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27・王の記憶+真実

 カイムはなにか思い出したくないものを思い出したような焦りっぷりを披露してくれている。


「嘘だ。僕は信じない」


目の前の幻覚に怯えるように腕を振りながら、カイムは頭を抱えている。

ただ事ではない。


「ナベリウスさん……あいついったいどうしたんでしょうね?

急に豹変してますよ」


カイムは指と指の隙間からナベリウスさんの方をジーっと睨むと小さい声で呟く。


「ナベリウス……。女の名前はナベリウス・ラピス……?」


「そうだ。私はナベリウス・ラピスという。だが、なぜお前がラピスの名を知っているのだ?」


不思議だった。

この場に来た誰かがナベリウスさんのフルネームを口にしたわけではない。

ナベリウスさんの名前を僕はフルネームで呼んでいないし、悪党Uも東の魔女だとしか口にしていない。

あのときのシャックスでさえ、東の魔女としか呼んでいなかった。

それなのに、カイムは彼女のフルネームを口にしたのだ。

そして、カイムは更にナベリウスさんに向かって質問を行う。

まるで何かを確かめるための質問をしているようであった。


「……なぁ、聞きたい。お前、左目が義眼なのか?」


「…………何故だ。私の名前も私の眼の事もなぜお前が知っている。一瞬見ただけで理解できるわけがない。誰に聞いたんだ?

私の事を誰から知った?」


「…………フフフ。アハハハハハハハ!!!」


ナベリウスさんからの返答を聞いた瞬間にカイムは一転して笑い始める。

先程まで焦っていた彼の表情は一転し、笑い声をあげ始めた。ただし、彼の目はまったく笑っていない。それはまるで全てを諦めきった時の笑いのようだった。




 突然、笑い声をあげたカイムに僕たちは少し驚いてしまう。

爆笑という笑いではなく、諦めきった笑い声をあげたのだ。


「「………!?」」


「そうだったのか。そういうことか。これはもうだめだな。あーダメだ。ここが僕の終わりか……。終わった何もかも……」


「カイム・カラストリロ。何を言ってるんだよ。説明しろ!!」


だが、カイムは勿体ぶって彼女に話そうとはしない。


「シャックスが正しかった。僕の最大の脅威となる者はお前だったのだなナベリウス」


「なんだ。私がなんなんだよ?」


「……お前の事は父から聞かされていたよ。お前らは邪魔な存在だったってな。お前らの名前は覚えていたようだよ。

でも、生きていたなんてな。お前が生かされていたなんてな。僕は驚かされたね」


とうとうナベリウスさんにも限界が来た。

カイムが何かを知っているはずなのに、彼が何も言わない。

ナベリウスさんは知りたくなったのだろう。知りたくて知りたくて堪らなくなったのだろう。


「いい加減にしろ!!

本題を話せカイム・カラストリロ。お前は私の何を知っているんだ!!」


ナベリウスさんはカイムに向かって大声をあげる。

すると、カイムは側にあった椅子に腰かけてため息をつきながら話し始めた。





 僕はナベリウスさんの肩に回していた腕を離しながら壁に寄りかかる事にした。

寄りかかっているだけの体勢なら、少しは楽になれる。

カイムが急にナベリウスさんの家族の話をしようとしているのには疑問を抱いたが……。

僕は少しだけ知っているのだ。1つだけ違和感を感じていた。

あの書庫室にあったタイトル:『カラストリロの歴史』という本を読んだ時に違和感はあった。

だから、これから何かが起こってもナベリウスさんの足を引っ張らないようにするために彼女から離れようと考えたのである。


「ナベリウス・ラピス。

お前の親について知りたくはないか?」


「親……?」


「そうだ親の事だ。お前は親の顔を覚えていないのか?」


「もちろん覚えて…………いや覚えてない」


「そうだろうな。お前とお前の両親は約十年間しか一緒にいられなかったのだろう?」


「なぜそれを?」


「ああ、そうさ。だけど勘違いしちゃいけない。両親はお前を見捨ててはいない。捨てたくて捨てたのではない。僕が買い取ったんだからな」


「は?」


「おっと、近づくなよ?

近づいてきたら黒に呑まれてしまうぜ?

とりあえず、冷静になれよ。1つずつ教えてやるからさ」


「お前は奴隷だったんだろ?

幼少期の記憶に支障が出ているのはその時の薬物の仕業さ。薬物を投与されたんだ。

そして今では自分自身でその記憶を封じている。

過去のことを思い出せるか?」


「それは…………私が」


「歳を取ったから……とでも言いたいのか?

それは違うぜ。お前は意図的に記憶を思い出せなくさせられたんだよ」


カイムは静かにニヤリと笑みを浮かべる。

カイムの表情が一瞬で邪悪なものへと変わった。


「気になったことはないか?

ナベリウス・ラピス。

お前だけが現王家反対派勢力の一派に買い取られ、奴隷から自由になった。

お前は他の東の町の住民どもよりも優れていた。

お前は東の魔女と呼ばれる地位まで登り詰めた。

その理由をお前は疑問にも思わなかったのだろうなぁ?

だが、お前のこれまでの人生はとある1つの理由によって繋がっているのだよ!!

教えてやるよナベリウス。

それはすべて、お前の本当の正体が東の魔女ナベリウス・ラピス…………いや、違う。

国王を決めるための我が父との権力争いで敗者となった僕の伯父である『ネビロス・アナクフス』。

その娘である『ナベリウス・アナクフス』だからだ!!!!」


カイムはナベリウスさんについての事実を伝えると、彼女を嘲笑うかのごとく大きな声で笑った。


「アハハハハハハハ!!!!」


部屋全体に響き渡る笑い声。

ナベリウスさんはその笑い声に耳も貸さず、動揺している。


「嘘だ……私が王族?」


ナベリウスさんの感じている衝撃はおそらく先程までカイムが感じていたものよりもはるかに大きいのであろう。

だが、ナベリウスさんが記憶を封じている枷が外された。

カイムの言う通りであるのなら、最初は薬物投与によって、そして今は自分自身によって記憶を封じていた。

記憶を忘れていたのは彼女自身無意識でそうしなければならないと思ったからだ。

そうしなければ、危険だと思ったからだ。

だが、キッカケはどうであれ、今彼女はその記憶を無理やりこじ開けられた。

カイムの発言がトリガーとなり、封じていた記憶が甦っていく。

自分自身が無意識に封印していた記憶が呼び覚まされていく。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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