2④・救出+禁忌の森
今、僕の目の前には竹林が広がっている。
あれから御神木を後にして、木々を越え、川瀬を渡り、夏休みの大冒険と言えそうな冒険を繰り広げたのだが……省略しよう。絵日記にでも書きたい内容ではあったが、高校を卒業したのでそんな課題は出されていない。
───現在、僕の行く手を遮るように竹林が生えていた。
この竹林。明らかに怪しい。
もと光る竹なん一筋ありけてそうな、三寸ばかりなる人がいそうな竹が沢山生えている。
まるで自分が竹取の翁にでもなった気分のまま、僕は戸惑うことなくその竹林へと調査に向かう。
それから、何分歩いただろうか。僕は竹林の中でも足元に気を付けながら転けないように歩き続けていた。辺りを見渡す限り、竹だらけ。
永遠に続いていく竹林。
いや、正確に言うと、その竹林が永遠と続いているというわけではなかった。
確かに、竹林の中はとてつもなく長く。今度は木々じゃなくて竹林を見飽きることになるのか。なんて、考えていたのだが……。
その無限に続くような竹林の中に1つだけ洞穴を見つけたのだ。
洞穴というよりは洞窟。
この呑み込まれそうなクラヤミの奥には何がいるのだろう。
入ってみたかった。僕のこの洞窟への好奇心は、子供を救うという目的よりも順序が逆転しそうだった。
竹林の中にひっそりとたたずんで大口を開けている洞窟の中には何がいるのだろう?
パンダだろうか。いや、パンダは笹を食べるから違う。竹と笹。似ているようで違う物。
そういえば、なんで僕はこの竹林を見て一目で竹林と分かったのだろうか。
「う~ん。直感でそう思ったからそう考えた」ってだけなのだろうけれど……。
何かを知っていた?
いや、何かを見たのだろうか。
まぁ、そんなことはどうでもいい話として、問題はこの洞穴だ。
「入るか? 入らないか?」
二択問題。
僕としては答えは前者を選びたいのだが……。
なんだろう。好奇心を覆したくなるくらいにおう。
怪しいという意味の“匂う”もあるけれど、“臭う”の方が強い。臭いが強い。
臭いのである。獣臭というやつだ。
「ッ…………!?」
あまり獣臭を嗅いだこともなかった僕なので、慣れてはおらず、その場からゆっくりと立ち去る。これは離れた方がいい。先程の答えは“入らない”だ。
それに怪物や化物・狼や熊にでも会ってしまえば、異世界に来てまで殺される。熊殺しの才能は持ち合わせていない。
こんなところでは死にたくない。僕は元の世界に無事に帰りたいのだから。危うく好奇心に負けて入るところだった。反省。
しかし、何もないだけではなかった。竹林に入ってきたことは無駄ではなかった。
竹林を抜けた先、そこは竹林を円のようにして囲まれていたようだ。
そこだけ、穴でも空いたかのようにポッカリと広々とした空間が出来ている。
その部分にだけ竹は生えておらず、草がチラッと生えているだけであった。
そこにいた。
当初の目的を忘れかけていた僕は、それを見た瞬間に思い出せた。
2mほどの岩の上に少女が寝かされている。
彼女がキユリーの言っていた子供であるという確証はないが、きっと彼女以外にいない。
遠目で見たところ傷もついておらず、怪我もしていない無事な状態。ただ、岩の上で寝かされているというのは不思議ではあるが、きっと疲れて寝てしまったのだろう。そういうことにして平和的に考える。
仮にこれが罠だとしても助けなければならないはずだ。
周囲を見渡すが何者の気配もない。
子供を連れ去った誘拐犯の姿は見当たらない。
「よし……!!!」
なるべく音を発てず、更に素早く。
俺は岩の近くへと向かう。
そんな最中でも辺りを警戒することはやめない。
そうして、無事に岩のもとへとたどり着いた俺は岩の上で眠らされている少女に声をかける。
「おい……おーい?」
「…………」
返事はない。呼吸はしているので屍ではないのだが、死んだように眠っている。生きている。無事だったようだ。
寝た子は起こすななどと言われるかもしれないが、緊急事態だ。こいつがどれ程危険な場所で眠っていると思うのか。
一刻も早くこいつを起こして連れて帰らなければ、いつあの洞穴の主に鉢合わせする変わらない。案外、この僕とこいつの匂いを嗅ぎ、動き始めているかもしれないし、洞穴に帰る途中かもしれないが。
どちらにしろ、鉢合わせするのはゴメンである。
多少乱暴だったが、僕は無理やり少女の肩を掴み激しく揺らす。
「起きろッ……起きろってば!!」
「………ッ…」
微かに反応があった。生きてる。
「………………私は…………」
微かに少女の口から言葉が発せられる。
「私は妻。私は奥さん。私は家内。私はかみさん。私は奥様。私はワイフ。私は女房。私は私は配偶者。私は巫女の分際。…………私は………ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
その台詞に僕は一歩足を退いた。
この少女は気が狂っているのかと思った。
目を覚ました途端に涙を流してこんな台詞を吐かされている。狂っている。狂っていないわけがない。
これが無事?
こんな少女に洗脳じみたことをしている奴がいるなんて……。
僕は苛立ちで拳を強く握りしめる。
その犯人がいれば今すぐ殴ってやりたい気分になったが、不幸にも辺りに人影はない。
いや、幸運というべきか?
戦う相手がいないのであれば、このままなんの障害も無しに連れて帰れる。
「おい、いくぞ!!
この森から抜けるんだよ!!」
乱暴ではあったかもしれない。僕は無理やり少女を起こし、腕を引っ張る。だけど、このときの僕は冷静な状態とは言えなかった。今すぐここを離れて、安全な場所に行きたかった。
速く、この娘を元の状態に戻してあげたかった。この洗脳を解いてあげたかった。
こうして、僕はその少女の手を引きながら走る。
大丈夫、ずっとまっすぐに歩いてきたんだ。
多少、川瀬とかはあったが、少女が濡れないようにおんぶしてあげればいい。
少女は涙を服で拭いながらも、僕の引っ張る手を拒否しようとはしなかった。
不思議そうな驚いている顔をしてはいたものの、僕の振り払おうとはしなかった。
それだけでもありがたい。少女に逃げようとする意思がないのはありがたい。
僕たちは森の中を走る。走る。走る。
「クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ!!!!!!!!」
どこからか聞こえてくる音を無視して僕と少女は走り続けた。
【今回の成果】
・迷い込んだ少女を見つけたよ




