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2・人流+初日の会議

 時刻は朝。


「おっきろー!!」


数時間しか寝ていない状況で僕もまだまだ寝たりなかったのだが、キユリーに叩き起こされた。

いや、叩き起こされたではなく飛び蹴り起こされたがこの場合は成功だろう。

せめて、最初から普通に起こしてくれていて飛び蹴りならば分かる。

しかし、最初から飛び蹴りとは如何なものか?

僕がそんな不満をぶちまけてやろうと決意するよりも早く、キユリーは大慌てで窓の外を指差している。


「マルバ…………エリゴルさん。窓の外です。窓の外!!」


「はぁ、またか………………」


名前を間違えてしまいそうになりながらも、キユリーは興奮しながら僕に告げる。

僕に窓の外を見てほしいようだ。

その様子を見た僕は怒る気も無くしてしまい、キユリーの言う通りベッドから降りる。

そして、蹴られた腹部を手で擦り、アクビをしながら窓の外を見てみた。




 ここは町外れである。

建物が並ぶ道路の側の一部分である。

それなのに、窓の外にいるのは大行列と言えるほどの人だかり。


「ヘイ、そこのお客さんどうですか?」

「いらっしゃいませーーー!!!!」

「今からタイムセール開始です~」


僕は窓をこじ開けて、顔を出してみる。

2階から見るすぐ下の道路にはたくさんの人々がお店を開き、たくさんの人々が物を購入しにやって来ている。

その人流が道路の端から端までずらーっと途切れていない。

きっと国中に数えきれないほどの買い物客やお店があるのだろう。


「ほわっっ…………」


こんなにたくさんの人が集まっているのを僕は見たことがない。

大都会というほどの見た目でもなかったこの町が人間の数では大都会を圧倒している。

僕が人の多さに驚きながら窓の外を眺めていると、キユリーが側によって来た。


「エリゴルさん。ヤバくないですか?

この道を歩いている人々って全員お客なんですよ!!!!」


「ああ、スゴい人集りだ。ほんとヤバいな。これが大商業国」


僕は朝の恨みも忘れてキユリーと窓の外を物珍しく眺めていた。





 宿屋の外にある馬車駐車場。

そこがエリゴル達の会議場となっている。

宿屋では誰に聞かれるか分からないという不安もある。

なので、この馬車駐車場に集まることになっているらしい。


「普通に部屋がよかったですね……」


「まぁ、マルバスが決めたんだし……仕方がないんじゃないか?」


着替えて部屋から出た僕たちはマルバス達の部屋を訪ねてみたのだが、そこには誰もいなかった。

なので、会議場とされている馬車駐車場へと向かっている。

そこはすぐ近くなので距離的にもなんの問題もないのだが……。

馬車駐車場に行くためには通りを渡らないと行けないので、しぶしぶ渡りきったのである。

もちろん、その通りにはたくさんの人集りが出来ていたので、押されまくっての移動ではあった。

僕としては少し窮屈といった感じなのだが、背の低い子供であるキユリーは僕以上に苦労していたので、疲れきっている様子だ。

そんなキユリーは僕にまだまだ愚痴を呟く。


「だいたい、なんで私が同盟作りと武器の買い物に付き合わなきゃいけないんですか…………はぁ」


確かに、キユリーが着いてきてくれた理由を僕はまだ聞いていない。

マルバスは同盟作りと武器の買い物。

赤羅城はおそらく僕と同じ罪人の身分で命令されたから着いてきたのだろう。

では、キユリーはなぜあの場にいたのか……。


「なぁ、キユリー。お前はなんでモルカナ城にいたんだ?」


「えっと……ですね。私ははめられてしまったのです。

まず、珍しい薬草が必要だとお城に言われたので、それを持っていきました」


「なるほどなるほど。僕が助かったのはお前の薬草のお陰か」


「はい。感謝して崇めて奉ってほしいです。

それでは話を戻します。私は薬草を渡したお礼も貰えたので帰ろうとしたんです。でも、帰るタイミングを見失いまして……」


「ふむふむ」


「どうせならお城暮らしとかしたいじゃないですか?

なので、勝手に一室借りて暮らしたり、勝手に城内関係者割引でご飯を食べたり、勝手にちょっとお城のお金で競馬場に行きました。

そしたら『これまでの事は許してやるから協力しろ』って言われちゃいまして。

ほんと、いったい誰が私をはめたんでしょうね」


自覚のないキユリー。

「勝手に部屋に住み着き、勝手にご飯を食い、勝手にお金を盗ってギャンブルすればそうなるだろ」とエリゴルは思ったが、それを口にすることはしない。

勝手が過ぎて怒る気にもなれない。ただ、呆れてしまった。


「お前のせいだろ」


それだけを口にしてエリゴルはキユリーから少し離れるように歩幅を大きくしながら歩き出した。




 馬車駐車場。そこにある一台の馬車の中に男女計4人がいた。

昨晩の時とは違って荷物もなく4人が揺ったりと座れるスペースができている。


「よし、みんな集まったな。これより此度の目的を説明する!!」


マルバスの一声で全員がマルバスに視線を向ける。

これから今回の目的の説明についてマルバスの口から語られるのだ。

武器の買い物と対魔王国のための同盟作り。

僕は事前にそう告げられていたので、その2つについての詳しい説明を今からマルバスが行うのであろう。

しかし、赤羅城はつまらなそうにマルバスに提案を行う。


「つっても、友の姉貴。今回の目的ってのは武器の買い物と同盟作りなんだろ?

それなら、この国占領しちまえば武器も同盟も結べるんじゃねぇの?」


「赤羅城。攻め込み奪い取るのも得策ではあるが、オレはそういうのは好きじゃない。

ここでの指揮はオレだ。なのでオレのやり方でやらせてもらう。

だから、前回みたいに勢力に加わることもないだろう。

赤羅城、お前にはそれを理解していてほしい」


「ちぇっ…………つまり俺は本当にただのボディーガード役かよ」


赤羅城はそっぽを向いてつまらなそうに両手を頭に当ててしまった。

確かに、他者との戦闘が大好きな赤羅城には今回の目的は釣り合わないのかもしれない。

前回の国と比べてこの国は平和すぎる。

正直、平和なのに越したことはないのだが、こうも前回との差が激しくなるとは思わなかった。





 そういうことなので、僕も最初は前回のように戦闘を覚悟していたが、少しホッとしているのだ。

ようやくマルバスとの平和な旅行というか観光ができるかもしれない。マルバスとの旅行……。


「エリゴルさん。旅行ではなく仕事です。私たちは仕事をしに来たんですから、くれぐれも浮かれないように……」


僕が楽しい旅行を妄想しようとした時にキユリーからの注意を受ける。まるで僕の心を読んでいるかのようだ。


「読んでいるのは文章ですがね」


メタ的な発言をするキユリー。


「…………」


僕はただ黙っている。キユリーに対しても無反応。

なぜなら、今回の目的は僕の恩返しでもあるからだ。みんなに心配させた分、僕は働いて償わなければならない。

手柄を勝ち取り、お城のみんなに認められなければならないのだ。


「マルバス。話を続けてください」


「…………エリゴルから凄いやる気を感じる。

あっ、さて、赤羅城の言う通りだ。

まずは同盟作りを先に行う。

この国を支配する貴族との対面が今日の昼からだ。

場所はこの国の中央にある大大豪邸。別名『ルーラーハウス』」


「「「ルーラーハウス?」」」


「ああ、今から向かうぞ。

あとこの荷物をキユリーとエリゴルに渡す。今日のお前たちは荷物持ちだ」


ルーラーハウスという場所で僕たちは会談を行うらしい。

僕とキユリーは荷物持ちを命じられる。

そして、僕たちはマルバスから大きなバックを3つ渡された。

いったい何が入っているのか分からないが、なかなかの重量だ。

これをルーラーハウスまで運ぶとなるとなかなか体力的には大変なのかもしれない。


「…………キユリーにはキツいかもな」


「エリゴルさんこそですよ。私が2つ持ちましょうか?」


僕とキユリーはお互いににらみ合いながら、煽り合っていると……。

マルバスは腕を上に伸ばしながら立ち上がった。

そしてそのまま馬車の入り口付近まで歩くと、僕達の表情を見ながら立ち止まる。


「おい何をしているんだ。もう今日の会議は終了だ。ルーラーハウスには今から行くんだよ。くつろいでないで早く行くぞ?」


今から行くとは聞いていない。

赤羅城もキユリーもマルバスの後を追うようにして、席を立つ。

しかし、僕はこの国の権力者に会いに行きたいと思えなくなっていた。

それはこれまでに会ってきた国の権力者の印象はどれも最悪だったからである。

モルカナ国では奇妙なペロペロ領主。

アナクフス国ではワガママ青年国王。

そして、今回ネゴーテェウムではどんな管理者が現れるのか?

僕はため息をつきながら、立ち上がる。

正直、行きたくないが仕方がない。

そして一番最後に馬車から出ると、彼女達の後を追うのであった。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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