12 ・朝起き探偵+本題
13日朝9時。
僕はカーテンから射し込んできた朝日の光で目を覚ました。
壁に飾られている時計は9時を指している。
昨日の就寝時間が遅くなってしまったせいだろうか。
あまり、熟睡したとは言えない。
しかし目が覚めてしまった以上、人の家のベッドで惰眠を貪るようなマネはしない方がいいだろう。
「ナベリウスさんおはよう……あれ?」
僕が起き上がって周囲を見渡すと、ナベリウスさんのベッドが僕の斜め前に置かれていた。
おかしい。僕はナベリウスさんと寝ていたはず。
それなのになぜ僕はソファの上で起床しているのだろう?
さらにナベリウスさんの姿がこの部屋には見当たらない。ナベリウスさんの部屋なのにナベリウスさんの姿が見当たらないというのはおかしい話である。
だが、僕の脳はとある1つの見解にたどり着いてしまう。
朝起きたてホヤホヤの脳みそで推理し、分かってしまったのだ。
「まさか、革命運動がバレて……王家の奴らに連れていかれたのか!?」
その見解にたどり着いてしまった瞬間に僕はソファの上から立ち上がる。
完全に目が覚めてしまった。惰眠を貪るような暇はない。
今頃ナベリウスさんは王家の奴らに捕まって、苦しい思いをしているかもしれない。
革命運動のリーダー格を人質にしておけば、彼らも運動を鎮圧しやすいはず……。
ああ、なんと卑劣な手を使う奴らだろう。国を納める者の風上にも置けない奴らだ。もちろん証拠はない。証拠はないがこの国の王家ならやるんじゃないかな?
「ふふふ、いくら証拠を隠滅した所でこの朝起き探偵である僕に解けない謎はない!!」
……などという決め台詞のような台詞を言っている暇はなかった。
僕は颯爽と外着に着替える。まるでヒーローの変身シーンのごとき速さである。
そして、自分の荷物が入ったバックを手にする。
こうして準備も整えた僕は慌てずにナベリウスさんの部屋から退出しようと扉へと向かった。
ナレーション『朝起き探偵。人間は朝に集中力が上がると言われている(諸説あり)。
その時間内だけ彼の脳みそは常人よりも上回り、どんな難事件も解決への糸口を探し当ててしまうのである。
さぁ、出番だ朝起き探偵。今日の事件はもう解決しているゥ!!』
ドアの前にたどり着いた僕はナベリウスさんの部屋のドアを勢いよく開けた。
それはドアを開ききったのと同時であった。
「朝からグチグチうるせぇクソ罪人!!!」
ナベリウスさんの部屋のドアの前に僕のように何者が立っていたことに気づかなかった。
その何者かの正体を把握した瞬間。
何者かの拳が僕の頬をおもいっきり殴ったのである。
「ブ…ハッッッァ!?」
殴られて床に倒れる僕。
僕は頬を押さえながら、横になった状態で天井を見ながら口を開く。
「ナレーション『事件解決へと向かう朝起き探偵にまさかの刺客!!
『今でも信じられないよ。君が犯人だったなんて……』
明かされる凶悪な犯人。
そして、この事件の本当の真相とは……!!
次回、朝起き探偵DX【最終回:新しい1日】』」
「なにグチグチ言ってるんだエリゴル。お前首輪のストレスでおかしくなっちまったのか?」
僕の次回予告の締めまではちゃんと聞いてくれた凶悪な犯人であったが、まさか朝起き探偵に直接手を上げてくるとは思ってもいなかった。
「バティン。今でも信じられないよ。君が犯人だったなんて……」
今までの思い出が走馬灯のように甦ってくる。
「なっ……!?
お前の妄想と走馬灯の妄想に私を捲き込むなよ!!
それにお前は探偵というよりは罪人なのを忘れたか?」
彼女の証言では僕の走馬灯は脚色されていた物だったらしい。失敗。
そして、バティンは目の前でしゃがみこむと、僕の首根っこを掴んでグイッと持ち上げる。
バティンが掴んでいる首輪のお陰で持ち上がりやすいのだろう。
「やあバティン助手。いい朝だね。ナベリウスさんはどこだい?」
「お前、マジで大丈夫か?
あの女なら姉様の所だが……。本当に大丈夫か?
さすがの私も不安になってくる」
珍しくバティンから頭の心配をされてしまった。
このまま彼女も少しは僕に対して優しさを見せてほしかった。暴言を減らしたり暴力を減らしたりしてくれたら僕は本当に嬉しかった。
「ああ、大丈夫な方だと思うよ。問題はないから心配しないグェェェェェ!!?!?」
そうして僕は首輪を掴まれたままバティンによって部屋から引きずり出される。
「まぁ、大丈夫ならいいんだ。あの女の所なら私が連れていってやる」
バティンは僕の首輪を掴みながら、引きずるように廊下を歩いていく。
これはいったい何のプレイなのだろうか!?
「バティン……首輪を引きずられると呼吸がしづらいのだけど。ねぇ、バティン?
ググッッ息が苦しい。マジで死ぬって。こきゅうがしづらいんだよ。
バティン? バティン? バティンさーん?
謝る。謝るから。ふざけすぎたことは謝る。
だから、許してくださいバティンさーん!!
おねがい。今度昼飯おごるからさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
廊下は一本道。ナベリウスさんがいる部屋すら知らない状況でバティンに案内される。
僕はこのまま生きている間にナベリウスさんのもとへとたどり着けるのだろうか。
廊下を歩いていたバティンはとある1つの部屋の前で立ち止まった。
そして持て余した片手でドアノブを回し、中には入る。
「姉様。命令通り罪人……いやエリゴルを連れてきました」
バティンはどうやらマルバスに頼まれて僕をこの部屋まで連れてきたらしい。
「ああ、ご苦労様バティン。しかしエリゴルの姿が見えないんだけど?」
彼女の視界から見ると入ってきたのはバティンただ1人しか見えてないらしい。
「いえ、姉様。エリゴルは途中で倒れてしまいまして……私がドアを開ける際に邪魔になったのでこうして床に横たわらせているのです」
そのマルバスの疑問にバティンは堂々と嘘をついて返す。
真実とは違う虚言だ。
真実はバティンが僕の首輪を掴みながら、引きずってここまで連れてきた。
それが正しいはずなのに、バティンは自分には非がないと嘘を言い張る。
僕は呼吸をうまくできない状態で途切れ途切れの発音になりながらも真実を伝えようとした。
「ちが…………マルバス。犯…………人こい……つガッ!?」
バティンが僕の腹を蹴る。
命の恩人の妹に暴行されてしまった。これまでは悪口だけだったのに、ついに暴行に手を出しやがったのだ。いや足か。
こうして、その痛みに気をとられて真実を公表できない僕の代わりにバティンは言った。
「それで何故なのでしょうか姉様。こいつが何の役に立つと?」
「ああ、丁度いい質問だバティン。オレらはもう親睦を深めちゃったからな。
そろそろ本題に入ろうと思っていたんだ。オレ宛に来た父上からの新しい仕事さ」
本題? 新しい仕事? マルバス宛に来た?
マルバスの発言に僕は疑問を浮かべる。
そのまま、僕は起き上がってバティンの側から離れ対置に移動する。
すると、ようやくこの部屋の全体図を把握することができた。
沢山の本棚が規則性もなく置かれた部屋の中央に4人ほどが座れる椅子とでかい机が置かれている。
その椅子に座っているのがマルバスとナベリウスさん。
マルバスの「親睦を深めちゃったからな」という台詞から2人は僕がいない間に話をしていた事が理解できる。
そして、本題とやらに入るためにバティンに僕を連れてこいと命令したのだろう。
だからバティンは命令通りに僕をこの部屋まで連れてきた。
僕とバティンがこの部屋に入ってきたことで話が本題へと進むようだ。
「なぁ、なんだよバティン。本題って?(死ね)」
「私も知るわけがないだろ?
姉様の計画を全て理解できる人はいない。
まぁ、私は最も姉様に近い頭脳を持ってはいるが私にも分からん(そしてお前こそ死ね)」
どうやらバティンは本題とやらの真相を聞かされていないらしい。
これをネタとして「お前マルバスに本題聞かされてなかったな!! お前はマルバスにとって僕と同じ『後で説明すればいいか』の存在なんだよ!!」とバティンを復讐もかねてバカにしたい気分になったが、その時こそ本当にバティンに刺されそうなので耐える。
そんな事を僕が考えているとは露知らず、ナベリウスさんはマルバスに問う。
「それで本題というのはなんでしょうかマルバス様?
革命運動を目論む私の家に押し掛けたことにも関係があるのですか?」
「ああ、ある」
マルバスはナベリウスさんの問いに一言だけ返した。
ナベリウスさんと関係がある事。
マルバスは何を指令されたのだ?
国主は何をしようとしているのだ?
「なぁ、マルバス。それで何をするんだ?
本題? 新しい仕事?
お前は国主に何を指令されたんだ?」
僕は早くその答えが知りたくてマルバスに問いかけた。
「…………我らがこの国の革命運動に手を貸してやってもいいという指令だ」
「「はぁ!?」」
マルバスからの本題にバティンと僕は驚く。
モルカナ国の後継者がアナクフス国の革命運動に手を貸してもいいという事だろうか。
それってバティンが今朝僕に対する不安で言っていた国際問題に繋がるじゃないか。
つまり、モルカナ国がアナクフス国に戦いを仕掛けるも同然じゃないか!!