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10 ・戦のない清らかな世界+13日

 13日。深夜1時30分。残り30分。

僕は今夜もナベリウスさんの家へと向かった。

キンスリード宿屋を誰にもバレないように脱出し、夜の町を駆け、白い尻尾の誘惑にも耐えた。

あの白い尻尾には何故だか分からないけれど、近づかない方がいいと僕の本能が告げてくれたからだ。

なので、お陰でこうしてナベリウスさんの家にたどり着くことができたのである。


「やぁ、エリゴル君。今宵も夜更かしさせてしまって悪いね」


そう言って出迎えてくれた彼女はぱっちりと目が覚めている。

カフェインでも取ったのか、昼寝をしていたのか、どちらかは分からないけれどこうして起きておくために何か工夫をしているのは感じ取れる。


「やあ、こんばんは。早速だけど解除して貰ってもいいかな?」


僕はそう言ってドアを閉めると、彼女の部屋へと一緒に歩いていくのであった。




 そして10分後。

ナベリウスさんの部屋にたどり着いた僕に彼女は首輪の爆弾の解除を行ってくれた。


「…………よしこれでおしまい。これを16日の深夜2時まで続けなきゃだからね~」


彼女はそう言ってホッと一息つきながら、両手でカップを持ち、紅茶を飲み始めた。

そんな彼女を見ながら僕はふと呟く。


「じゃあ、まだまだナベリウスさんと会えるんだ!!」


その一言に彼女の動きが止まる。

いけない!! 先程までの恋愛疑惑脳を引きずってしまっていた。


「あっ、いや。この国の事とかもっと聞いておきたいですし……。観光地とかナベリウスさんなら知ってるだろうなと……」


必死な言い訳だったが、とりあえずは弁解できたはずだ。

そう思って僕は彼女の顔色を伺うと、彼女はフッと頬を緩ませてくれた。


「ふーん、変なこと言うね。意外だなぁ。

私がその首輪爆弾を仕掛けた張本人だよ?」


それは分かっている。

こうして僕を命の危険に会わせても誰かにこの結末を見届けて欲しかったというのも理解している。


「ああ、最初は驚いたけど。今となってはナベリウスさんに会う口実になってるし……。

別にアリなのかもなって……」


「ハハハッ、“モルカナ国の人達”はどうしてこう……不思議というか、面白い事をしでかすんだろうね」


「そうかな? 面白いか?」


彼女の笑顔を見て、少し照れ臭くなってしまい僕はその気持ちを紛らわすために自分の頬をかく。

しかし、彼女の発言の一部が気になってしまった。


「モルカナ国の人達ってことは前にも僕以外のモルカナ国の人に会ったことあるの?」


あくまで話を広げるための質問である。

単純にナベリウスさんがモルカナ国の人と接点を持つのが意外だと思ったのだ。


「う~ん、そうだね。モルカナ国の人はよくこの国に来てたよ。まぁ、観光目的だろう。我が国には色々な国の人が休暇を過ごしにやって来る。ここにはあんまり自慢できる物もないんだけどね……」


だから、マルバスたちはこの国を旅行先に選んだのかもしれない。

まぁ、肝心の旅行客である僕たちは観光と呼べるほどの観光をしてはいないが……。


しかし、どうだろう。もしも彼女がこの国に革命を起こすというのなら確実に争いが起きる。

これは観光気分を味わう所か、戦いに巻き込まれているのではないか。

革命か…………。やっぱり避けては通れないのだろうか。もうこの場で聞いておきたい。


「────でも、革命を本当に起こす気ですか?」


「………………ああ、2年前から計画している。みんなもその日を待ち望んでいる。私をリーダーと認めてくれている」


「でも、ナベリウスさんがリーダーになる必要があるんですか?

戦いなんて……」


正直な所、本心では僕はナベリウスさんが戦いに参加するのを見たいと思っていない。

確かにこの国に不満を持っている人がいることは分かっている。

けれど、本当にそれが正しいことなのかは僕にはわからない。

この国が荒れるのを見たいとは思えない。

ナベリウスさんが死ぬかもしれない危険な目に会うのを見たいとは思わない。




 しかし、僕の想いは彼女には届かなかった。


「でも誰かがやらなきゃいけないでしょ?」


「……!?」


「動き出さなきゃ変わらない。

その先の未来がこの国の陥落だとしても……。私たち東の町が滅ぼされたとしても……。

このクーデターは中断できないんだよ」


「…………仮に勝利できたら、今の王家はどうなるんですか?」


「命までは取らないはずだよ。ただ彼から王権を奪い取った暁には幽閉させてもらう。

そして、現王家反対派勢力が国を統一するのだろうね」


「でも、その時またこの国が2つに分断されるんじゃないですか?

今よりひどく東と西に……。現王家派と新政治派で……。

そうなったらまた……」


「うん、戦いは起きるかもしれないね。内戦だ。けどね、私はこの国が再び立ち直れると信じてるんだよ。

国があれば未来は来る。滅びても、生きている者がいれば1からやり直せる。

そうした積み重ねがきっと未来へと繋がる。


私は今よりも良い未来、遠い未来…………戦のない清らかな世界を信じているのさ」


彼女の視線はその未来を今写しているかのようにキラキラと輝いている。

東の町の住人たち……この国の国民も一部だけが国を相手に戦おうとしている。革命を起こそうとしている。

そんな彼女らの革命を僕は正直無謀だと思っている。

東の町の住民…………この国の一部の住人だけで国を相手に反旗を翻そうとするなんて無謀すぎると思ったのだ。


「そうなのか……」


だが、その考えを口に出すことが僕にはできない。

諦めろ!!と現実を突きつけてもたぶん彼女たちは理解しているはずだ。

自分達の実力を理解した上で革命を起こそうとしているのだ。

自分達の行動によってこの国がさらに悪い方向に滅びたとしても、遠い未来で自分達を失敗例だと学んでもらえればよいのだろう。

彼女はこの革命が戦のない清らかな世界が来る事の役に立つように望んでいるのだ。


「ナベリウスさん…………僕もそう思うよ。きっとその未来は来るよ。僕は戦のなくなった国って奴を知っている。

だから、遠い未来かもしれないけどそんな世界はきっと来るよ!!

……絶対にそんな未来をこの目で見てみせるから!!」


「ああ、ありがとうエリゴル君。

だけど安心して……。私も生きている間はこの目でそんな未来を見るために諦めないから」


僕たちが見たいのはこの世界が本当に戦のない清らかな世界になった姿である。

どちらかが先に死ぬかもしれないし、両方生き残るかもしれないし、どちらも死ぬかもしれない。

けれど、僕はナベリウスさんの言うそんな世界を見てみたくなってしまった。





 僕はもうナベリウスさんを止めようとは思わない。

僕はこのまま革命を見届ける。そして、この革命がどう動くか、この世界に影響するのか。僕は知りたいと思ってしまった。

───しかし、そんな2人だけの時間に突然の報告。


「失礼します東の魔女様。お急ぎの報告です!!

緊急事態です!!(悪党)」


ナベリウスさんの部屋にノックもしないで1人の男が慌てた様子で入ってきた。


「どうしたの? 悪党Gさん」


「現在、東の町に侵入者です(悪党G)」


「こんな夜更けに誰が…………まさか王家の手下?」


「いえ………それが2人組の女性でして。押さえつけようとした数人が怪我を負わせられました。いずれも致命傷ではありません。ですが侵入者達はその男の名を……(悪党G)」


そう言って悪党Gは僕を指差してくる。

その侵入者達は僕を狙って来ているのだろう。

しかし、僕はそんな2人組に狙われる理由なんてない。

だが、思い出す。

釘野郎のように僕に向けられた暗殺者の刺客の可能性があることを……。


「釘野郎みたいな暗殺者の可能性もあるのか……くそッ、なんでこんな時に……」


とにかく、このままでは関係のない東の町の住民に迷惑がかかる。僕の暗殺者の場合、彼女らを巻き込むべきではない。

僕が早く2人組の餌となり、この町から離れないといけない。


「ナベリウスさん。僕が行きます。僕が呼ばれているのだから。僕が行かないと……」


しかし、困った。2対1では勝ち目が無さすぎる。

前回の釘野郎戦も偶然の勝利みたいなものだ。

今回も勝てるとは限らない。

だが、今僕には不安になっている暇がない。一刻も早く被害を減らさないと……。

僕は急いで外へと向かおうとするが、ナベリウスさんに服を掴まれてしまった。


「待ってエリゴル君」


「いや、でも…………このままじゃ僕のせいで」


「私も行く。1人より2人の方がいいでしょ?」


彼女をよく見ると、ナベリウスさんは左手に武器を構えていた。

銃だ。小型銃。


「ああ、そうだね」


僕はナベリウスさんにその一言だけ返して、部屋を後にする。

そして、悪党Gを部屋に残し、僕たちは外へと続く廊下を走り抜けて行くのであった。

3月より全ての方の健康的生活のため土日夜の2時から土日0時に変更させていただきます。申し訳ありません。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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