3①・『ハルファス・アフトマット』+同盟作り
「さぁ、どうせなら食べながら話しましょうか。この国で一番腕のいいシェフ達が作った料理でもいかがです?」
どうしてこうなったのだろう?
僕たちの目の前には今たくさんのご馳走が並べられている。
まるで誰かの結婚式パーティー会場のような広い大広間に、さまざまな料理が並べられている。
それなのにこの部屋にいるのは6人だけ。
赤羅城とキユリーの2人は夢中に料理を食べている。
皿に盛られたタワーのような白飯と大量のおかずを2人はガツガツと食べていた。
僕とマルバスはグラスに注がれた飲み物を飲みながらソファーに座っている。
マルバスはワインを僕はジュースを飲んでいた。
そして、残りの2人はこの大大豪邸の使用人のお爺さんと大大豪邸の持ち主。
使用人のお爺さんはスーツ姿で持ち主の側に立っており、ソファーに座っているのは持ち主だけである。
「さて、客人に名を名乗らないのは無礼だな。私は『ハルファス・アフトマット』。このネゴーティウムを管理している管理者……いや国王の地位か。
とにかく一番偉いのが私です」
白銀の長髪に、キリッとした黄緑色の瞳の女性。
昔の海外で偉い軍隊の人が着ていたような黒い軍服風ワンピースを身にまとっている。さらに帽子も黒い軍帽であった。
その服にはたくさんの勲章などが付けられており、名高い人物であるという事は人目で分かる。しっかり者の真面目な雰囲気の女性である。
それが僕の目の前にいるこの大大豪邸の持ち主である『ハルファス・アフトマット』さんであった。
時を戻そう。
人混みを避けながらルーラーハウスにたどり着いた僕たち。
ルーラーハウスはお城でもなく豪邸であった。
しかし、その豪邸。
国の中央に位置しているにも関わらず、建物の規模が尋常ではなかった。
広大な庭にはさまざまな種類の花や彫刻が植えられて、その先にある建物はまるで宮殿のような形である。
そんな大大豪邸の中に僕たちは入っていったのだが、玄関の部分(ドアもなく広々とした入り口)にて1人の使用人のお爺さんが僕たちを出迎えてくれた。
そして、その使用人に案内されたままたどり着いたのがこの大広間である。
……という流れで今はこの国の管理者である彼女とマルバスは対面しているのだ。
そして今回彼女がこの国に来た1つの理由としてあげられる同盟作り。
その交渉が今僕の目の前で始まろうとしていた。
「此度はこのような歓迎の場を設けていただきありがとうございます」
「いやいや他者への礼儀は昔から鍛えられて来たのです。お気になさらず。
それに私も嬉しいのです。モルカナ国の方々が同盟相手として“一番”に私を頼ってくれたことが……」
ん?
同盟相手として一番に彼女を頼った?
ハルファスは不思議なことを言う。
同盟相手として最初に頼ったのはこの国ではなくアナクフス国の方だったはずだ。
僕はそのことについて疑問に思っていると、マルバスが静かに人差し指を口元に寄せるポーズを取ってきた。「黙ってろ」と言うことだろう。
「そうですか。我らにはハルファス殿のお力添えが“一番”必要なのです。あなたの力が“一番”に!!」
「フュゥ~“一番”~。
オホンッ、連絡は事前にヴィネ殿から聞いておりますので……。今日の内容も把握はしております」
「それでは我が国と共に魔王国と闘ってくださるのですか?」
嬉しさのあまり声をあげてしまうマルバス。
ハルファスは静かに1度うなずくと、さらに付け加えた。
「しかし、闘いはしません。あくまで支援という形です。【物品支援】のみですよ。
この国には古今東西ありとあらゆる品物が売られています。その支援物を渡しましょう。戦には必要ですよね?」
「いえいえ、構いません構いませんとも!!
いや~やはり貴国を“一番”最初に頼りにしてよかったです」
マルバスの台詞にまた一番と言う単語が入っている。
その単語を聞くたびにハルファスは嬉しそうに微笑みながら話を続ける。
「そうでしょうそうでしょう。
実は私も魔王国には恨みがありましてね。先日我が国に輸入されるはずだった高級鉱石ララドライと大事な商品を魔王国を名乗る連中に奪われたんですよ」
「そうですか。では、その恨み我らと共に晴らしましょうぞ!!」
そう言うとマルバスはハルファスに向かって手を差しのべる。
ハルファスは出された手を握り返し、握手を行った。
これで契約は成立された。
今は単なる口約束ではあるが、僕の持たされている荷物の中には契約書と大量のお金が入っている。
それをハルファスに渡すことができれば、正式に同盟作りは完了らしい。
2人の握手が終了したタイミングで僕は持たされていた荷物の中身をハルファスに差し出す。
ハルファスは目の前に出された契約書に向かってペンを滑らせながら、ふとマルバスへと呟いた。
「この契約書を書けばいいのですね?
それで…………あの……1つよろしいでしょうか?」
「はい?
どうされましたかハルファス殿」
「私はあまり他国の管理者と会談を行ったことがありません。それ故に今晩はこの場で過ごしませんか?」
「なるほど……それならば喜んでお受けいたします」
マルバスは営業スマイルでハルファスに返事を行う。
すると、ハルファスはホッと安堵した表情を見せ、直ぐに契約書に向かった。
「やった~。フンフフーンフフフーン」
鼻唄まで歌いながらペンを走らせている。
マルバスとの御泊まりがよほど楽しみなのか。
最初のキリッとした印象はどこへやら。
しっかり者の真面目な雰囲気は今の彼女からはまったく感じとることができなかった。
これまでの会話から考えてみると、おそらくハルファスには“一番”と言う単語が効果的なのだろう。
最初のキリッとしたしっかり者の真面目な雰囲気が一番と言われ続けたお陰で今ではすっかりハイテンションになっている。
そんな様子の彼女を見て、僕はふと「この人に一日中一番一番と誉めていったらどうなるんだろう?」という疑問を浮かべてしまう。
頭の中で彼女がどうなるのかを妄想してみる。
しかしすぐにエッチなことに繋がる妄想や死んでしまう妄想などと結び付いてしまう。
活字のお陰でその妄想を披露することはないが、どちらも良い結末を妄想できない。
どうなるか試してみたくなる……。
しかし、そんな機会が来るはずもなく、そんな無礼なことをしたらマルバスに殺されかねないので僕はこれ以上妄想するのをやめることにした……。
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一方その頃、もう夕方に差し掛かった頃。ネゴーティウムにある客足も少なくなった1つの裏道にある階段に座る1人の男。
彼は白いシャツとズボンという単純な服装を着ており、手にはヴァイオリンを持っていた。
その姿は白い髪に赤い目をした好青年というよりは美少年と呼ばれるくらい美しい。
そんな彼は人通りもない階段に腰を下ろしていた。
彼は今日一日中この場所でヴァイオリンを引き続けているのだ。
そのすべてが美しい音色であり切なさを感じさせる曲ばかりであった。
そして次が最後の曲。
沈んでいく夕日を見ながら美少年はヴァイオリンを弾き始める。
これは彼が最期に弾こうと決めていた曲である。
そして今日が最期の日。今日も観客もいない最期の演奏。
彼の生涯最後の演奏は誰に見送られることもなくひっそりと終演を迎えるのであった。




