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26①・対面+『カイム・カラストリロ』

 あれから僕とナベリウスさんと悪党Uはアナクフス城天守4階にたどり着いていた。

マルバスを庇って傷を負っていた僕を2人は支えながらやっとの思いで階段を上りきったのだ。


「はぁ…………はぁ………」


僕は今自分の限界と進歩を感じている。

本来ならば、僕がこの階の部屋を確認していかなければならない役目なのだが……。

この負傷では無理だということで悪党Uが代わりに部屋内を捜索してくれている。

僕とナベリウスさんは音を立てないようにして廊下で待つ。

こうして、部屋を確認していき数回目。


「東の魔女様。おそらくこの部屋が最後です。あとは屋上かと……(悪党U)」


僕たちは最後の部屋の近くにまでたどり着いていた。

国王の生け捕りが最優先。彼からその国王としての権力を奪い取る事が今回の目的である。

こうして、最後に残った部屋の近くに僕たちはいる。


「ありがとう。ですが屋上ではないと思う。ここに屋上はないはずですから……」


ナベリウスさんの予想を聞いた悪党Uは無言でうなずくと、忍び足で最後の部屋の前まで歩き始める。

悪党Uも一応警戒はしているのだ。

扉を開けた瞬間に背後から襲われる可能性もある。

だが、ナベリウスさんを失うわけにはいかないのと、怪我人である僕を庇っているため、彼が覚悟を決めて行くしかないのである。


「…………」


悪党Uは最後の扉の前に立つと、片手に銃を構えながらドアノブに手をかける。

そして、勢いよくドアを開き銃口を部屋に向けた。




 部屋の中は窓からの光で明るく、椅子が2脚用意されている広い部屋であった。

壁際にはさまざまな壺や絵などが飾られている。

その部屋の中に1人の男が来客の存在を待っていたかのように椅子に座っていた。

背後から襲いかかることもなく、突入してきた悪党Uを出迎えるように待っていた。


「…………お前が侵入者か?」


男からの問いかけを悪党Uは無言で無視して銃口を彼に向ける。


「おいおい落ち着けよ。質問しているのは僕なんだぜ?

質問にはちゃんと答えろよ」


彼は銃口を向けられていても平然とした態度で椅子に座っていた。


「お前がこの国の国王だな?」


「まさか僕の顔を知らずに来たのか?

そうさ。僕こそがこのアナクフス国の国王である『カイム・カラストリロ』さ」


彼は呆れたとでも言いたそうな顔を悪党Uに見せながら、自身の名前を答えた。


「それならば話が早い。早速その身柄を確保させてもらう。下手な動きをしたら撃つ。

いいな?」


悪党Uの脅迫にカイムは怯えることもなく、寧ろ「どうぞ」とでも言ってきそうな雰囲気を醸し出している。


「撃てばいいじゃないか?

僕を殺せない理由でもあるのかい?

あっ、そうか。僕の口から現王家反対派勢力に権力を譲ると言わねばいけないのか。

そうしないと現王家派と新政府派で争いが起こるかも知れないもんね」


「ああ、東の魔女様はそう仰っていた。

だから、我らもそれに従う。お前を殺したくて仕方がないのは事実だが……命だけは助けてやろうという東の魔女様のご厚意だ」


「そうかそうか。しかし僕が権力を譲ると口にしない場合はどうするんだ?」


「王家の作った法律が無条件で働くことになる」


「ああ、確か

【①王家を継ぐ者が2人以上いる場合。まず2人を選挙で決める。また、その子の代では再び選挙で決めなければならない】

【②しかし、王の座に君臨する者が放棄した場合、または20年以上その存在が見られそうにない場合、もう片方の王家を継ぐ者か選挙で選ばれた新勢力が統治を引き継ぎ、その王家親族は隠居する。そして10年後に再び①を行う】

【③国内での問題(クーデターや内乱)によって王家が滅んだ時、首謀者や参加者を即処刑し、新たな勢力が統治を引き継ぐ】だったか?」


「ああ、そうだ」


「やれやれ、王家の権力を絶やさないように考えられた法律がまさか僕を苦しめるとはね。法律の見直しを検討しなければいけないな」


カイムは今後のことについてめんどくさそうに思いながらも、側の机に置いてあったお茶を飲む。

悪党Uはカイムがお茶を飲む行動を取った事を責めはしなかったが、彼が再び権力を扱おうと考えていることに腹をたてた。


「何を言うか!!

もうお前の王としての権力は終わりなんだよ。この銃が見えないのか?」


「貴様こそ何も見えていないな。現実を見ていない。お前たちが反逆者として全員処刑される可能性が見えていないんじゃぁないか?」


カイムから口にされた正論。否定したい可能性を彼は口にした。

悪党Uの怒りは限界へと近づき、引き金に指をかける。

銃口はカイムの額に向けられている。あとは引き金を引けば彼を殺せる。

しかし、殺すわけにはいかない。

彼を殺してしまえば法律の1つである③によってナベリウスさんも悪党達も東の町の人たちもみんなが処刑される。

現王家反対派勢力にとってはどちらを選択してもらっても問題ない。

問題は東の町のみんなの命がかかっているということである。

なので、悪党Uは脅すだけしかできない。彼を痛め付けることはできるが、彼を殺すことはできないのである。




 悪党Uは引き金に指をかけても引くことはできない。


「くっ…………」


「殺したければ殺せばいいさ。でも、お前が僕を殺せるわけがないよなぁ?」


「…………」


「せいぜい僕を殺さないように堪えてくれよ。これまでのようにお前が……お前らが我慢すればするほど国の未来は安泰になるんだからな」


「………………」


「なぁ、なんで東の町を残してやっていたか分かるか?

反面教師が必要だからだよ。この国には反面教師が必要だからさ。仕方がなく残してやってたんだ」


カイムはそれが分かっているので、わざと悪党Uを挑発している。

彼は撃てない。その事がカイムには有利な点なのだが……。

バンッ!!と室内に銃声が響き渡る。




 ついに我慢できなくなった悪党Uは引き金を引いてしまった。カイムからの煽りにとうとう怒りをこらえることができなくなったのだ。


「ハァ!!ハァ……ハァ……ハァ……ハァ」


引き金を引いてしまった。

悪党Uは銃声が自身の耳に聞こえた瞬間に銃から手を離したが遅すぎた。

過呼吸になりながらも悪党Uは腰を抜かして床に座り込む。


「……がッ……が」


カイムの口からは声にならない声が発せられていた。

ただ、銃弾はカイムに致命傷を与えることはなく。彼はまだちゃんと生きている。

銃弾は彼の手のひらを貫通し、頬の肉を少し削ったくらいで済んだのだ。


「きッ…………貴様!!

なにしてくれてんだ!!」


カイムは床に倒れながら、貫通した手の痛みに悶えながら声をあげた。

痛そうに辛そうに床の上でもがき続けているカイム。


「ふざけるな。この僕を撃ったんだな?

この僕を本気で殺そうとしたな。撃ったな!!

全員処刑だぞ?

勝っても処刑だったんだぞ!!」


カイムは悪党Uを激しく責める。だが、それにより更に悪党Uに挑発することになると判断し、カイムは次の行動に出る。

それはこの場から逃げること。

カイムは床を蹴りながら這うようにして悪党Uの側から離れようと動く。

いまは腰が抜けて立ち上がれないカイムであったが、そのうち立ち上がれるようになると判断したのだ。

しかも彼には逃げ道もある。この階から外へと逃げることができる逃げ道を彼は準備していた。それを使う時が来てしまったのだ。


「ちくしょう……まだ死なない。死ぬのは嫌だぁ」


カイムは必死に床を這ってこの部屋から出ていこうとする。

だが、それを見逃す悪党Uではない。

彼は側に落としてしまった銃を再び手に取る。


「終わりだよ。お前はどうせ生きてちゃいけないんだ……ハァハァ。殺す」


先に立ち上がった悪党Uは床で這っているカイムに再び銃口を向ける。

彼はもう冷静な判断はできないほど狼狽していた。


「やめろ……」


「殺す」


「やめてくれ」


「殺す!!」


悪党Uは引き金を引こうと指に力を込める。

その時である。部屋のドアが大きな音を立てて開かれた。


「殺してはダメです。悪党U!!」


間一髪。

ナベリウスさんと僕が銃声の音を聞いて駆けつけたのである。

悪党Uはギリギリの所で指に力をいれるのをやめて、ナベリウスさんの顔を見た。

だが、悪党Uがナベリウスさんの顔を見て銃口を背けた瞬間。

───彼の体が黒き波に呑まれたのだ。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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