22②・想い+怨み
急ではありますが、ストックが書き終わったので次回から毎日1時に投稿してみようと考えております。
また、18日から日までその時間帯でこの章が完結するまで投稿させていただこうと考えております。連続投稿です。
読んでくれている方々にはご迷惑をかけると思いますが。よろしくお願いいたします。
突然の乱入者たちによる攻撃からマルバスを庇った僕の腹には槍先が突き刺さっていた。
すごく痛い。こんな怪我を負ったことなんて初めての経験なのだから。だけど、手柄くらいは立てることはできたはずである。
「なんでだ。エリゴル。お前……なんでオレのために庇ったんだ!!」
だけど、マルバスは僕へと怒鳴った。
マルバスは畳の上で腰を抜かしたまま、僕に対して怒りをぶつけてきた。
彼女の復讐を邪魔したせいもあるだろうし、勝手に庇ったという理由もあるのだろう。
正直、誉めてくれたり、心配してくれたりしてくれた方が僕としてはよかったが……。
これは心配の怒りとして認識してもいいのだろうかな。
正直に言ってしまうと、頭よりも先に体が動いたので、理由は後付けみたいになるんだろう。けれど、理由は1つくらいしかない。
「……見たくない。
怒り狂うあんたよりも、僕はいつもの印象の方が好きなんだよ……うグッ……。堂々とかっこいいあなたが好きだ。冷静なあなたが好きだ。がんばるあなたが好きだ。完璧な王のあなたが好きだ。怒った顔のあなたも好きだ。あなたのどんな姿でも僕は好きだ。
けど、今の怒り狂うあなたは見てて辛いんだよ……好きな人の怒り狂う姿が好きな人なんていない」
マルバスの怒り狂った姿を見たくなかった。
彼女のためじゃない。僕のためだ。
「だから、だから庇ったんだ。
僕が死んでもあなたが死んでも、最期に見るかもしれない顔を怒り狂う顔にしたくなかったんだよ」
死んでいく者達の表情を見てきた。
下で今も戦っている兵士と革命軍の死んでいった者達。
戦いの被害者達の最後の顔はみんな怖かった。
平穏とは程遠い。戦場を感じさせられる怖さだった。
悲しそうで恨めしそうで苦しそうで……。その顔のまま死んでいった。目は閉じていたけれど……感じ取った。
だから、マルバスを最後に見る時はそんな顔のまま死んでほしくなかった。幸せな顔で後悔もない表情がいい。
マルバスが罠にかかって死ぬわけがないと思ってはいたけれど。もしもの場合だってある。
せめて、人が死ぬ時は大勢で見届けたい。
「こんなに囲まれて幸せな人生だった……」と誇らしげに逝ってほしい。
この乱世に生きるのだから、最後くらいは幸せそうな表情をしてほしい。
それが僕自身の願いなのか、一応ルイトボルト教宣教師だからなのかは分からないけれど。
僕は怒り狂う姿のマルバスが最期になってほしくなかったんだ。
全身の力が抜けていく。
もう立っているのもキツくなって来たのだ。フラりと後ろへと後退する僕の体をいつの間にかマルバスが支えてくれた。
「はぁ呆れた………………バカかお前?
オレが敵の罠で死ぬと思っていたのか?」
呆れられた。思わず好意を暴露してしまうくらいの台詞だったのだが……。あれほど「好きだ好きだ」と言いまくっていた自分が急に恥ずかしくなってきた。
その恥ずかしさを隠すように僕は皮肉を込めて告げる。
「……死にそうだったじゃないですか」
「ハハハッ、そうだったな。
だが、すまない。やっぱりこの怒りは止められない」
「…………」
「だけど、さっきよりは気が楽になれたぜ」
マルバスは自身の肩に僕の腕をかけてくれながら、表座敷の外へと歩きだす。
もちろん、マルバスは乱入者達とシャックスの動向を伺いながら慎重に運び出してくれたのだが……。
乱入者達はまるで目的を失ったように動いていない。
シャックスは「どうぞ気にせず」とでも言いそうな感じで、何も行動してこない。
マルバスはそれでも彼を信用せず、チラチラと後ろを振り返りながら僕を運んでくれた。
結局、隙をついて攻撃されることもなく、僕はマルバスによってナベリウスさん達の所へと運ばれていった。
「ナベリウス。エリゴルを頼んでいいか?」
「分かりました。あの……マルバス様……」
「分かってる。あの乱入者達は国民なんだろ?
安心しろ。殺しはしねぇよ。
ただ、痛い目にはあってもらう。
それでいいよな?」
「もちろんでございます。エリゴル君はお任せください。マルバス様お気をつけて」
僕の両腕を悪党Uとナベリウスさんが担ぐ。
そして2人は僕を連れて上の階へと続く階段に向けて歩き始めた。
この階はこれからマルバスとシャックスの戦場と化すので危険だと判断したのだろう。
僕はマルバスの顔を確認しよう視線を彼女に向けようとした。
だが、腹に走る激痛で思わず目を瞑る。痛くて目から涙が出そうになる。
視界が涙でにじんでくる。
今の彼女の様子が伺えない。冷静なのか?激昂中なのか?
また挑発に簡単に乗ってしまうほどの精神状態だったら……と思うと不安で仕方がない。
だが、その不安は一瞬にしてかき消された。
彼女の一言によって。
「ああ、ちょっくら復讐してくるわ!!」
そう言って再び表座敷へと入っていった彼女の姿。
それをこの目に納めることは出来なかった。
けれど、その声の調子から判断できる。
きっと、恨み怒り憎しみに飲み込まれずコントロールしてはいるのだろう。
それなら安心だ。
僕は彼女が復讐を成功させてくれると信じている。
次、再び再会することができたら、僕は彼女に復讐劇の詳細について教えてもらおう。
そう思いながら、2人に運ばれていた僕は静かに目を閉じていった……。




