24・休戦+赤羅城 戦③
マルバスとシャックスの一騎討ちの間に突如として現れた乱入者である赤羅城。
敵味方関係なく戦おうとする戦闘狂の赤羅城は異常な身体能力によって地上からこの3階までジャンプして来たのである。
「おい、お嬢」
「なんだよクソ野郎?」
シャックスは赤羅城に聞こえないくらい小さな声でマルバスに話しかけた。
「…………非常に言いにくい。俺も言いたくない。冗談じゃない。ふざけるな!!と言いたいのだが仕方がないのだ」
「だから、なんだ?」
「…………どちらかが赤羅城と闘う間、休戦としないかね?」
「は? 休戦?」
シャックスの提案に驚き思わず大声を出しそうになるマルバスであったが、必死に口を手で隠した。
その反応を見届けたシャックスは自身がなぜそのような提案をしたのかを白状し始める。
「そうだ。休戦だ。
今お互いが赤羅城の存在を邪魔だと考えている。赤羅城も1対1の方が戦いを楽しみやすいだろう?
俺もお前も敵が2人になるのは困るはずだ」
マルバスに休戦を求めたいという気持ちで彼女の判断をシャックスは伺おうとする。
もちろん、これまでの話題はすべて赤羅城に聞かれないように小声で話していた。
だが、マルバスはシャックスの提案の理由を聞き終わると大声で笑い始めた。
「…………アッ。アハハハハハハハ!!」
その笑い声にシャックスも赤羅城もマルバスの顔を見る。
マルバスは数秒の間笑った後、呼吸を整えながら告げる。
「笑わせてくれるなよ。つまり、自分は死にたくないってか?
他人をここまで扱えるのに自分は大切って。
阿保らしいわ。アハハハハ」
マルバスはシャックスの心境に笑っていたのだ。いや、呆れたから笑っていたというべきだろうか。
「命より金が自分の格言だ」と口にしていたシャックスが自分の命は大事だと彼は言う。
それは他人の命を身代わりにして生き延びていたシャックスがマルバスの前で初めて口にした弱音。
マルバスは自分の母の仇であるシャックスからその発言が聞けた。他人より自分の命は大事という人間味溢れた理由を闇星の1人が言う。
それがマルバスにとってはおかしかったのだ。
もちろん、そんな事は赤羅城には一切関係のない事であった。
赤羅城はただ戦闘を行いたいのだ。敵を打ち倒し勝利を得る喜びに飢えているのだ。
彼にとっては戦闘こそが価値がある物なのである。
「おいおいおい、俺抜きでお前ら何をコソコソとお話ししてんだよ。どっちが俺の相手になってくれるんだ?
笑っている女か?
頭を抱えて後悔している男か?」
赤羅城は2人を指差しながら問いかける。
彼にとっては順番などどうでもいい事で、早く戦いたいのだろう。
すると、マルバスは一歩前に進み、笑いながら赤羅城に語りかける。
「おーすまないすまない。お前が赤羅城だっけ?」
「そうだぜ俺が赤羅城だ。
なぁ、お前が相手になってくれるのか?」
「…………その前に聞かせてくれ赤羅城。うちの妹は強かったか?」
マルバスからの質問に赤羅城は一度頭を捻って考える。
マルバスが妹という存在との闘いの記憶を思い出そうとする。
今までに赤羅城が女を殺した回数は数知れず。
なので、マルバスに似ている女性を記憶の中から思い出そうとしていた。
しかし、妹というのがつい先程まで闘っていた女侍の事であろうと赤羅城は判断する。
「妹……ああ、あの女侍か。良い戦闘だったぜ。久々に他人と殺しあえた。ただ今はそこで死んでる」
そう言って赤羅城が指差した先には先にこの表座敷に投げ込まれたモノが……。
「…………」
それはもう時が止まっているかのように動かない。命の宿っていない物のようだった。
ただ、赤羅城は終わってしまった者に興味はない。強かった者以外は記憶にもない。
「まぁ、終わっちまったのは残念だ。
だけどな。 今はお前がいる。
姉なんだろう? 強いんだろう?
俺は強い奴が好きだ。大好きだ!!
どっちでもいいから来てくれ。俺の闘争本能を奮い起たせてくれや!!」
そして、赤羅城は次なる獲物としてマルバスを選んだ。
赤羅城はマルバスが強い者であるということが、はっきりと分かっている。
もちろんシャックスも強い者であることは把握済み。
だから、彼はこの表座敷に戦闘相手を捜すためにわざわざやって来たのだ。
もう彼の目にはマルバスかシャックスのどちらかしか映っていない。
そんな赤羅城は今か今かと戦闘が始まるのを待ちわびていたのだが……。
「ふーん。おい、バティン。
敵に褒められてるじゃないか。頑張ったんだな」
マルバスは赤羅城のことをガン無視して、妹のいる場所へと向かっていく。
返事をしないモノに語りかけるマルバス。
シャックスはそれを(信じたくないからだろうな)と無関心ながらも無言で判断したが、赤羅城は別だった。彼はそれを指摘したのである。
「おいおい、もうそいつは返事なんてしない。再起不能で立てない。そんな死体なんて無視して俺と闘おうぜ!!」
すぐにでも戦いたい赤羅城の声もマルバスには届かない。
ただ彼女は床で倒れている妹の姿を見続けている。
まるでなにかを待っているかのように……。
結局、赤羅城が(マルバスを後回しにして先にシャックスを殺そう)と考えることはなく、2人の視線はマルバスに向けられていた。
ただし、すぐにその視線は別の方向へと向けられることになってしまう。
「…………すみません姉様。ちょっと睡魔が襲って来ちゃいまして」
それは聞こえてくるはずのない声。
「「!?」」
シャックスと赤羅城は誰のものでもない新しい声色に驚かされた。
再起不能でもう死んでいるはずのモノが声をあげたのだ。
マルバスは安堵の表情も驚嘆の表情も見せずに、いつも通り彼女に話しかける。
「バティン、いい夢でも見れたような顔だな?」
「ええ、見れましたよ姉様。天国なんて比べ物にならないくらいの時間でした」
死んでいると判断させるほど弱っていた彼女は、目を覚ました。
そして、全身の力を奮い起たせて倒れそうになりながらも立ち上がる。
マルバスはただ彼女が起き上がるのを見ているだけ。
全身から大量の血を流し、出血多量で今にも倒れそうな彼女は顔の血を袖で拭き取っていた。
「そうか。それはよかったなバティン。
それで何を見たんだ?」
「姉様と2人きりで慰安旅行1週間。温泉でリフレッシュしている風景です」
よほどいい幻覚を見たのだろう。
バティンは嬉しそうにマルバスの質問に答える。
マルバスは嬉しそうな表情のバティンを見て少しホッとして気が緩んだのだろう。
「バティン。もう一度同じことを言うからな。“あいつ”の事は任せた」
彼女はもう一度バティンの肩をポンポンと叩いた。最初と同じように……。
そしてマルバスはバティンの一歩後ろへと下がる。
マルバスは赤羅城と戦闘をする気がないようだった。
そんな彼女にバティンは不満を呟くこともなく素直に「はい」と返事を返す。
それ以上はお互いに何も言わない。
リベンジを任されたバティンの手には刀の柄が握られていた。
そう闘いはまだ終わっていない。
1対3。いや、2対2の戦闘が今始まろうとしている。




