11 ・良い話+悪い話
ここで良い話と悪い話がある。
良い話・・東の町にやって来た2人組の女性は釘野郎のような僕を狙ってきた暗殺者ではなかったことだ。
悪い話・・東の町にやって来た2人組の女性は釘野郎のような僕を狙ってきた暗殺者ではなかったけれど……。
僕とナベリウスさんが外へと飛び出して出会ったのは、それ以上に厄介な人たちだったのかもしれない。
悪党達に警戒の目を向けられながら、やって来た2人組の女性は僕の知人であった。
「うそだろ…………?」
僕の目の前にいる2人はなぜここに来ているのだろう。
「エリゴル!!
迎えに来てやったぜ」
「おい、クズ。貴様、姉様は貴重な睡眠時間を割いてまで探しに来てやったんだ。
這いつくばって姉様に詫びろ!!」
やって来るとは想像もしていなかった2人の姿がそこにはあった。
マルバスとバティンの姿がそこにはあったのである。
予想外の再会から数十分後。
「……というわけなんです」
ナベリウスさんの部屋で僕とナベリウスさんは正座しながら、2人にこれまでの経緯を説明した。
「「ふむ…………」」
こうしてすべての事を2人に説明したが(左目の事以外)、もちろん首輪の爆弾が爆発することはなかった。
この爆弾は夜2時を過ぎても解除できない場合と人に喋った場合に爆発すると前にナベリウスさんから教えてもらったが、さすがにナベリウスさんも爆発させる気はないらしい。
マルバスが目を光らせているので下手な行動はできず、全てがバレる事を諦めているようだ。
「なぁ、どうやって僕の居場所が分かったんだ?」
「ああ、お前の様子が最近おかしかったんでな。モルカナにいる時と比べると、いつもより遅く起きて、いつもより早く寝ている。
だから、怪しいと思って起きてみたらお前が夜遅くに出歩いている事に気づいたんだ」
それでつけてきたという訳か……。さすがマルバス。観察力が優れている。
いつもより早く寝ているのは、2時までにナベリウスさんの所へと行くために睡眠を取ろうとしていたので正しい。
しかし、いつもより遅く起きているのはナベリウスさんが原因ではない。
原因は妹メイドちゃんである。
モルカナ国では妹メイドちゃんが毎朝目覚まし代わりの暴力で起こしてくれたので目が覚めていたが、今回はそれがない分眠れているだけなのだ。
「すみません。私の私情であなたの国民の1人に迷惑を……」
「ああ、そうだなそうだな。貴様のせいでこの罪人はこの国の革命運動に関わることになったからな!!」
「おい、バティン。しょうがないだろ?
教えなかったのは悪かったけど。命に関わる問題だったんだし……」
「貴様。これで、もしも私らがこの国との同盟を結べていれば、貴様はモルカナ国からの刺客と誤解される羽目になったかもしれないんだぞ。
同盟を結んで即裏切った事になるんだよ。」
「まぁまぁ、バティン。エリゴルも仕方がなかったんだ」
「しかし姉様。私は認めかねます。
下手をすれば国際問題でした。
もしも“あの件”もなく同盟を結べていた場合。
その同盟国の住人の1人が革命運動に参加していると知れたら……戦だって起こるかも」
バティンから疑いの目を向けられて、僕は彼女の目からプイっと顔を背ける。
すると、マルバスが僕の頭に手を置いてくる。
マルバスは何をするつもりなのだろう?
僕は頭に置かれたマルバスの手の重みを感じながらもプイっとそっぽを向いたまま考える。
その後、マルバスは無理やり、僕の頭を動かし視線を合わせてきた。
「なぁ、エリゴル。お前はオレ達の敵になったりしないもんな?」
頭に手を置かれたまま、僕は彼女からの質問に縦に頷いて返事を返す。
「ほら、エリゴルもこう言ってる」
マルバスは僕の反応を見て、純粋に判断したようだ。
ただ頷いて返事を返しただけで信じて貰えたのは僕としてはうれしい。
しかし、それを信じられる人がいないのは当たり前である。
「ッ………………姉様も父上もなんでなんですか。どうして、こいつを気に入っているのか私には分かりません。こいつに何があるんですか?」
バティンは正座している僕を指差しながら声をあげる。
彼らが気に入る価値がないと僕の事を罵ってくる。
その言い様に僕は腹立たしくもあり、納得させられもした。
認めたくはない。認めたくはないがバティンの言う通りだ。
こんなにも罪人の僕が手厚な待遇を受ける筋合いはないはずである。
確かに、罪人である僕は国主の御家に逆らえば死刑になる。
けれどその代わり、部屋を用意されて、姉メイドちゃんが起こしに来てくれて、食事と外出の自由を与えられている。
「バティン……。これも父上の命令だ。そして、“これからの事”も」
これからの事?
マルバスが何かを企んでいるような言葉を使った。
先程のバティンの言っていた“あの件”といい、マルバスの言っていた“これからの事”といい、僕が知らない出来事を彼女達は行っているのだろう。
たぶん2人も僕のように秘密を隠していたのに、僕ばかりが責められている。
やれやれ……。僕が罪人だからという理由だけで不公平だな。
だが、僕はここで不満や意義を唱えるほど幼くはない。
今僕は自分の状況が空気と同一だと言うことを理解してちゃんと聞き役に回っているのだ。
しかし、その聞き役係もすぐに終わった。
マルバスは再び一度ナベリウスさんの顔を見て、告げる。
「では、ナベリウス。明日お前に話がある」
「はい……分かりました。それであなた方はどうするおつもりですか?
良ければ……」
ナベリウスさんは「今夜も遅いし、もう泊まっていかせよう」と判断したのだろう。
この東の町で一晩泊めさせてあげようという気持ちの表れかもしれない。
しかし、マルバスはナベリウスさんからの断った。
「………!?
今宵は帰る。エリゴルは置いていく。
よし行くぞバティン。父上に連絡せねばならなくなった」
マルバスはバティンに退出を呼び掛ける。
その流れるような速さに驚かされたが、1つ気づく。
マルバスはきっとバティンの気に触れる発言だった事に気がついて問題が起こる前に退出しようと考えたのだろう。
「大概にしろよ!!
姉様をこんな東の町みたいな浮浪の場所で寝させられるか!!」とでも怒鳴られそうだ。
ナベリウスさんもその発言を言った直後にハッと気づいたように口を押さえていたのがその証拠である。
さて、肝心のバティンはというと……。
「はい……分かりました姉様」
ナベリウスさんの発言の失敗には一切気づいていなかった様子ではあったが、その表情は納得がいっていないという印象を感じさせられた。
おそらく僕の事だろう。
バティンはその表情のままマルバスの後を追うように部屋から出ていった。
僕をこのナベリウスさんの家に置き去りにして……。
「あれ? まさか僕はここで寝なきゃいけないのか?」