16①・肩車+開戦
予約投稿が出来てませんでした。すみません土下座
14日0時。時計の針は革命の日を刺す。
およそ3000人にもなる人数の者たちが東の町にある1つの野外円形劇場に集まっていた。
みんな現王家反対派勢力の貴族から支援された甲冑(日本の物みたいな物)や兜を装備してこの劇場へと集まってきている。
炎が灯されていつも以上に明るい夜となった今宵、ここでナベリウスさんが演説を行うと言う。
もちろん、この演説を聞きに僕もこの場を訪れた。
だが、沢山の人がこの劇場に集まっているので前の方にいるナベリウスさんの姿が確認できない。
まるでアイドルのライブみたいだ。
「くそっ、僕にもっと身長があれば……」
最後尾からジャンプして中の様子を伺おうとしてもまったく見ることができなかった。
すると、僕の隣にいた背の高い人が
「様子が気になるのか? 肩車してやろうか?」と親切に声をかけてくれた。
「いいんですか?」
ここは肩車は一時の恥、見ぬは一生の恥精神で頼むしかない。
僕はそう思って親切な人の顔を見た。
その親切な人の顔は先程まで暗き夜の闇と人の影で隠れてはいたが、人の間から射し込んだ光でようやくその顔を確認することができた。
「よし。任せとけ!!」
そう答えたのはマルバスだった。
この肩車は特殊である。男女が逆だ。普通は女性が上で男性が下みたいな構想だったはず。
「どうだ? 見えるか?」
「ああ、見えるよ。よく見える。そしてすごく怖いです」
実際にはそこまで注目を浴びていないのだが、上にいる僕はそう感じてしまう。
それほどこの肩車による高さが怖いのだ。
恐怖しかない。恥ずかしさよりも圧倒的恐怖。
もともとマルバスは僕よりも数歳だけ年上で、しかも背が高い。
もう2~3メートルはいくかもしれない。
「なぁ、エリゴル。1ついいか?」
「どうしましたかマルバス様」
肩車された状態の僕はそのまま顔を下に向けてマルバスに問う。
すると、マルバスは顔をしかめながら言いにくそうに不快感を訴えた。
「提案したオレが言うのもあれかもしれないが……。当たってなんか嫌なんだが」
あっ…………と察する僕。
僕はもう肩車をされる歳ではなくてしなきゃいけない歳なのかもしれない。
「そうか。そうだよな。じゃあ終わりにしよう」
憧れの存在であるマルバスにこんなことをさせている僕も悪い。
そう、初めから肩車をする必要はなかったのだ。
きっと別の方法であの野外円形劇場の舞台を見る方法があったはずなのだ。
考えが足りなかったと反省。
もう終わらせよう。この肩車を……。
「ああ、終わりにしてもらうとオレも助かる。ほら、これを貸すから」
「ああ、ハサミか。なるほど…………は?」
僕は肩車を終わりにしようとしているのにも関わらず、何故マルバスはハサミを差し出すのだろう。
僕はマルバスがしゃがんでくれないと降りられないからしゃがんでほしいのに、彼女は足を曲げることなくハサミを差し出したのだ。
「王の後継者は地に足を着けてはならない。だから、エリゴル。終わらせてやれ」
「おいおいおいマルバス!!
終わらせるってそっちか!?
待った。僕は嫌だぞ。こんな自決みたいな事。
下ネタじゃん!!
マルバス、あなたはもっと尊敬されるキャラだったはずだよ?
それにあなたがしゃがめばいい話だろうが!!!」
「これは国を背う未来を持つ後継者への心得だ。そう簡単に個人の事情では変えられない」
「違うよ。絶対違うよ。
それは敵の前の場合だよ!!
この場合は意味違うよ。敵なんていないじゃん。
強いて言えば、今僕の敵はあんただよ」
僕とマルバスがこんなやり取りを行っているのをバティンに見られないで本当によかったと心から思っている。
バティンがもしもこんな光景を目撃していたら、僕は確実に殺されているはずだから……。
さて、その後僕達バカ2人の一悶着は一応終息した。
マルバスへの説得もなんとかうまく行き、僕達はお互いに無傷で肩車を終わらせることができたのだ。
「しょうがない。声だけでも聞ける事をヨシとするか……」
「しかし、何故オレがあの場に行けないんだ?
モルカナ国の国主後継者のオレが……」
「それはモルカナ国が革命運動に手を貸すのは秘密裏の条件だからだよ。負けた時に手を貸しているのが王家にバレたら戦争物じゃないか」
「いや、ここの王家と戦争を仕掛けられる理由はすでに作って来たんだけどな……」
なんだか何かを隠しているのに言えないというもどかしさを醸し出すマルバス。
彼女は足下にある石をチョコンと蹴り飛ばしていた。
しかしそんなマルバスの様子よりも僕は彼女の発言の内容の方が気になる。
ここの王家と戦争を仕掛けられる理由?
マルバスは何かやらかしたのだろうか?
いや、これは彼女の罪悪感かもしれない。
数日間でマルバスが何をしていたのかは知らない。
でも、きっと彼女は自分のせいで同盟が失敗したと思い詰めているのかもしれない。
まったくマルバスのせいではないのに……。
僕は彼女の呟いた小言を考えすぎだと判断した。
「そうなのか?
まぁ、考えすぎだろ?
同盟の交渉がうまくいかなかっただけだろ?
あちらが敵側だっただけなんだろ?
べつに、“王家に暴力行為とも見れる宣戦布告を叩きつけたわけじゃないんだろうし……”。
マルバスのせいじゃないよ。
考えすぎだよ」
「………………」
僕は彼女の罪悪感を解消してあげようとして言った言葉だった。
彼女が思い詰める心配はない。失敗は彼女のせいではなく、彼女が罪悪感を感じる理由はまったくないと……。
だが、この時のマルバスはなぜか無言で正面をただ見つめていた。




