2①・『セーレ・キユリー』は男か女か男の娘かボーイッシュか+禁忌の森
子供が禁忌の森に入っていった事で助けを求めてきた声の主は『セーレ・キユリー』という1人の子供であった。
性別を述べずに子供というのは男女の判断が難しいからである。
下手に聞くのも失礼に値するので、声の主が男であろうと女であろうと子供……もしくは名前で呼ぶことにする。
さて、そのキユリーという子供は、僕よりも結構年下で、小学生後半くらいの身長である。
その眼の色は青色であり、髪型はハーフアップ。
そいつは頭に笠地蔵のような笠をかぶり、梅紫色と白色の着物に赤色の女袴を着こなしている。和服スタイル。そして引いているのは人力車。
僕にはあんまり見る機会がなかった服装の子供である。
そんな子供に道案内をされながら僕は禁忌の森という場所へと向かっているのだ。
事の顛末はこうだ。
キユリーは禁忌の森に入っていった子供が心配になって助けを求めに来た。
けれど、キユリーが助けを求めようと駆け寄っても、人々はそそくさと立ち去っていった。
それを僕1人がこうしてキユリーに寄り添ってあげているのだ。
下心なんてない。たとえ通報されても僕は無実を主張できる関係なのだ。
しかし、キユリーか……。
僕とキユリーが禁忌の森に向かっていく最中、僕はキユリーの名字に興味を持っていた。
「なぁ、始まって早々にこれを聞くのもなんなんだが……。キユリーが名字ってことは先祖代々胡瓜農家なのか?」
ふと、独り言のつもりだった。
キユリーとキュウリって文字的にも似ている。ユをュに変えて、ーを外せばキュウリになるじゃないか。
名字の由来的にならあるんじゃないか?
だから、そんな曖昧な理由でそういう風な家系の理由なのかなと思ったのである。
いや、そもそも横文字の名前の由来ってなんなんだ?
そういえば、キュウリって夏とかに塩をかけて食べると美味しいんだよ。
キユリーにキュウリは通じるかな?
───ハッ!? 初対面の子供に向かって「名字が植物みたいだね。家系の理由かな?」なんて言ってしまった。もしかしたら傷つくかもしれない。
人力車を引いている人が胡瓜農家である確率は低い。
今後、キユリーと関わることはないかもしれないけれど、さすがに初対面の相手の名字について話すのはどうだろう?
僕は走りながらソッとキユリーの返答を待つ。
怒りで声も出せなくなっているかもしれない。その場合は素直に謝るとして、キユリーの機嫌を伺う。
「───人違いじゃないですか?
あっ、私の知人になら胡瓜農家の人がいますよ。森熊さんっていう老人で、私が遊びにいくと毎回キュウリを使って餌付けしてくるんです。
塩とか醤油とか付けて食べるとなんだか夏だな~って気がするんです。もう森熊さんのキュウリを食べないと夏だな~って思えなくなるんですよ。もし食べれないと春・秋・冬になっちゃうんですよね~。まぁ、四季じゃなくて三季ですね。
───ところでこのキユリーに何かご用でもあるんですか?」
「へー、お前の知人にはすごい人ばかりがいるんだな」
「知人皆がすごいんじゃないです。ただ、人脈が広いだけなんです」
なんだろう。こいつの話を聞いていると森熊さんという人が気になってきた。
機会があれば会ってみたいものである。
しかし、胡瓜農家ではなかったのか……。
いや、そもそもどうして胡瓜に話題が移ってしまったんだっけ?
僕たちは今、禁忌の森へ向かっている最中だったはずだ。
なのになんで胡瓜の話へと変わってしまったのだろう。
もしかしたら僕はお腹がすいているのだろうか?
それならば、禁忌の森へ向かう前に腹ごしらえでもしてくればよかった……。
なんて、後悔する時間も惜しいんだった。
「なぁ、森につく前に1つ聞いてもいいかな?」
「はい?」
「禁忌の森ってどういうのなんだ?」
「…………禁忌の森ってなんですか?」
「お前の記憶はどこへ消え去ったんだよ!!
お前が僕とこうして歩いている原因だろうが!!」
「ああ、禁忌の森ですね。あそこは誰も立ち入ってはいけない場所と言われています。呪われた場所です。なんでもその森は形が変わるとか……」
「形が変わる? 森なのに?」
「木々が気づかぬうちに動くと言われています。そうして簡単に遭難してオジャンですね。
一度入ったら簡単には脱け出せない森なんです」
行きはよいよい帰りは怖い……というやつだろうか。人食い森。
話を聞くだけでも恐ろしい。
「それってそもそも、僕も遭難するんじゃないか?」
「はい、そうなんです。遭難してしまいます」
僕はそんなしょうもないギャグにツッコムつもりはない。スルーだ。
それよりも、こいつが助けを求めても誰も協力してやらなかった理由はこれか。
確かに自分も遭難してしまうのは嫌だもんな。
「でも、安心してください!!」
おお、キユリーが安心できることを言ってくれるようだ。
それならば、是非聞いておきたいものである。
「禁忌の森は未開の地。噂では神のパワースポットや神獣がいるとか言われてます!!」
「おおっ!!パワースポットか。観光地になってそうだな。行ってみたいな。
いや、なんにも解決してないぞ。
結局、遭難してしまうじゃないか。観光地になったらどれだけの人数犠牲者が出るだろうな?」
「とりあえず、1年に国1つつぶれるくらいの観光客が遭難するんでしょうね。あっ!!
入場料制度でも作りましょうか。グッズ展開はしておいた方がいいかもしれません」
「確かに稼げそうだがキユリー。僕は他人の遭難で出たお金だといい飯も悪くなる」
「そうですか?
私は大丈夫です。どうせ世界では毎日何人も死んでいるんですからね~」
確かに世界では何人もの人が毎日死んでいるのだろうが、それ以上産まれているはずだ。
1000人と1500人だったかな?
現代ではそれ以上多くの人が死んでいるだろう。
高校の範囲で古事記を習わなかったため、噂程度にしか聞いたことがない情報だ。信憑性は低い。いや、あれは日本だけの範囲を言って、世界範囲は含むのだっただろうか?
そういえば、「決して見ないで」みたいなことを言ったイザナミの約束を破ったイザナギ。
あれも禁忌のうちに入るのだろうか?
禁忌……禁忌か~。
「なら、飯屋も入り口付近に作りますか!!
“最後の晩餐はこちらです”って言うキャッチコピーを取り付けて!!
更にゆるキャラの『禁忌君』を登場させます」
こいつの言う禁忌君を想像すると、なんか批判が来そうなキャラクターを想像してしまう。
ゆるくない気がする。もしくはゆるいけどその奥には……みたいな。
(近畿地方の禁忌君。そもそもここは近畿地方ではない。)
いや、待てよ?
逆に人気が出るかもしれない。逆に萌えるみたいな。
禁忌君か…………。
やれやれ、こうしてウキウキと金の妄想を膨らませる子供の頭の回転の早さはさすがの僕も驚かされるものである。
【今回の成果】
・キユリーと親友になったよ