14①・侵入者+取引
13日昼。
ナベリウスさん家に僕たちがいたその頃、アナクフス城を1人の客人が訪れていた。
応接間にて『カイム・カラストリロ』は1人の男と対面する。
黒きマスクに黒いコートを着て、黒い髪型にはパーマがかかっている。全身黒い格好であるが、反対に肌は雪のように白かった。
見た目は30代から40代くらいだろうか?
ただ、とても若い人には見えない。
その男を初めて見た時の印象は亡者。
暗く疲れきった表情や目をしている男であった。彼はつい先日エリゴルと富裕層の町のベンチで対面した男であった。
「それでお前は何をしに来たんだ?
僕は暇じゃないんだよ」
カイムは椅子に座りながら、ほほを擦る。
彼は先日マルバスに殴られた痛みをまだ感じており、手当てを受けてもほほの痛みが退いていないのだ。
そして、そんな様子の彼のもとに訪れた全身黒い格好の男。
彼の周りには数十人の兵士が剣先を彼に向けながら囲んでいる。
怪しい行動をとれば即殺していいとカイムに言われているため、兵士たちは目を光らせていた。
「はぁ……警戒しすぎでしょこれは。取引だよ取引」
全身黒い格好の男は両手をあげながら、座禅を組む。
「僕がこのアナクフス国の正式な国王『カイム・カラストリロ』だ。
この僕に話がしたいとやって来たのは門番から聞いているが……。貴様、どうやってここまで来れたんだ?」
「ん? 別に俺はお前の所の兵士に道を教えてもらっただけだが?」
「そうではない。そんなことはどうでもいい。
そんな、お惚けた台詞を言わなくていい。
僕は『赤羅城』はどうしたと聞いているのだ。会っていないのか?」
赤羅城はこのアナクフス城の門番、案内役を担当している武者である。
面会人は必ず赤羅城がカイムのもとへと連れてくるというルールを決めていたのだが……。
今回の黒い格好の男は自力でこの応接間へとやって来ている。
「赤羅城……?
ああ、あの番犬か。そいつがどうしたというんだね?」
「おい、とぼけるな。
僕は面会人と事前に手紙の連絡でアポを取らせてから入城させているんだよ。
つまり、アポ無しは侵入者として赤羅城に排除させてるんだ。そういうルールだ。
なのに、貴様はアポもなくどうやってここまでたどり着いたんだと聞いてるんだよ!!」
「そりゃ、赤羅城が来る前に足止めの準備をさせてもらったに決まっているだろう」
「足止め……? 貴様何かしたのか?
僕の、この僕のアナクフス城に何かしたのか?」
「いや、お前の大切な大切なお城にはなにもしていない。安心しろ。
人の家に傷をつけるほど俺は行儀の悪い人間ではないんだよ。
俺は高価な物には敬意を払う男なのさ。高価な物には金がかかっている。だから手を出さない」
カイムは全身黒い格好の男の態度に苛立たされながらも、話だけは聞いてあげている。
カイムは彼がどうやって赤羅城の襲撃を突破し、この場に来ているのかが気になっているのである。
だから、それを聞くまでは全身黒い格好の男を殺すわけにはいかない。
カイムはとても気になっているのである。
「チッ…………(舌打ち)」
「フー。まぁ、落ち着け王様。
俺は敵対しに来たのではない。取引しに来たんだ」
「取引?
お前は何も分かっていないな?
お前は侵入者。この場で捕まっておいて取引?
僕はお前を今すぐにでも殺させる事も出来るんだぜ?
ここは僕に命乞いをするってのが筋なんじゃないのかな?」
「フッ、命乞いねぇ。俺にはそんな物必要ないさ。殺したければ殺してみるがいい。その一言で兵士に命令すればいい。
人の命など所詮軽い物さ。金で買える。ただし……」
ここで、カイムの溜まっていたイライラがついに爆発。
国王であるカイムを敬わない態度が実に気に入らなかったのだ。
「そうか。おい、兵士たちよ。この侵入者を殺せ!!!!」
カイムは全身黒い格好の男を呼び指しながら、周りにいた兵士たちに命令を下す。
カイムに忠実な手下たち。そんな彼らが全身黒い格好の男を囲んでいる。この人数では全身黒い格好の男は逃げ出すことも勝つこともできない。
全身黒い格好の男がこの状況に対処するのは不可能なはずだった……。
しかし、兵士たちは彼をその刀で串刺しにしようとはしない。
彼らは手に持っていた刀先を床に向けたまま、カイムの命令を聞く者は1人もいない。
国王であるカイムの命令を兵士たちは完全に無視したのである。




