4・ RE +フレンド
どういう事か。訳が分からない。
時間が昨日の朝と同じ時刻を示している。
時計が壊れたのだろうか?
いや、そもそも2日続けてキユリーが外の様子に驚いているのもおかしいし、部屋が違うのもおかしい。
昨日、僕たちはこの国の管理者的存在であるハルファスの住むルーラーハウスに泊まらせてもらっていた。
それがなんで目が覚めた途端に宿屋に帰ってきているのだろう。
僕にはこの状況がさっぱり理解できていない。
なので、キユリーに尋ねてみることにした。
「なぁ、大浴場での事をまだ怒っているのか?」
「大浴場での事? 何の事です?」
キユリーの表情からは誤魔化しているわけではなさそうで、本当に何も覚えていないように見える。
僕だけが覚えているのだろうか。
何故同じ時間を繰り返しているのだ。
「それよりエリゴルさん。いいから早く見てくださいよ!!」
この訳の分からない状況を推理してみようと頭を捻る。
しかし、その考察は邪魔されてしまった。
僕はキユリーに腕を掴まれて無理やりベッドから引き出されてしまったのである。
キユリーは窓の外の景色を早く僕に見せたいのだろう。
自分が驚いたように僕にもこの驚きを共感してほしいのだ。
だが、残念なことに僕はその光景をすでに知っている。今回は驚かない。
……はずなのだが。
キユリーの期待している表情を裏切ることができない。
驚いてほしいという表情でニマニマと頬を緩ませている。
これは僕の演技力が試される時なのだ……!!
失敗した。棒読みというか顔が固まってしまった。やはり僕には演技力がないのだろうか。
何が「ワー、スゲー」だ。カチコチに固まってしまっているじゃないか。
その反応にキユリーは少し残念な表情を浮かべてしまっている。
たぶん僕がこの光景を知っているなんてキユリーも思ってはいない。けれど、反応が薄いと思っているのだろう。
「僕の反応に期待して損した」とでも言いたそうだ。しかし挽回のチャンスはやって来る。
「えっ…………ええ、そうでしょう?
人がこんなにいるんですよ。人流です!!」
「あっ……ああ、そうだな。僕もこんなに人がいる場所を久々に見たよ」
そう言って僕は以前のように窓の外を見る。その時、ふと視線を別方向に向けた。
何のわけもない偶然だ。ただ前にも見た同じ光景を別視点から見てみるのもいいかもしれないと思っただけだ。
だが、その結果そいつは僕の視界に写る。
僕がそいつを発見できたと言える。
人通りの多い人流の中にそいつはいた。
「……!?」
すぐにそいつの姿は人流に消えてく。そいつを見失うわけにはいかない。そいつの存在はイレギュラーだ。
昨日の朝には現れなかったイレギュラー。
僕はそいつに会うために急いで着替え始めた。
すると、その急な慌てように疑問を覚えたキユリーが尋ねてくる。
「どうしたんですか急に?」
「すまないキユリー。僕はちょっと出掛けてくるよ。会議には参加できないかもしれないから行けないって伝えておいてくれ!!」
そう言い残し、僕は部屋を飛び出していく。
急に慌てて室外へと出ていく僕の姿を追いかけるようにキユリーはドアの側までやって来たが。
自身が着替えを行っていないことに気づき、ドアを開けたまま僕の姿を見送る。
「いや、エリゴルさん?
どこに行くんです?
本当にどうしたんですかーーー?」
そのキユリーの疑問を返答することもなく、僕は宿屋から駆け出していった。
外はたくさんの人集りができていて、僕はすでにイレギュラーであるそいつの姿を見失いそうになっていた。
歩いていく人をかき分けて、僕は視線の先にいるそいつの姿を追いかける。
大混雑。人々が店を求めて歩いているため、まるで縁日のように人が多い。
押し潰されそうになりながらも僕はそいつの跡を追っていた。
「ちょっと待って!!」
僕がそいつに呼び掛けた声もそいつには届かなかったらしく。
どんどん先へ進んでいく。
僕は人混みを掻き分けながらそいつの跡を追い続ける。
それから、どれ程歩いただろう。
「なッ!?」
僕の視界から急にそいつの姿が消えたのだ。
見失ったのだろうか?と僕はその場で立ち止まり、周囲を見渡す。
すると、すぐそこに裏路地へと続くであろう曲がり角を発見。
そいつがそこにいるとは限らない。それでも僕は一応その裏路地へと入っていく事に決めた。
そして裏路地を進んでいく。
人通りは先ほどまでとは真逆で全くいない。
下手したら、こういう裏路地で違法商品でも売られているのではないかと覚悟して入っていったのに……。本当に誰もいない。
一方通行。日陰で暗くなっている裏路地を進んでいくと……。
「やぁフレンド。私に用でもあるのです?
私でよければ相談に乗りますよ?
私はフレンドのフレンドなんですからねぇー」
そいつは裏路地で僕を待ち伏せするように待っていた。
そいつは僕の夢の中で現れた少女である。
夢の中出会った少女は和服を来ていて肌は今にも消えそうなほど白く、そして飲み込まれそうな真紅の瞳に黒髪のショートヘアーの女の子。
僕が夢の中で見た少女と瓜二つの少女が僕を待ってくれていたようだ。
──僕はとある一件から予知を見ることができる。予知や予知夢を見ることができる。
そして僕はこの少女と話をする夢を見た。それが予知夢なのかは分からない。
けれど、夢に見た少女が目の前にいる。
つまり、この状況は僕の分岐点となる未来。
解決策も思い付けていない未来。
ここから先に何が起こってもそれを覆すことはできない。この少女に何をされても僕はそれを改編することはできない。
この少女が敵であっても味方であっても……。僕はこの少女との未来を受け入れなければならないのである。
「そんなに警戒しないでくださいよ。取って喰ったりしませんから。フレンドはこの私『フレンドちゃん』の大事なフレンドです。
それよりも私が必要なのでしょう?」
少女は自分自身を『フレンドちゃん』と名乗ってニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
まるでなにかを企んでいるみたいだ。
だが、しかしこの少女に頼らざる終えない。
この異端な現象を解決するためにはイレギュラーである彼女との関わりが必要なのだろう。
僕は勝手にそう思っている。
この異端な現象を解決しなければない。そのためにこの現象に気づいている僕が動かなければいけない。
───しかしこの時の僕は失敗した。今回だけではなく統計的にだ。
この出会いがなかったら僕の人生は地獄ではなく、何の後悔もない人生を歩んでいけただろう。
いや、そもそも他の場所で出会っていた可能性もあるか……。
まぁ、今から未来の出来事を後悔しても仕方がない。
とにかく、この少女との出会いが僕の今後の人生を狂わせていく事をこの日の僕は想像もしていなかったんだ。
ただし、それもまたこれからずっと先の未来のお話である。




