5 ・フレンド登録+不審者極まりなし
夢の中でも出会った怪しい少女『フレンドちゃん』。
少女は和服を来ていて肌は今にも消えそうなほど白く、そして飲み込まれそうな真紅の瞳に黒髪のショートヘアーの女の子。
彼女のその笑みの本当の意味も分からない。
彼女が笑っていてもそれが本当に笑っているのか?と疑問に感じてしまう。感情が読み取れない。まるでロボットのように表情を変えることなく少女は笑っている。
「ロボットのようだとはあまり少女には嬉しくないお言葉ですね。
しかし私はフレンドのフレンド。先程の言葉は冗談として大いに笑い返してあげるのですよ。アハハハハハハ!!」
「いや悪気は無かったんだ。傷つけたのなら謝るよ」
僕はいつの間にロボットのようだと口に出したのだろうか。もしも独り言として口から出ていたのなら仕方がないが……。
聞かれていたのなら謝らざるを得ない。
彼女の態度からして機嫌を損ねたという雰囲気は感じないけれど、僕は謝罪を行った。
「いえいえ、気にしないでください。それよりも私に何かご用があるんじゃないですか?」
「そうだった!!」
僕はわざわざ夢の中で出会った少女が現実に現れたので会いに来たなんて理由だけで会いに来たのではない。
確かにその理由もあるのだが……。
昨日では出会わなかった展開。つまり、昨日とは違うイレギュラーな存在に僕はこの異様な状況を解決するヒントがあるのではないかと考えたのだ。
現在、僕がいるのは昨日。
昨日という時間がまた来ている。昨日が終わり昨日が始まっている。
その異様な状況を解決するヒントが必要なのである。
しかし、1つ問題があった。この話を彼女に行って彼女が信じてくれるかどうかである。
今、この異様な状況を理解できているのは僕だけだ。
僕の話は冗談として大いに笑われてしまうかもしれない。
それよりもこの異様な状況を説明できるほど僕も頭がいいわけではない。完全には理解していないのである。
明日に進めないとでも言えばいいのだろうか?
それで伝わるなんてよほどの天才くらいしかいないとは思うのだけれど。いや、天才に話してもバカにされるか。
そもそも、この少女が普通の少女だったら僕の話を信じるはずがないじゃないか。
夢の中で見た少女に今日が繰り返されている真実を告げる?
いや、無理だろう。不審者極まりない。
「えっとだな。その……」
さまざまな問題が浮かんでくる。
けれど、目の前の少女は僕の発言を待っている。
僕は考えることをやめて真実だけを口にすることにした。
「信じてもらえないかもしれないんですけど。昨日……いや今日1日が繰り返されているんだ。
それで夢の中で出会った君の姿を見て、声をかけてしまった。何かヒントがあるんじゃないかと思いまして……」
最悪だ。もう不審者確定演出だ。
フレンドちゃんと自分自身を名乗るこの少女も不審者ではあるが、それを越える不審者が個々に爆誕している。
僕は申し訳なさそうに少女の顔色を伺うと……。
少女はポカーンと頭が真っ白になったような顔をしていた。
もうダメだ。この場から早く立ち去ろう。嘘をついて適当に誤魔化して立ち去ろう。
「いや、すみませんでした。忘れてください。その昔の知人に似ていたんで声をかけちゃいましてアハハハ……。それではすみません失礼します」
そう言って僕は回れ右で方向転換し、そのまま裏路地から出ていこうとする。
そして、裏路地と通りの境目にまで来たとき、少女から声をかけられた。
「昔の知人に似ていたとはうれしいですね。
その知人さんは美人だったのか。その知人さんはフレンドにとってどういう人物だったのか。
是非、お聞かせ願いたいものです」
「…………それは」
知人に似ていたなんてとっさについた嘘のはずだった。けれども僕の心に引っ掛かっている。
なんだろう。この違和感は……。
僕とフレンドちゃんは初めて出会うはずなのに何故か記憶にある顔である。
初対面である僕とフレンドちゃんは知り合いだったのか?
「そりゃそうですよ。もうこの場所でかれこれ20回以上は出会ってるんですから。
私の頭が真っ白になったのは別に話に着いていけなくなったからではないんですよ。
毎回毎回同じ発言を聞いてる私の身にも……あれ? 私何か口を滑らせましたかな?」
フレンドちゃんは首をかしげながら僕の反応を確認してくる。
それほど彼女の発言を聞いた僕の表情は変化していたのだろうか。そう思って後から考えてみてもやはり変化はしていたのだろう。冷静ではなかった。顔芸レベルになりかけの驚愕の顔である。
驚愕の表情だ。
この場所で20回以上会っている。
彼女の口にしたそのワードに僕は驚きを隠せないのである。
とりあえず、今一番気になっている事を僕は勇気を振り絞って彼女に尋ねてみる。
「…………フレンドちゃん。きっ、君は何者なんだ?」
恐る恐る尋ねてみる。すると、フレンドちゃんはニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「その質問を待っていた」なんて彼女は口にすることはなかったが、明らかに雰囲気が豹変したのだ。まるで耳まで口が裂ける幻覚でも視そうなほどに怪しい笑みを浮かべている。裏の考えがあることが丸わかりだ。その人間離れた笑みを見たときに僕は思わず、全身に悪寒が走り、足を一歩退いてしまう。
だが、今の状況を解決するためにはフレンドちゃんの力が必要である。
「そうですよね私の力が必要ですもんね。いつもいつも。このフレンドちゃんの力が必要ですもんね。
おっと……失敬。私が何者か。それはあなたも知っているはずですよ?」
「僕が知っている?」
「えっと……分かりませんかフレンド?
傷つくな~私が誰の知り合いかも分からないんですか?
私ですよ私!!」
オレオレ詐欺のように私という言葉をひたすら繰り返して呟くフレンドちゃん。
自分を指差しながら、彼女は僕が気づくのを待っている。
しかし僕にはさっぱり分からない。なのでシンキングタイム。
「私、私!! 私ですー」
さまざまなポーズを取りながら、僕のシンキングタイムが終わるのを待っているフレンドちゃん。
リズミカルに私私発言を繰り返している。もう歌まで歌い始めた。
そんなフレンドちゃんを待たせるわけにもいかず、僕はもう適当にふと思い付いた名前を口にする。
「まさかマルバスの関係者とか……?」
「そうですそうです。100点満点華丸プレゼント。私はマルバスさんの実の妹、末っ子。真名は告げません。是非『フレンドちゃん』とお呼びください」
フレンドちゃんは改めて自己紹介を行うと、僕に向かってご丁寧にお辞儀を行ってくれた。




