1②・出発+新しい旅立ち
10分間の地獄のスキンシップ終了。
なんとか生き延びたキユリーは地面を這っていた。僕から離れるように移動している。
「マジで変態の性格は変わりませんね変人さん。R18指定ギリギリのスキンシップをどうもありがとうございます!!!!」
僕の顔を見ることなくキユリーは疲労感漂う雰囲気で僕に対してお礼を言ってくれた。
「バカっ。褒めるなよ」
「褒めてないですよ!!
あの……依頼主さんのお姉さん、こんな出会い頭になんて聞いてません。この変態はやはり死罪にするべきです!!」
「今の場面、何か問題だったか人力車屋?」
「ケッ、この国の奴ら狂ってやがるです……」
こうして、マルバスにも見捨てられたキユリーは力尽きたようにベッタリと地面に顔をつける。
そして、かの有名な人体図の逆バージョンみたいな感じで両手足を動かすキユリー。
キユリーはなんとなくその行動を行ったみたいだが……。
「……!?
ミョーンミョーン」
意外とその行動が癖になったらしく、しばらくの間は両手足を動かし続けていた。
さて、キユリーが謎の行動を取っている間に僕たちは馬車に荷物を運びいれていく。
ネゴーテェウムという国に行くための準備だ。
僕はマルバスから頼まれた物を城内から探して、それを積み込む。
指示係はマルバス・探し出して来て詰め込むのが僕。
こうしてある程度の量の積み荷を乗せた時である。
マルバスは一番に馬車に乗り込むと、窓を開けて下にいる僕たちに声をかけてくれた。
「よし、2人とも。2時間後にここに集合だ。それまでに各自準備を済ませておいてくれ」
「「サー、イエッサー!!」」
しばし地面で土を集めて棒倒しを行っていた僕たちはマルバスの指令を聞き、立ち上がって敬礼を行う。
「エリゴルさん。2時間の自由時間ですよ。何します? 何します?」
キユリーが遊園地で何に乗るのかワクワクしながら考えている子供のような笑顔で僕に話しかけてくれた。
やはり、こうして見るとキユリーもまだまだ子供だ。ここは青年として素晴らしい2時間の使い方を教えてあげなくてはいけない。
「よし、それじゃあ売店でお菓子買おうぜ」
「真っ先にお菓子って…………。
あんたも考えが子供じゃないですか。
───ですが、いいでしょう。
どちらが300円の予算で多くお菓子を買えるか勝負しましょうか!!」
「勝負か。それはいいな。しっかしお主も子供よのぉ」
「いえいえ、エリゴルさんには勝てませんわ」
「「ワハハハハハハハハハ!!」」
気分が上がってきた僕とキユリーは肩を組ながら売店へと一緒に歩いていく。
これから行われる決戦の前の一時的休戦というやつだ。
2時間後。日も暮れそうな夕方。
マルバス達がすでに乗り込んでいる馬車に慌てて僕たちも飛び乗るようにして駆け込んだ。
そして、馬車はネゴーティウムに向けて出発。
揺れる車内は荷物が充満していて運良く人4人がギリギリ座れるスペースが確保されていた。
そこにはすでに2人の乗客が居座っており、空いている席はちょうど僕たち2人分のみである。
「お帰りエリゴル。……ってなんなんだその怪我?」
微笑しながらマルバスに出迎えられた僕。
キユリーは機嫌を悪くしているが怪我もなく健康そうな様子。
僕は噛み跡や殴られ跡が残る痛々しい様子だ。
それもそのはず、僕たちは先程まで殴り合いの喧嘩を行っていた真っ最中であったからである。
「300円以内お菓子購入数対決は引き分けだったので……」
「叩いて被ってをしていたら……」
「そのまま喧嘩ってか?
カッカッカッカッ!!
さすが罪人先輩だぜ!!」
僕達の台詞を奪い取るようにして1人の男が大笑いしている。
僕は揺れる車内でもバランスを取りながら見覚えのある男に指を指した。
「お前…………朝の!!」
「ああ、また会ったな罪人先輩。今回は俺があんたらのボディーガードだ」
今日の朝、僕を起こしに来てくれた赤羅城との再会である。
(もしかしたらこいつがいるからこの馬車が狭く感じるのか?)なんて思いたくなるほどの巨体な男。
じゃあつまり、今回はマルバス・エリゴル(僕)・キユリー・赤羅城の計4人での出張と言うことなのだろう。
……ということは?
「マルバス。バティンはどうしたんだ?」
僕は久々に彼女の名前を口にした。
前回のあの日から半月。
あの日以来僕と彼女は出会っていない。




