1③・到着+新しい旅立ち
バティンはマルバスの妹である。マルバスを溺愛している妹である。
マルバスのために生きてマルバスのために死にたいと本気で考えてる女であった。
最初から僕のことを彼女とは色々とあって、少しは仲が良くなってきていたのだが……。
前回は旅を共にした彼女がこの場にはいない。
その現状は僕にはなんだか不安だった。
アナクフスで僕が気絶してからの出来事を僕は何一つ聞けていない。
もしもバティンに何かあっていたら……と思うと不安になる。
「ああ、バティンか」
マルバスは足元を見ながら、妹の名を口にした。
(やはり何かあったのだろうか?)と表情が強張っていく僕にマルバスは慌てて説明を付け加えた。
「いや、無事だぞ。バティンは無事だ。無事なんだが……」
「じゃあどうしていないんですか?
あいつならマルバスが行く所どこでも着いていくはずでしょう!!」
そういえば、バティンの事で思い出したが……。みんなはどうなったのだろう。アナクフスにて出会ったみんなは生きているのだろうか。ナベリウスさんは生きているのだろうか。
どんどんアナクフスでの出来事を思い出していく。
目覚めて時間が経過した今の僕の脳みそは冷静になっているのだ。
僕にはアナクフスで気絶して以降の出来事を知らない。誰がどうなったのかを知らない。
そんな不安を解決してくれたのは新入りである赤羅城であった。
「罪人先輩。友なら友父と家老に別の仕事を頼まれてるぜ?
“大事な仕事”だそうだ」
友=バティン。
赤羅城が友という時はそういう意味であったはずだ。
「仕事……そうか。ヴィネからのかぁ」
赤羅城のお陰で少し安心した僕は積み荷に埋もれていた座席に座る。
生きてた。バティンは生きていたことが確定している。
すると、安心する僕にマルバスは申し訳なさそうな表情で謝罪を行ってきた。
「ああ、我が妹はそういう事情なんだ。
だがエリゴル。すまない。
アナクフスの事はわからないのだ。
オレは瀕死のお前を優先していたからな。お前以外の何も確認していなかった。
帰ってきてからも……。指令の事で頭がいっぱいだったんだ。
だから、確認する時間もなく……ほんとすまない」
「…………いや、僕こそ。少し焦りすぎてた」
これで明らかになったのは2つ。
バティンは無事。アナクフスのみんなの現状は不明。
目覚めて1日目にしてはそれだけでも知れれば充分なのかもしれない。
アナクフスのみんなの事については今度手紙を書いてみることにしよう。
きっと返事が帰ってきてくれる。
僕はそう信じて今回の指令に頭を切り替えることにしたのである。
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ネゴーテェウムにたどり着いたのはもう深夜3時頃。
町はすっかり暗くなり、寝静まっている。
誰1人としてこんな真夜中に出歩いている人たちはいない。
「なんか普通の町みたい」
キユリーがふと呟く。確かに、異国という印象が感じられない。
それが深夜だからなのはもちろん分かっているが……。
それでもなんだか少し残念な気分にはなってしまう。
期待していた分、その反動が大きいのだ。
「「はぁ……」」
窓の外の景色に思わずため息をついてしまう僕とキユリー。
というかすごく眠たい。睡魔が襲ってきてる。
僕ら2人はしばらく窓の外の景色を呆然と見ていると……。
とある場所で馬車は停車した。
マルバスは窓の外を見て、外の看板を確認する。
その看板はおそらく宿屋の看板だ。
「着いたようだな。まずは積み荷を運びいれるか。エリゴル・キユリー頼ん……。いや、赤羅城、手伝ってくれるな?」
「ああ、友の姉貴。任されたぜ」
赤羅城は積み荷を4つほど持つと、馬車から降りていく。そして馬借のおじさんと一緒に積み荷を宿屋に運び始めた。
残されたのは3人。
眠たい2人とマルバスである。
「さて、キユリーとエリゴル疲れてるな。
お前らは同室だから、もう宿屋に入ってていいぞ。
部屋はすでに予約済み。部屋番号は202だ」
マルバスはそう言うと、僕達の背中を押しながら馬車から追い出す。
眠たい僕らは彼女達の作業の邪魔になるのだろう。
「ほら、いくぞキユリー。部屋は202だ」
「ふぁーーい。私は眠くないでs」
僕とキユリーはなんとか意識を保ちながら、マルバスに言われた宿屋へと向かって歩く。
積み荷はあとで赤羅城が各自の部屋に運んでくれるらしい。
……というかもう何も考えたくない。
僕とキユリーは途切れそうになる意識の中でなんとか202号室までたどり着く。
そして、部屋に入ると僕たちはそれぞれベッドに倒れる。
その後、僕たちは朝が来るまで眠り続けていたらしい。
────この夜からすでに僕らは巻き込まれていたとも知らずに………………。




