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18・煙の中+合流

 振りかざされそうになった兵士の剣。

しかし、その剣は僕の体を傷つけなかった。

兵士は剣を構えたまま動かない。

僕は何の痛みも感じないことに疑問を抱き、目を開ける。

すると、僕を見下ろすように彼が立っているのが見えた。


「…………ッ!?」


「…………無理だ。俺には殺せない」


兵士は構えた剣を震わせながら、振り下ろすのに葛藤している様子であった。


「なぁ、あんたはモルカナ国の奴だろ?」


彼はその剣を振り下ろす事をやめて、剣先を地面に向けた。

そして目の前の兵士は僕から離れるように後退りする。


「……そうだけど。殺さ……ないのか?」


僕は彼が後退しているのを確認しながら、横たわった体を起こす。


「ああ殺さない。あんたの前を走っていた女はモルカナ国の姫様だった。あの姫様達に守られてるお前はモルカナ国の住人のはずさ」


どうやら彼はマルバスの事を見て、僕を殺すのを思い止まってくれたみたいだ。

周囲を見渡すと、マルバス達との距離は離れてしまったが、この状況を咎めようとする者はいない。みんな自分の戦いに集中していて周囲を確認する暇もないのだろう。


「でも、なんでモルカナ国の住人ってだけで僕を見逃すのさ?」


「モルカナ国には幼い小さな恩人がいるんでな。さぁ、早く姫様2人の所に行きな。見逃してやる」


僕に飛びかかってきた兵士はそう言って振り向くと、そのまま他の住人に向かって次の戦いへと向かって行った。




 僕を見逃してくれた兵士の立ち去っていく背中をいつまでも見てはいられない。


「すまない」


僕は奇跡的に見逃してくれた兵士のお陰で生き延びることができ、一目散にマルバスとバティンに追い付けるように走った。

振り向くことなく。僕は再び戦場と化した城内を走る。

左右でどんなに兵士や住民の死を目の当たりにしても、僕は動揺することなく走る。

先の前方ではマルバス達が兵士によって囲まれていた。

マルバスとバティンは互いに背中合わせの状態で襲いかかってくる兵士を倒している。


「姉様。あのクソ……エリゴルとの距離が離れています。待ちますか?」


そう言いながらもバティンは襲いかかってくる兵士を斬り伏せる。

そして、マルバスも兵士を倒しながらバティンへ返事を返した。


「ああ、せっかく兵士達がオレを足止めしてくれてるんだ。あいつを待つための時間潰しとさせてもらおう。バティン、2つくれ」


バティンは背中合わせのまま、彼女の背中に掛けられたバッグから武器を取り出す。

そしてマルバスの足元に武器を2つ置く。

マルバスは槍とクロスボーを合体させた武器を地面に置き、代わりにバティンから受け取った武器を2つ手にするといつものように叫んだ。


「『Mixer arms』」


マルバスがそう叫ぶと、手に持っていた武器が瞬時に消滅したように見える。

つまり、兵士にとっては彼女を討ち取るチャンスの時間。


「今だ。死ねぇぇ!!」


その隙を狙って武器を構えて襲いかかってくる1人の兵士。

兵士は剣を構えて武器のないマルバスに斬りかかってくる。

武器も持たないマルバスを殺しにかかるとは騎士道の欠片もない兵士だが、かわいそうなのは兵士の方である。

彼女の手から2つの武器が消えたのは一瞬の出来事。

マルバスに対して殺意を向けた瞬間に、兵士はもう後戻り出来ない所まで踏み込んでしまったのだ。




 発煙弾と木刀。

彼女が先程まで手に持っていた2つの武器。

その2つが彼女の付喪人としての能力であるミキサーの能力によって今最高の武器へと合体したのである。

彼女が出来上がった武器を手に取り、構えをとる。

そしてそのまま彼女は兵士の頭上に向けて武器を振り下ろした。


「面!!!」


兵士の頭に振り下ろされる一撃。

兵士は「グァ」と声をあげて地面に倒れる。

そして彼女は地面に倒れた兵士を踏みつけて、刀先を兵士達に向けたまま、ニヤリと笑みを浮かべた。

これを挑発行為と取った兵士達。


「ええい!! クロスボーを持て。奴を射抜いてやるわ!!」


3人のクロスボーを持った兵士がマルバスに狙いを定めた。

この近距離では避けることは難しい。また、避けても背中合わせのバティンに流れ矢が当たる可能性もある。

今もバティンは兵士達を斬り捨てながら戦闘を続けているので、バティンに背後を意識する暇はない。


「………………」


それを分かっているはずなのにマルバスはその場から動こうとはしない。

けれど、チラリと僕の方に視線が向けられた気がした。


「…………なぁ、クロスボーはやめておいた方がいいんじゃないか?

仲間に当たるぞ?」


「敵賊を仕留めるためだ。これもやむ終えぬわ!!」


「そうか? はいはい、そうなんだァ!!」


マルバスは地面に向かって思いっきり木刀を叩きつける。

すると、マルバスの叩きつけた木刀から大量の煙が発生。

すぐにマルバス達の周りも煙の中に覆われる。

霧のように濃い煙。

兵士達はその発煙によって視界を遮られてしまった。





 マルバスによって発生した煙の中で、兵士達は煙によって行動することができなくなってしまった。


「くそっ……敵の位置がわからん」

「みんな射つなよ。誤射する確率が高い」

「この煙では敵賊も同じように視界を遮られているはずだから落ち着け!!」

「敵の位置を確認するまで身を守れ!!」


煙の中で兵士達は混乱し、慌てている。

僕もその発生距離にいたので突然の発煙に巻き込まれ、マルバス達のいる方向が分からなくなってしまった。


「2人とも……」


僕は方角も分からぬまま、煙の中を進む。

このままジッとしていてもどうにもならないという考えが理由としてあった。

マルバスとバティンの後を追わなければならないのは絶対的条件。

この先が兵士達のど真ん中でも、進まねばならない。


「……?」


僕の手が引っ張られる感覚。

煙に覆われた闇の中で誰かが僕の手を引っ張ってくれている。


『縺薙▲縺。縺薙▲縺』


その手からは体温も圧力も感じない。

不思議な感覚。まるで風が僕の手を導いているような感覚なのだ。

案内されるように「こっちこっち」と引っ張られる感覚。

僕は一か八か僕の手が引っ張る方向へと歩いていく。

結局、その感覚が消えるまで煙の中で僕の手を引く謎の存在の正体は分からなかった。

その謎の感覚は途中までである。

謎の感覚が消えたのは一瞬の出来事の最中である。

これまで僕の手を導いてくれた感覚が急に変わったのだ。

それは体温も感じる力強い手の力であった。

今度は生きている人の手。

その手が僕を煙の中の闇から引っ張り出してくれたのだ。




 煙が晴れる。煙から抜け出す。

急に視界が晴れて太陽の光が眩しく感じてしまった。

なので、僕は目を少し瞑りながら前を向く。もちろん目の前にいる僕の手を引っ張ってくれていた2人目の正体を知るためだ。


「あっ……!?」


その者は黒き布に赤い線の入った羽織を着て、黒く長い長髪、その目は獲物を狩る狩人のように少し尖っていた。刀を懐に差している和服美人である。女侍だ。

そして、そんな彼女の背中は憧憬を抱かれる者の背中であった。


「…………遅かったなエリゴル。待ちくたびれたぜ?」


前を向いたまま僕に話すかけてくれた女性の声。

2度目に僕の手を引いてくれていたのはマルバスであったのだ。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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