16②・アナクフス革命戦争への演説+開戦
そして、10分後。
なにやら劇場の前方辺りがざわめきだした。
どうやらナベリウスさんの演説が始まるようだ。
ついにその時が訪れたということであろう。
夜の星空の下で彼らは静かに時を待つ。
「…………(全員)」
この場にいた全員の視線が野外円形劇場の舞台に現れたナベリウスさんに向けられる。
ナベリウスさんは野外円形劇場の舞台の中心付近に立ったまま、周囲を見渡している。
沢山の視線。視線。視線。
1人の少女に向けられる無数の視線。灯りが燃えている音しかしないほどの静かな状態。
ナベリウスさんの手が少し震えているようだった。沢山の視線に怯えるかのような震え。
しかし、彼女はその震えを抑えるようにして拳を握る……。
そして、声を高らかに民衆達へと宣言する。
「…………皆様。
これまでの苦しみによくぞ耐えてくれました。まずは心よりの感謝を。皆がこうして揃い生きている。素晴らしいことです。ありがとう。
私たちにはこれまでの苦しみに耐えることができるほどの忍耐力がありました。
しかし、断言しよう。私たちはほぼ無力だった。力のない弱者。摂取されて当然の弱者。
弱者から抜け出せぬ敗者であった!!!
だが、時は来たのです。今の王家への怒りも悲しみも不満もここで変わる。いや、私が変えると誓おう!!
私は東の魔女だ!!
私こそが東の魔女だ!!
その私が断言しよう。
長き時、弱者の悲鳴を耳にもせず、奪い取り、私腹を肥やした今の王の時代は変わる。
新しい時代へと変わっていきます。
立ち上がろう民衆よ。私と共に、私のもとに。
変えるのです。平穏な未来のために!!
その未来は今よりも平和であることを祈ろう。
その未来は今よりも美しいことを祈ろう。
私たちが動かなくて、誰が未来へと踏み出せると言うのでしょう!!
武器を持て、民衆よ。
───さぁ、革命の時だ!!」
「オオオオオオ!!!(民衆)」
会場にいた革命軍の闘志が演説によって奮い起たされる。止まらぬ歓声。止まらぬ気合い。
ナベリウスさんは見事演説をやってのけたのだ。
人々の心を動かす。不安など微塵も感じ取らせない雰囲気。
彼女は自分に勝利があると確信して、演説を言いきったのである。
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14日早朝。一番鶏が鳴く寸前。
東の町より現れた謎の軍勢。
足音を立てながら町を歩く軍勢達。
町の住民は窓やドアを固く閉ざし、この革命の結果を待っている。
静かな中間層の町を歩く者共。
その数はおよそ3000人。
全員が甲冑を身にまとい、さまざまな武器を持っている。
先頭には300人ほどの歩兵。破城槌を持った歩兵が数人。
中間に馬に乗った大将『ナベリウス・ラピス』は髪を結び、冑を被っていた。
彼女を守るように周囲にも歩兵が並ぶ。
また、彼女の後方にもかつては悪党と呼ばれていた荒くれ者。彼らも馬に乗り、彼女の後方を守っている。
ここにいるのは約1000人。
他の2000人はそれぞれ2方向から城に向かって移動している。
バティンの軍。僕とマルバスの軍に分かれているのである。
そして、数十メートル先にアナクフス城が見えてきたところで軍は足を止めた。
アナクフス城の兵士もまだ目覚めきっていないはずの時間。
静かな早朝に再び戻る。
だが、その静けさも一瞬の出来事。
戦乙女は一番鶏が鳴くよりも早く、大声で時を告げた。
「敵はアナクフス国国王カイム・カラストリロである!!!」
戦乙女が城を指差し、そう告げるのを合図として破城槌を持った歩兵が数人。
アナクフス城の門を壊すために走り出す。
丸太で門を壊し、入り口を作ろうと歩兵が力を合わせて破城槌をぶつける。
「ウオオオオオオ!!(破城槌を使う歩兵達)」
早朝の朝に歩兵達の気合いに満ちた声が響き渡る。
その声にアナクフス城にいる兵士も異変に気づき始めたのであろう。
しかし、今さら目を覚ましてももう遅いのだ。
すでに3ヶ所の門は完全に破壊された。
門が破壊できたという合図が着色発煙弾の黄色い煙によって周囲に伝わる。
3つの黄色い煙が天高く放たれ、すべての門は壊れたという事を知る。
「進めェェェ!!!!!」
戦乙女の大きな声での合図。
その合図を聞き入れた者共は一斉に声をあげながらアナクフス城へと走り出した。
「オオオオオオ!!!!」
これよりアナクフス革命戦争が始まるのである!!




