1①・おはよう+新しい旅立ち
この日は珍しく記憶に残らない夢を見た。誰かと話をする夢だ。彼女が誰なのかは分からない。
夢の中出会った少女は和服を来ていて肌は今にも消えそうなほど白く、そして飲み込まれそうな真紅の瞳に黒髪のショートヘアーの女の子。
彼女の言葉は意味も理解できない謎の言語であったが……。
別に敵意を向けられているというわけでもなかったので僕と謎の少女はお話をしていた。
そんな夢を見ていたのだ。
─────────────
僕が眠っていると、ドアを蹴破って入ってきたのは巨漢の男であった。
その男。赤い甲冑を着た大柄な若き男である。
身長は2mを超えているだろうか。ギザギザと尖った白き歯に、黄色い瞳と緑色の髪。
僕の知らない男だ。
「起きろコラァ!!
早起きのお使いの時間だぜぇぇぇぇ!!」
そいつはドアの開き方も知らないようで、蹴り飛ばしたドアを僕のベッドにぶつけてくる。
その大声で衝撃で目が覚めてしまった。
「クソ、ついに知らない男から起こされる展開かよ。前まではどんな起こし方でも女の子たちが起こしに来てくれたから良かったけど。今回は別だ!!」
僕は怒りのあまり思わず、ベッドの上に立ち上がって巨漢の男と視線を合わせた。
ベッド+僕の身長でようやく知らない男の目の位置と合わさる。
「おっ、今日は反応アリか。
なんだ。元気そうじゃん!!
いい元気だな。よし表出ろ相手になってやる!!」
「キャアアア、こいつ喧嘩っ早いわ。てかお前は誰だよ。助けてマルバス~。
知らない男に襲われるぅー!!!!」
目覚めたら知らない男に襲われるなんて今日は最悪の1日かもしれない。
さっさとマルバスにこの男を追い出して貰おうと僕は彼女に助けを求めていたのだが……。
慌てた知らない男に止められてしまう。
「待て待て。『友の姉貴』を呼ぶんじゃねぇ。
いいかい俺様は『赤羅城』。アナクフス国からやって来たあんたと同じ罪人よ。
よろしくな『罪人先輩』!!」
友の姉貴? 赤羅城? 罪人先輩?
僕が目覚めて間もないこの時間ですでに知らない単語が頭の中に3つも侵入してきている。
だが、1つだけ先に分かったことがある。
マルバス=友の姉貴。
つまり、こいつはバティンの友なのだろう。
バティンの友だと分かったところで、これ以上話を延ばしても時間の無駄だと判断した僕は話を進める事にした。
「まぁ、よろしく赤羅城。ところで僕に何か用事でもあるの?」
「ああ、罪人先輩に指令だとさ」
「指令?」
「友の姉貴から罪人先輩に頼み事。お使いを手伝って欲しいんだと行き先は……」
赤羅城が全てを言い切る前に僕の体は動き始めてしまっていた。
友の姉=マルバス。罪人先輩=僕。マルバスから僕に頼み事。
これはもうすぐにでも行かなければならない。
僕は一瞬でパジャマから外着に着替える。
「おい、罪人先輩。話はまだ……」
そして、何かを言いかけた赤羅城の言葉も聞かずに僕は部屋から出ると、マルバスのいる所に向かって全速力で走り出した。
体がいつもより軽い。
なんだか肉体が成長したかのようにスムーズに動けている。
馬車の前で誰かと話をしているマルバスを発見した。
僕は嬉しくなって思わず、手を振りながら彼女のもとに駆け寄る。
「マルバスーーーー!!!!」
「ああ、エリゴ…………エリゴル!?!?
良かったな。目覚めたんだ。半月ぶりじゃないか。オレは心配したんだぜ!!」
マルバスの驚きようが異常だった。
まるで幽霊でも見たかにように驚いていた。
それに半月ぶり?
冗談かと思ったが、マルバスはこんな時に冗談を言うような女性ではない。
なら本当に半月も眠っていたのだろうか。
僕にはその記憶がない。
「覚えてないのか?
お前は全身に猛毒を浴びて死ぬ寸前だったんだ。
だが、その猛毒に効く薬草をとある子供が持ってきてくれてな。
毒の症状は消えたけど、意識が戻らない状況だったんだぞ」
マルバスの話の内容は僕の記憶にはない。
僕が覚えている最後の記憶は確か……アナクフス城で戌を倒した瞬間までだ。
そこで意識が途絶えて……。そして現在である。
「そうだったのか。心配かけてすみませんでした」
しかし、マルバスに心配をかけたのは事実。僕は彼女に深々と頭を下げて謝罪を行う。
そして今回の本題へと入ろうとした。
「それで……僕に指令だと聞きました。このエリゴル。あなたに心配をおかけしましたので何でもやってみせましょう!!」
「そうかエリゴル。そのやる気は嬉しいぞ。じゃあ早速だが、数人で行きたい場所がある」
「行きたい場所? それって何をしに行くの?」
「国外に武器の買い物と同盟を結びに行くのさ。なぁに、今回はお前も楽しめる場所だと思うぞ」
「世界中のありとあらゆる物が売られている大商業国『ネゴーティウム』です。
エリゴルさんにはいい社会勉強になると思いますが……」
そう言ってマルバスの横にヒョイっと並んだのはとある1人の子供。
僕はその子供の姿を瞳に焼き付けた。いや、瞳が子供以外の物を見ようとはしなかったのだ。
それは僕の一番の親友であり、性別不明の子供。
人力車屋さんをたった1人で営んでいる僕よりも幼い子供。
『セーレ・キユリー』であったから……。
【5ページ分ほどの文字数でエリゴルからキユリーへの一方的なスキンシップなのでカット】




