17・突入+戦場
早朝、城内がいつもよりも慌ただしい様子に疑問を抱きながら目を覚ました『カイム・カラストリロ』は起床して眠気眼の状態で護衛に問う。
「…………何事だ?」
扉の奥にいる護衛は扉を閉めたまま、国王の問いに答えた。
「申し上げます。アナクフス城の3門が敵軍によって破壊され、突入しました。
現在、兵士が対処しておりますが鎮圧までには時間がかかるかと……」
「僕に反乱する奴らということか。
おい、見張り役共はどうしたんだよ?
そして敵はどこの誰なんだぁ?」
「見張り役は役目をこなせなかった様子。そして敵は国内の住人かと……。敵軍の大将に東の町の魔女がいるそうで……」
護衛がそこまで告げたタイミングでカイムはベッドルームのドアを開く。
目の前にはしゃがんで情報を伝えていた護衛役。
彼はカイムがドアを開いたことに気づくと、瞬時に立ち上がり、カイムの背後へと回り込む。
「東の魔女……?
聞いたことのない名前だなぁ。
なぁ、ちゃんと鎮圧するんだよな?」
「お任せください。
現在、兵士が対処しております。さらに『赤羅城』様も城内をお守りしております。あとは先日の雇い人も……。
しかし、あの雇い人を雇ってよかったのですか?」
「問題はない。あの男は使える男だ。ただし、使う予定はないがな。あの男が何をしでかすかわからん。危険な男だよ。
だから、あの男には悪いが監視を着けさせろ。怪しい動きがあれば即斬り殺せ」
「承知しました。それでは危険ですので国王陛下はこの階より下には行かぬようにお願いいたします」
護衛役はカイムにそう言い残すと、あの男……シャックス・ウルペースに監視をつけるための命令を兵士数人にするために廊下を走って立ち去った。
その護衛役を見届けたカイムがふと廊下に備え付けられていた窓を見る。
城内が戦場と化している。
「フフフ…………アハハハハハハハハハ!!!
バカな連中だ。せっかく東の町は生かしておいたのに歯向かってきやがる。
あの猿共。主人に噛みつくとはなんと無礼な。
逆に狂犬に噛み殺される事になるとも知らずになぁ。
皆殺しだぜ僕の赤羅城……」
カイムは窓の外を見て、独り言を呟くと、そのまま自室へと向かうのであった。
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一方、僕『エリゴル・ヴァスター』は得意の未来予知を使って危機を乗り越えていたわけでもなく。
一人、戦下にとり残されたようにウサギのようにひたすら怯えまくっていた。
「うぅ……」
そもそも戦力にならない僕がこの場にいること事態がおかしいのだ。
これまではパッパッといつの間にかスルーしてきたのだが、そのツケが回ってきたと言えるだろう。
僕がナベリウスさん達の革命に参加する事、すなわちこの戦に僕も参加する事。
その事をまったく頭に入れていなかった。
僕が戦うとは一言も言ってないはず。
「冗談じゃねぇよ~!!」
周囲にはお城の兵士と戦う住民達の姿。
彼らは武器を取り、互いに殺し合っている。
お城の地面に横たわっていく沢山の人々。
血を流しながら、生きようと必死にもがきながら戦っている。
弓矢が肩に突き刺さる住人。
プレートアーマーにできた隙間を刀で突き刺されて絶命する兵士。
死に方はさまざま、誰が次に死ぬかはわからない。
人が死ぬ。たくさん死ぬ。
逃げながら、避けながら、ひたすらにマルバス達の姿を追っていく。
僕には青い短刀があるが、これで兵士と「闘え!!」と言われても戦闘歴もない僕には勝てる自信がない。
十二死の亥の戦でさえ、どうして体があそこまで動けたのか。僕にはまったく見当もつかないのに……。
だから、今はマルバス達の背中を追って走る。
マルバス達は僕の身を守りながら、キープと呼ばれる中心となる建造物を目指す。
マルバスもバティンも無傷のまま襲いかかってくる兵士達を難なくはね除けていた。
マルバスは自身の能力『Mixer arms』によって槍とクロスボーを合体させた武器を使用。
バティンは自身の持っている1刀の刀で鎧の上から兵士達を斬っている。
戦になれた2人の姉妹。
「ぐああああ」
「ぎゃあああ」
「うぅぅぅ」
その2人になす統べなく倒されていく兵士達。
周囲から断末魔が聞こえてきても、僕は耳を塞いでその方角を見ないように走るのみ。
バティンとマルバスの強さに感動はするが、やはりこの状況では恐怖が勝つ。
どんなに助けを求められる声を聞いても、僕はそれを無視して追いかけ続けた。
その時である。
「覚悟!!」
突然、僕に向かって真横から1人の兵士がタックルをくらわせてきたのだ。
僕の体はタックルによって突き飛ばされた。
「ぐっ……!?」
マルバス達に助けを求めることも出来ないまま、僕は地面に頭をぶつける。
青い短刀はまだこの手に握られている。武器はある。
殺らなきゃ兵士に殺される。このまま横たわっていては殺される。
しかし、僕はもう人を殺したくはないという本心で青い短刀を構えることを躊躇してしまう。
「覚悟しろ!! 反乱者!!」
「………!!」
兵士は横たわっている僕に向かって剣を振り下ろそうと構えた。
もうダメだ。間に合わない。そして恐怖を感じないように横たわったまま目を瞑った。




