19②・人種職種年齢男女平等主義者+赤羅城 戦①
僕とマルバスが天守の中へと入っていったすぐ後。
バティンが戦場と化していた中庭で戦闘を開始していた。
それはまるでかまいたちのように、目先にいる兵士達を切り裂いていく。
刀の重さも感じないくらいの軽やかな太刀筋。
辻斬りのような冷血さ、剣豪のような剣術。
返り血を地面に散らしながら、バティンは10人くらいの兵士を倒していた。
その時である。
天守にある中央の入り口から1人の漢が大扉を蹴破って中庭へとやって来たのだ。
マルバスの入っていった入り口とは違う大扉から出てきたので、マルバス達は彼と鉢合わせることはなかったが……。
バティンがマルバスの予想通り“あいつ”と呼んでいた存在と出会ってしまった。
彼によって蹴飛ばされた大扉は宙を舞い、地面に落ちる。
「ジョッハァハハハハ!!!」
その男。赤い甲冑を着た大柄な若き男であった。
身長は2mを超えているだろうか。ギザギザと尖った白き歯に、黄色い瞳と緑色の髪。
そして手に持っているのは彼の武器である大太刀だ。
「軟弱兵士共。俺の獲物はまだ残っているかァァ?」
漢は大太刀を天にかざしながら大きな声で兵士達に問う。
すると、兵士達は返事の代わりに歓声を上げた。
「『赤羅城』様だ」
「赤羅城様が来てくれた」
「やった赤羅城様だ……。数々の戦士の首をコレクションにし、首を狩りまくる狂犬・赤羅城様だ」
「やったぜ。これで勝ったも同然だ」
兵士達は興奮気味に赤羅城の登場を喜ぶが、革命軍の平民達の感情はただ怖じ気づくのみ。
数々の戦場で暴れまわってきた赤羅城が自分達の目の前にいる。
彼は凶悪で冷酷で残酷で好戦的で無慈悲な狂戦士として数多くの逸話を残してきた強者。
そんな彼が敵としてここにいるのは革命軍もわかっていたことだが、今その恐怖を思い出したのである。
「…………そうだった。あいつがいるんだ」
「…………国王に従える最強の狂犬赤羅城」
「……くそっ、あいつが来る前に終わればよかったんだ(悪党F)」
「もうダメだ。殺される(悪党A)」
革命軍と兵士達の前に現れた赤羅城はどんどん中庭の中心部へと歩き始める。
そんな彼に道を開けるように兵士達は散らばり、革命軍は彼らから逃げるように後方へと下がっていく。
こうして、中庭はアナクフス国と革命軍の両者にきれいに分けられた。
「おいおい、革命軍?共!!
俺と闘う勇気のある奴はいないのか?
来いよ。俺と対面する奴はいないのかよ?」
赤羅城は兵士達の前方に立ち、仁王立ちして革命軍を見るが……。彼らは誰一人として赤羅城と闘おうとはしない。
彼らも分かっている。自分が赤羅城と対面して生き残れる力を持ってはいないことくらい。
この場で赤羅城だけが異質の存在。彼らとはかけ離れた力の持ち主。
闘うだけ無駄死にであることが彼らには分かっていた。
「「「………………」」」
だから、全員武器を握りしめたまま動かない。
1歩前に足を踏み出せば赤羅城と闘うことになる。
それだけは彼らも避けたいのである。
自分の登場によって闘う意欲を無くした革命軍の多さに赤羅城はショックを受けた。
「ハァ?
だったら、連帯責任だ。3分に1人闘いに挑んでこい。
挑んで来なかったり、途中で途絶えたら“皆殺し”。どうだ?」
「この案ならどうだ」とばかりに赤羅城は革命軍達にゲームの誘いを申し込む。
その提案に兵士達はまた歓声を上げる。
彼にとっては人殺しもただのゲームの一種なのだ。
どれだけ手柄を立てることができるか。どれだけ敵の首を狩れるか。
彼はそれを娯楽として楽しもうとしているのだ。
しかし、そんな提案をした赤羅城にもの申す兵士が1人。
「…………赤羅城様?
革命軍達は全員殺せとアナクフス国王『カイム・カラストリロ』様がおっしゃっていたので……。時間をかけると国王陛下にお叱りをくらいますぞ」
赤羅城の一番近くにいた兵士がもの申す。
すると、その発言を聞いた赤羅城は兵士に対して不機嫌極まりない表情で一瞥して一言。
「あ゛?」
その瞬間。
赤羅城にもの申した兵士の首が飛ぶ。
長い赤羅城の大太刀が兵士の首をハネたのである。
空気を読まない兵士の首は赤羅城の大太刀によってハネられ、二軍の境界の位置にボトンと落ちた。
それを見て驚いたのは兵士も革命軍も同じ。
「「「…………!?(赤羅城以外全員)」」」
目の前に兵士の首がある。
その事に特に恐怖したのは兵士であった。
味方であるはずの赤羅城が味方を殺したのだ。
「赤羅城様!?
彼は味方です。なぜこのようなことを!!」
兵士達は赤羅城から離れるように後退しながら赤羅城に問う。
すると、赤羅城は鼻で笑いながら告げた。
「味方?
俺は人種職種年齢男女平等主義者だ。どんな老若男女職業人種でも、きちんと差別せずに殺す男だ。命も人間も皆同じ。
ちゃんと優劣なく殺してやらなきゃ差別だろうが?」
人種職種年齢男女平等主義者。
どんな人間でも人間であれば不平等にならないように殺す。意味が多少違うかもしれないが彼はそう思っている。
その発言により、兵士達は自分達も敵に入る可能性があると知った。これまでの安堵が一変し、恐怖へと変わったのだ。
もう赤羅城を慕う者はこの場にはいない。みんな「自分もああなるかも」という恐怖の鎖が巻き付いている。
「おいおい、どうした?
3分に1人かかって来ないと皆殺しって言ったよな俺は?
皆殺しだぜ。連帯責任」
その皆殺しには兵士も革命軍も入っているのだろう。
赤羅城はもう待つ時間も惜しくなって足で地面をタンタンと鳴らしながら、周囲の反応を待っている。
だが、みんな下を向いたまま必死に誰かが挑んでくれるのを待っているだけ。
「ハァ……」
赤羅城は小さくため息をついた。
その隙を彼女は見逃さない。
赤羅城がため息をついた瞬間に、バティンは赤羅城の背後から忽然と姿を現したのだ。
兵士達が赤羅城に道を通すために避けた道を走り、翔ぶ。
「……!!!!」
「しまっ……!?」
その殺気に気づけず油断していた赤羅城。
彼は成すすべのないままちらりと彼女を凝視するだけだ。
バティンは刀先を赤羅城の心臓に向けて突きを放つ。
グサッ!!!!
「グハッ……!?!?」
血を吐き出し、胸からは血があふれでている。
バティンの突き。それは赤羅城の心臓を貫通し、胸から刀身が突き出ていたのだ。




