6 ・フレンド会議+メモ代わり
自称マルバスの実妹であり、ゴエティーア家末っ子の『フレンドちゃん』。
マルバスとバティンの妹というポジションに立っていると自称するこの少女の発言は疑わしいものである。
マルバスからも末の妹がいるなんて話を一度も聞いていない。
それに、今のループ状況を僕以上に理解している。そしてループを回避しながらも、ループを体験している。
しっかし、怪しさ満載の絶対暗躍しているような味方感0の少女を信じてもいいのか?
悩み所ではあるが、今の僕は彼女に頼らざるおえない。
「フレンドちゃん!!
この状況について聞いてもいいかな?
いったいどうなっているんだい?」
「突然本題ですか……まぁ簡単です。昨日に戻らせているだけ。時間が戻っているのではない。誰かが戻らせているんです」
「つまり意図的にってこと?
誰かが昨日を繰り返すために?
人の意思が関わっているというのかい?」
「そうですよ。とある時間になったらブツリッとね。まるで円のようにグルグルと同じ場所を進んでいるんです」
明日がないのではなく、明日に行かせないためということなのだろうか。
それを聞いて少し安心した。
人が原因でループしているのなら、その原因を断てばいいのである。
これが人の意思ではなく、本来残されていた土地性や科学・呪いなどの類いであったなら解決は難しいものであっただろう。
しかし、誰かが戻らせているのであれば、その誰かをどうにかする事で解決できる。
「そうか。その犯人を捜せばいいのか。しかしフレンドちゃん。君は何かを知っているかい?」
「いいえ、20回以上のループであなたに会ったのは毎回この場所でこの時刻です。いえ、あなたが私に気づいた回数とでも言うべきだったかもしれませんが。まぁ、あなたからは何も聞いていませんよ」
過去の僕は結局解決できずに終わったのだ。そして僕の番が回ってきた。さらにこれからも僕の番が回ってくるのだろう。
その度にフレンドちゃんは僕に会い、同じ話をするのだ。
「そうか。なんかすまないなフレンドちゃん。たぶん、この質問も何回も何回も聞かされているんだろう?」
「ええ、ですが慣れましたので。
相手をゲームのモブキャラとでも見下しておけば同じ会話をされても疲れはありませんし……。まぁ、出来る事なら新しい会話でもしてほしいですね。違う話が聞きたいです。なんか運命とか変わりそうじゃないですか?」
新しい会話を頼まれたとしても、それが新しい会話になるのか分かるのはフレンドちゃんしかいない。思い付いた内容が過去に話した内容と同じだという可能性だって充分にあるのである。
僕は申し訳なさそうに笑いながら、彼女の頼みを断ることにした。
「残念ながらそれは無理かな~自信ないや」
「おやおやおや。まぁ、良いでしょう。
しかし、どうやって犯人を捜すおつもりです?
フレンドみたいな平凡人がこの国中を1日で捜しきれます?」
「それは…………」
もちろん手がないわけではない。フレンドちゃんが知らない秘密の僕に授けられた能力を使うことができれば可能性はある。
僕は禁忌の森での“とある一件”から未来予知が出来るという能力を使えるのだ。
その能力のせいで色々と大変な目にはあって来たこともある。
メリットとデメリットの差で言えばデメリットの方が多いくらい。
「『……しかし、今回なら未来の自分が見つけてくれる予知を視ることができれば、なんとかなる』なんて思ってるんじゃないですか?」
僕が考えた事をフレンドちゃんは心を読んだかのように完璧に当ててしまった。
絶対他人に知られないようにしなければならない僕の秘密をフレンドちゃんは把握していた。
「はいはい。『なぜ僕が未来予知を使える事を知っているんだよ!?』なんて声に出して怯えないでくださいよ~フレンド」
僕が口に出そうとした発言までも彼女は流暢に話し始めている。口にも出しきっていないのに……。
「ああ、心配せずとも他言はしません。フレンドとの約束は守ります。おっと今のフレンドじゃないフレンドとの約束なんですよ」
「じゃあ、僕が口に出したというのか?」
ループの最中にフレンドちゃんに教えてしまったのだろうか。国の人にバレたら死刑、罪人の身分になった元凶であるこの能力の事を僕がフレンドちゃんに喋った?
普通はあり得ない話だとは思ったのだがフレンドちゃんがそう言うならそうなのだろう。
「私は前回の戌みたいに匂い……じゃなくて調べあげるほど暇じゃないんですよ。
私は沢山の人々から求められる人気者なんですって言いましたよね?」
聞いてない。言われていない。
言ったとしても聞いたのはこれまでのループの僕だ。今の僕じゃない。
「そうですね。もう良いですよ。いい加減に言っちゃいましょう。話を戻しますよ」
「話って?」
「その作戦は不可能って話ですよ」
「急に酷いなフレンドちゃん。いったい何がいけないんだい?」
「だって、メモ代わりになる私に教えてくれなかった」
そのフレンドちゃんの返答に僕は思わず納得させられてしまう。
ループの影響を完全に受けない(理由不明)フレンドちゃんにその日その日の報告を行えば、ループ後の僕にヒントがあるはずだ。メモ代わりとしてフレンドちゃんを利用できたはずだ。
けれど、それがなかったということは……?
「僕の身に何かが起こったってことか?」
昨日……いや僕が覚えている範囲ではそんなこと起きなかった。
だからその仮説はあり得ないと断定する……なんてことはできない。
運命が変わったのだ。フレンドちゃんと出会うことで……。僕が覚えている範囲とは違う1日に変更されたのだろう。
危険なことでも起こるのだろうか?
「まぁ、危険だとしても強者の側にいた方がいいですよ。マルバスさんは強者です。普通の付喪人相手なら“よほどの事”がない限り大丈夫とは思いますよ。
しかし、獣の場合は難しいんじゃないですかね?」
「付喪人……」
僕とは違う方法で能力を手にいれた者達。
そいつの能力による現象という説もあるのだ。
この国のみを範囲としてループ現象を起こす。そんなことをしでかす能力の持ち主を相手にしなければならないなんて中々苦労することになるのだろう。
「しっかし、いい加減に飽きてきちゃいましたよ」
そう言って自身の肩をポンポンと叩く。
その時、フレンドちゃんが目を反らした時に僕はふと時計を確認してみた。時刻はもうお昼に差し掛かっている。
「昼か……」
昼と言えばそろそろマルバス達がルーラーハウスに向かう時間だ。
「どうしましたフレンド?
合流時間にでもなりましたか?」
「あっ、ああそうなんだよ」
僕はルーラーハウスでの荷物持ちに任命されるはずだ。馬車駐車場からルーラーハウスまで徒歩で歩くことになっている。
もうフレンドちゃんとのお話をしている時間は限られてきたのだ。
「すまなかったフレンドちゃん。それと……これからもよろしく。ループ後の僕を支えてやってくれ」
フレンドちゃんとの別れ。僕はフレンドちゃんに向かって深々と頭を下げる。
その後、裏路地から脱け出そうと方向転換を行った。すぐにでもマルバス達と合流しなければならないからである。
そして、フレンドちゃんはそんな僕の後ろ姿を手を振りながら送り出してくれた。




