11・赤羅城殺人事件+美青年
立ち止まる僕とキユリー。そして地面に横たわっている赤羅城の死体。
美少年は階段からその様子を眺めていたのだが、彼はヴァイオリンを階段に起きっぱなしにして階段から降りてきた。
「すみませんでした。争いの原因を作ったのはボクです」
そう言って頭を下げてくる美少年。
しかし、美少年にとっては何故か命を狙われて何故か仲間割れが起こり何故か人が死んだという展開だ。
理由も分からないはずなのに、美少年は深々と頭を下げたのだ。
「いや、君のせいじゃないよ。悪いのは彼と僕だ。
君はただ目撃者だっただけなんだから」
僕はそう言うと地面に横たわっている赤羅城に視線を向ける。
緑色の髪から赤い血が大量に流れ出ている。
今思えば、戦闘狂である彼との日々は少し楽しかった。
この世界に来て出来た初めての男友達であり後輩だった。
性格はヤバい奴だったが、こうして見るとその性格も恋しく思えてくる。
それなのに、こんな別れ方をするなんて……。
「…………赤羅城」
僕は赤羅城に向かって手を合わせる。
すると、キユリーが赤羅城の腕を持ち始めた。
そして身長差のある肩に彼の腕を回す。
「エリゴルさん。私、ちゃんと自首します。
マルバスさんにきちんと報告してきます」
それはキユリーなりの意地というものなのだろう。
キユリーは身長差がありすぎる巨漢を背負う。
けれど、絶対に赤羅城の体を地面に着けることはしなかった。
その行動の意味を僕は悟る。
「僕も行くよ。事情説明は大切だ」
「いえ、これは私の責任です。どんな理由があろうとも殺したのは私。
あなたが責任を背負う義理はありません。それよりもそこの美少年にお話でもしてあげればよろしいかと……」
しかし、キユリーは断った。そして赤羅城の体を背負ったまま、裏道から立ち去っていく。
僕はその赤羅城とキユリーの背中を彼らが見えなくなるまで見続けていた。
こうして2人が立ち去った後。
裏道には僕と美少年の2人しかいない。
「ボクはいったい……」
美少年は静かになった裏道でふと呟く。
確かに、赤羅城が美少年を襲おうとした理由は本人にしか分からない。
それは僕も予想していなかった出来事である。
赤羅城は何かヒントを残していなかったか?
確か赤羅城は『微かに“邪気の匂い”』なんて言葉を言っていた気が……。
「そうだった!!」
思い出した。赤羅城は邪気の匂いを漂わせる強者を求めていたのである。だから、アナクフスにもネゴーテェウムにも行ったのだ。
「あいつは邪気の匂いがすると言っていた。何か心当たりはないかい美少年君?」
「邪気の匂い?
ボクにはさっぱりです。すみません」
即失敗。
美少年の様子から見ても、本当になにも知らない様子である。誤魔化してもいない焦ってもいない。それは赤羅城に言い寄られた時と同じだ。
「はぁ……赤羅城の遺言になっちまったな」
せめて、彼が言い残した目的である邪気の正体くらいは知っておきたくなってきていた。
「けど、絶対その正体掴んでやるから」
僕は改めて決意を行う。赤羅城の目的を叶えてあげるのだ。彼の墓の前で教えてあげるのだ。
そうすることで赤羅城も少しは報われてくれるだろう。
しかし、当の本人が知らないと来た。
これでは情報が振り出しだ。そして日付も振り出しに……。
「日付も振り出し……?」
美少年に僕の独り言が聞かれていたらしい。僕は思わず口を塞ぐ。
だが、美少年は別に気にもしていない様子である。
「そうか。日付も振り出しだ!!」
気づいた。この状況を解決する方法ではない。けれど、赤羅城を死なせないようにはできる。
なぜなら、ループ現象により今日の朝に戻るのだから赤羅城は死なない。
そして後は僕と赤羅城の戦闘を回避すれば赤羅城は死ぬことにはならない。
「ありがとう美少年君。そうだよ。次の僕に繋げるんだ。できるだけヒントを集めておいて……。次の僕が解決してくれればいいんだ!!」
今度は僕の独り言がハッキリと美少年にも聞こえたらしい。とりあえず言葉の意味は分からないが感謝されているということは理解したのだろう。
「何がなんだか。とにかく喜んでいただけるならよかった。
ボクは『アドニス・アムドゥスキアス』。ヴァイオリニストさ。礼がしたい。分かる範囲なら答えるから何でも聞いてくれよ」
「僕は『エリゴル・ヴァスター』。よろしくアドニス」
僕たちは固い握手を行う。
そして、僕は情報収集ということで彼の家にお邪魔することになったのである。




