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8  ・富裕層の町+ベンチの男

 「ギャァァァァァァああ……あ?」


辺り一面が僕の血液と僕の血肉で染まるかと思われたが、全く染まることもなく僕は目を覚ました。

ここはキンスリード宿屋の一室。僕の借部屋だ。

首を触ってみても、首輪はまだ付いている。


「夢か……?」


なら、あの犬もあの謎の教会も夢の中の出来事だったのか。


「はぁ~よかったよかった」


僕はベッドから降りて、洗面台へと向かう。

この部屋は1部屋に1つ洗面台とトイレとお風呂が備え付けられているので、数歩歩いただけでたどり着ける。

寝癖を治し、顔を洗って、寝間着から着替える。

その後、朝食を食べるつもりなのだが、昨日は朝食と昼食は1階にある売店の商品をマルバス達が買ってきてくれた。

そういえば、昨日は部屋から出るなと言われていたため、そうなったが今日はどうなのだろう。

僕としてはそろそろマルバス達とこの国を観光してみたいと考えてしまう。


「そうだ。そうだよ。観光してもいいじゃないか!!」


僕は身だしなみをきちんと整えて、隣部屋にいる2人に会いに向かう。

僕の部屋と2人の部屋は間に廊下がある。

僕が扉を開けたら、その隙間が埋まるくらいの横幅が狭い廊下だ。




 ドンドンドン

僕は隣部屋のドアをノックする。


「せっかく来たんだしこの国を観光しないか?」


すると、部屋のドアが開き、顔を見せたのはバティン。

彼女はドアをノックしたのが僕だと分かると、すぐに僕の顔を睨み付けながら怒鳴ってきた。


「駄目だ。1人で行ってこい。私と姉様は今父上と手紙のやり取りを行っている最中だ!!」


そして、勢いよく隣部屋のドアは閉められる。


「…………」


今日の予定は決まった。

昨日は観光できなかったから今日はこの国を観光する。


「はぁ……なんだよ2人とも」


ただし、また一人っきりでだ……。





 キンスリード宿屋から出てみる。

朝の町はとても賑わっているようでどの店も活気づいていた。


「いらっしゃい!!」

「安いよ。朝のセール開催中だよ」

「弁当いかがですか? 今ならモーニング弁当が買えますよ」


朝からこんなに元気を出して商売をしていて、疲れないのだろうか?

僕はそう思いながらもモーニング弁当を1つ購入した。

そして、そのままこの弁当をどこで食べようかと悩みながら町を歩く。


「ナベリウスさんの家で食べるか?

いや、朝飯を食うためだけに行くのは失礼か……」


せっかくこの国に観光しに来たのだから、この国の名物料理を食べ歩きしてみたい。

だが、そんな望みも僕の所持金では叶えられない。

1人きりでお金もない1日を過ごすというのはなかなかキツそうだ。


「ふむ……なら今日は西に行ってみるか?」


とりあえず、僕はこのまま西に向かってみることにした。

そうすれば、観光にも時間潰しにも食べる場所を探すことも可能。

我ながら良いアイディアを思い付いた物だと感心してしまう。自画自賛である。




 時はもうお昼時。

この間、僕は西に向かってひたすら歩いていた。

この国は東と西で分かれているとは聞いていたのだが……。

西に向かうとまずお城があった。

そのまま西に向かってひたすら歩いていくと、物珍しい品物や商品が売っている店達を見かけた。

しかし、どこも値段が高い。

高級品ばっかりだ。さすが富裕層の暮らす地域。

僕は驚きと興奮を感じながら、いろいろなお店を見て回っていたのだが……。


「おいおい、兄ちゃんお金あるのか?」

「おや、旦那。中間層の人かい?

贅沢して何をお探しに?」

「失礼ですがお客さん。うちは食品の持ち込みを禁止させていただいておりますので……」

「申し訳ありませんお客様。当店はそもそも所持金の額が一定を超えなければ入店できない決まりでして……」


数店舗かでは僕が冷やかしに来たと思われて追い払われたりもした。

どうやら僕のモーニング弁当を見て、所持金が少なそうと判断されたらしい。あとは服装だろう。

だが、僕はそんな店に文句もクレームも言うことなくただ立ち去る。

金無しの僕が高級品の連なる町にいるのが悪いのだから……。


「ちぇっ……ゆっくりウィンドウショッピングも出来なかったな」


結局、僕はベンチに1人座って眺めることになった。

結果的には丁度いい。ここでモーニング弁当を食べることができる。

富裕層の暮らす町で弁当を食べる。

金無しを見せつけているような気分になるが悲しくはない。

側を通る富裕層の人間達から不思議な者を見るような視線を向けられているが……。それがどうした!!

だって、うちのバックには国主がいるのだ。

こんな富裕層の奴ら以上の大物がバックには存在している。

なので、彼らの反応を妬ましくなど思わない。


「ふふふ、誰も僕のバックにモルカナ国主がいることを知らないんだ……。そんな僕にその視線を向けるなんてな……」


思わず口に出てしまったが、誰にも聞かれていないので問題なし。

僕は富裕層の商店街の様子を見ながら、「いったいこの商店街の品物をモルカナの国主はどれ程買えるのだろう?」と想像してモーニング弁当を食べるのだ。

もうモーニング弁当が冷えきっているのにも気づかずに……。




 その時である。

僕がモーニング弁当を食べている最中に1人の男が僕の隣のベンチに座りに来た。


黒きマスクに黒いコートを着て、黒い髪型にはパーマがかかっている。全身黒い格好であるが、反対に肌は雪のように白かった。

見た目は30代から40代くらいだろうか?

ただ、とても若い人には見えない。

その男を初めて見た時の印象は亡者。

暗く疲れきった表情や目をしていた。


男が重そうなたくさんの袋を持って、ベンチに座って休憩している。

そんな彼に僕はつい一言声をかけてしまった。


「たくさん買ってますね……」


「?」


「あっ、いやなんでもないです」


やはり声をかけるべきではなかったのかもしれない。

僕は再び弁当を食べる。

しかし、彼は自分の袋の事を話題にされていると気づき、僕に返事を返してきてくれた。


「ああ、この袋の事……。

つい調子にのって買いすぎてしまったのさ」


どうやら話しかけても迷惑に思わない人だったらしい。

僕は安心して彼と話をし始める。


「そうなんですか。だから、沢山の商品を買ったんですね。しかしこんなに買ってすごい出費だったでしょう?」


「ああ、高級品だらけだからな。お前もこの商店街で買い物か?」


「はい。ですがお金が足りなくて……結局ウィンドウショッピングになっちゃいましたよ」


「それは災難だな。俺も最初はビックリしたさ。商品を見に行ったら冷やかしか?と脅されて……」


「ああ、僕もです」


「だからな、財布を見せると店員達は目の色を変えてきた。土下座したり急に甘い声になったり……媚を売りまくってたよ。そして高い物を売り付けようと必死にアピールしてきたんだよ?

だから一番安い商品を1つだけ買ってやったのさ」


「なるほど。それを繰り返した結果ですか」


「ああ、恥ずかしい限りだ。俺もすっかり大人なのにね」


「アハハハハ。いえいえお陰でなんだかスッキリしましたよ」


「そうか。それはよかった。

そういえば、お前は観光客なのか?」


「はい、モルカナ国からこの町に初めて来たばかりです。3人で来たのですが、2人が部屋に籠ってしまって時間潰しを……」


「モルカナ国……」


急に彼の態度が変わった。モルカナ国に何か思うことがあるのだろう。

だが、その態度の変化は一瞬で、彼はもとの様子のまま口を開く。


「モルカナ国か。行ったことないな」


「そうなんですか? いい場所ですよ?」


「いや、行けないんだ。昔の知人に会いたくない。

あいつは何とも思ってないだろうが、俺があいつを嫌っている。

まぁ、あいつ……昔の知人が悪い奴な訳ではないんだ。ただ俺が嫌いな恋敵なだけさ」


彼が語る口調からは少し悲しそうな雰囲気を感じとることができた。

昔、恋敵と何かトラブルでも起きたのだろう。

僕はさすがにそれ以上聞くわけにはいかなかった。


「そうでしたか……」


「……まぁ、若者に言う話ではなかったのかもしれないな。忘れてくれ」


そう言い残し、彼は再び重そうな袋を手にいっぱいかけて立ち上がった。

そんな彼に僕は1つ謝らなければならない。


「あの……すみません。恋敵がいる国だとは知らず」


「ああ、別にあんたは知らなかったんだから気にするな。

じゃあな若者。俺はこれから仕事なんだ。

せいぜい自分の国を大切にな」


彼はそう言って僕の前から立ち去ってしまった。

話してみれば、亡者みたいな印象は無くなり、どこにでもいるようなオジさんみたいな印象へと変わったが。

彼がなんだか只者ではないと僕はそんな風に思ってしまった。




───そして僕と彼が再び再会するのはこれから少しあとの事となる

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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