、アドニスの母親からはもっと匂う。
そして、この場所からが一番よく匂う。
この場所が匂いの発生源であることは、先程分かったばかりだが……。夜になるとその匂いが東の方向から重点的に匂ってきたのだ。
これこそが邪気の匂い……。赤羅城の探していた匂いの正体がここである。
「邪気の匂い……」
当たり前すぎて疑問にも思わなかった匂いだ。
それがこの場所からは異様なほど溢れ出ている。
おそらく、この匂いを邪気の匂いだと判断できる者は過去に奴らに出会った者かくらいだろう。記憶していないと刻み込まれないと判断できない。
ただ、方向や人物までは分からないはずだ。赤羅城がこの匂いを判別できたのは驚きだが、その犯人と場所は分からなかった。
おそらくだが、僕がこの場にやってこれたのはきっと偶然が重なったのだろう。
さて、ここでいう奴らとは……。僕にとっては嫌な思い出しかない奴らの事である。
その奴らとアドニスの母親が契約を結んでいたというのなら、今回の事件の真相もまた理解することができる。
人知を越える現象は人外でないと行えない。
奪われる事・国全体・そして今回は時間への怨みということか。
アドニスの母親は両手を闇夜に掲げて、僕に尋ねてきた。
「教えてあげるわ。あなた……神様って見たことあるかな?」
異様な質問である。神様を見たことがあるか?
そんなのない。僕はこの世界に来たときでさえ神様になんか会っていない。
僕は神を信じていな……いやこの発言はルイトボルト教の宣教師としては言ってはいけないことだった。
とにかく、彼女は僕に神を見せるというのだ。
彼女のループ現象を支えてくれた、邪気の匂いの正体である神様という奴を……。
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空はより一層深い闇に包まれる。
光も通さないような深淵の色。
星の光も通さない。世界は闇に隠される。
されど、東の空が明るい光が希望となった。希望となってやって来る。
それはまるで朝日が昇るように……。光が闇夜に
舞い上がる。
それは鳥というにはあまりにも美しく、神様というにはあまりにも異形な姿であった。
闇夜に輝く黄金と紅き肉体は、書物でも見ることができないほどの幻想的な見た目である。
神聖な存在が羽ばたく姿も美しい。
しかし、その美しき肉体のせいで見た目がさらにいびつに見えてしまう。
足が4本。鳥と鳥とを合わせたような見た目であり、本来尾があるべき位置にも首が2つあるのだ。双頭の鳥。前方の目は開いているが、後方の目も口も縫い付けられている。
さて、そんな異形の鳥は僕たちの目の前に着地。
それが神様だなんて僕にはまったく信じるわけにはいかなかった。
アドニスの母親は神様だと言っているが、こいつは化物だ。
アドニスの母親は神様とやらの降臨を心から喜び、そして僕に向かって奴について紹介を行ってきた。
「この方こそが神様。時間を戻せる獣、十二死の怪物。『十二死の酉』。それがこの神様なのよ!!」




