19①・分岐+赤羅城 戦①
マルバスは僕の手とバティンの胴を持ちながら全速力で中心にある大きな建物へと走る。
おそらくあの巨大な建物の中に国王がいるのであろう。
その建物の端にある入り口付近にマルバスは僕たちを運んでくれた。
周囲に兵士はいない。この場なら少しの時間は安心して休憩できる。
「ああ無理しすぎちゃった」
そこでマルバスは僕とバティンを掴んでいた腕を離し、自身の肩を揉み始める。
やはり、子供でもない2人を抱えて引っ張って、運ぶのは相当の体力が必要だったのだろう。
「姉様……大丈夫でございますか?」
「ああ、大丈夫さ」
心配して駆け寄るバティンの頭を撫でるマルバス。
今のバティンは、怪我もなく安堵しているというよりは今を楽しんでいるといった印象を受けるのだが……。2人(特にマルバス)が気づいていないのであれば、口出しするべきでもないだろう。
さすがに2人の間を邪魔をする勇気もわかないのだ。
こうして僕の目の前で2人はスキンシップを取り合っていたのだが……。数分後そんな時間も永遠には続かないようで、マルバスの一言で終わりを告げた。
「それよりエリゴル。ちょっと中に入って休憩場所を探したいんだが……。同行を頼めるか?」
マルバスとバティンがスキンシップを取り合っていた最中に、急にマルバスから僕の名前が出てきた。
もう最悪のタイミングだ。
バティンがものすごい表情でこっちを見てくる。めっちゃ呪ってきそうな表情を浮かべて僕の方を見てくる。
しかし、すぐさまマルバスはバティンの方に目を合わせた。
もちろん、バティンの表情はいつも通りのままになっている。
「バティン……我が妹よ。“あいつ”の事は任せた」
そう言ってバティンの肩をポンポンと叩くマルバス。
バティンは少し不満そうな表情を浮かべたが、すぐに改まってマルバスに頭を下げる。
「かしこまりました姉様。こちらで何とかしておきます。なので、どうかお気をつけて……」
どうやら、バティンに“あいつ”という奴の対処を任せたらしい。
あいつ?
僕にはその人物が誰だか分からなかったが、きっとこの場にいる住人達でも太刀打ちできない相手なのだろう。
だから、バティンを向かわせるのかもしれない。
僕は再び戦場へと歩いていこうとするバティンの後ろ姿を見つめる。
すると、僕の視線に気づいたのかバティンは後ろを向きながら僕に念を押すように語りかけてきた。
「おい、ク…………いやエリゴル。姉様を任せた。死んでもお守りしろ」
バティンはそう言って自身の懐から刀を抜く。
彼女は僕にそれだけ伝えると、戦場と化している城内へと歩き出していく。
「ああ!!」
僕は振り返ることなくまっすぐに歩いていくバティンを見送りながら静かに呟いた。
もちろん、バティンに言われなくてもマルバスのことは守るさ。僕の助けは足手まといになるかもしれないけれど……。彼女の盾くらいにはなれるのだ。これは僕に適任の仕事である。
きっと僕のこの未来予知が役に立つはずだから……。




