6②・チェンジ+12日
悪党Hとの会話を終えて、ナベリウスさんの家にたどり着いた僕を出迎えてくれたのはナベリウスさんだった。
「よく間に合ったね」
そう言って僕を家の中に通してくれるナベリウスさん。
「間に合いました?」
「うん。エリゴル君はちゃんと時間が守れるいい子なんだね」
「そりゃ自分の命がかかっているんですから。当然ですよ」
僕の首には彼女が仕掛けた爆弾が取り付けられていて、2時に彼女に解除してもらわなければ爆発してしまうのだ。
そのため、僕は仕方がなく彼女の家に数日間通わなければいけない。
「そうだね。それにしては時間がかかったんじゃないかい。私はてっきりもう少し早く来るかと思っていたんだけど……。
まるで誰かとお話でもしていたみたい……」
「すごいな。バレちゃった。じつは先日襲われた悪党の1人とお話してたんですよ」
「やっぱりね。何か悪いことはされていないよね?」
「はい。あんたの知り合いだからもう襲わないって言われた。
それよりも色々と聞きたいんだけど……」
「そうだね。君に見届けてほしいからと言って首輪を付けられている訳だから、その理由くらいはいわなきゃかわいそうだ。
だけど、それは今日の解除を終わってからね!!」
ナベリウスさんの家の長い廊下を歩き、ようやく僕たちはナベリウスさんの寝室にたどり着いた。
カチッ…………ピーピー……チッツッ
今、僕はナベリウスさんのベッドの上に座らされて、横からナベリウスさんが僕の首輪の解除を行っている。
「はい。今夜の分は終わったよ」
「ありがとうございます!!」
被害者であるのにお礼を言ってしまった。
しかし、目の前の加害者が加害者として認識できないのはなぜだろう。
僕の命は彼女の手に握られているというのに敵意を向けることができない。
美人だからか?
「それで……今夜は聞きたいことがあるんでしょ?
そこに座ったままでいいから聞いて?」
ナベリウスさんが僕の隣に寄せるように座る。
「じゃあ……この国が変わった元凶が権力争いにあるって聞きました。そのことについて詳しく聞きたいんですが……」
「ああ、いいよ。
過去の王家が納めていた時代……。
それは戦の時代だった。
各国が領土を奪い合い、この国の統一を目指していた。
その戦乱の世に我が国も巻き込まれたらしい。
何度も何度もこの国は攻められていたようだ。
そして、停戦。
その数十年前に王家に2人の男の子が産まれたんだ。この2人を兄と弟としておこう。
だけど、兄弟が王の座を継げる年になった時、その頃はこの国を大飢饉が襲ったらしい。
しかし、それまでの王は予想外の事態に対応して努力した。けれど国を平穏に導けなかった。
そんな時代を変えようとしたのが兄弟だ。
兄は王の跡を継ぐような政策で国を豊かにしようと考えた。
弟はより外国との交流を重視して経済を成功させようと考えた。
だが、戦疲れと大飢饉の影響もあったからね…………。
権力争いの結果、国民は弟を選んだのさ。もちろん最初の頃はよかった。
だけど、富裕層の暮らしとは裏腹に平民の暮らしは変わらない。
外国からのおいしく安い物が増えてきて、国内で昔から貿易していた場所の物は売れない。
貿易しようにも、国の許可がないと貿易できない。
次第に、富裕層の傘下のお店だけになってきて……個人店は消えていった。
その頃だ。弟の息子『カイム・カラストリロ』が王様になる。そいつが本当に厄介な奴だった。
そして富裕層が急激に金儲けを始めようとしたんだ。
税がどんどん上がり、値段もどんどん上がり、しかし給料は変わらない。
声をあげても何も変わらない。逆らうことは罪になった。王が全ての国だからね。
───結局、『カイム・カラストリロ』には貧困層の気持ちが分からないのさ」
「そうなのか……」
「分かりやすくまとめると、この国では【外国>王>富裕層>金>中間層>貧困層】となっている。これが全てだ。正しさも間違いも関係ない」
「しかし、そんな原因だとはいえ、東の町は荒れすぎじゃないか?
こんなに廃墟みたいな町にまで普通は堕ちるものなのか?
中間層のお店に働き口でも探せばお金も少しは稼げるんじゃ……」
思い浮かぶのは初めてこの東の町に足を踏み入れた時の印象である。
戦火に巻き込まれて数日経過したような景色の場所である。
中間層の町で働き口とかを探せば見つかりそうなものなのに、この町の住人は世紀末のように荒れ果てていた。
「東の町は基本、本当に金が無くなった極貧者の町さ。明日食べる物も乏しい人たちが集まっている。
けれど、中間層の住人は東の町の住人と接触することはできない。あの門を越えることはできない。入る者を拒まず出る者を拒む。住人があの門を越えたのが見つかれば罪なのさ。
だが、特例がある。それは間を移動するには町の代表を連れていかねばならないという事」
「それが…………お前なんだな。東の魔女」
「そうだね。これで分かったかな?
私が悪党達にすら慕われている理由がさ。
そういえば、中間層では私を理由に子供に指導しているらしいよ。魔女がいるから行っちゃ駄目だと……ははは笑えるね」
だから、悪党は彼女の知り合いである僕に手を出せなくなったのか。
しかし厳しすぎじゃないか。町を移動するにも罪になるなんて……。
ん? 町を移動するのが罪?
「なぁ、ナベリウスさん。つまりさ……僕がこうしてナベリウスさんの家に来ている事を誰かに見られたらどうなるの?」
「それはもちろん君は罪を犯したことになるよ。国内でも罪を背負った君が国外でも罪を背負う……エリゴル君は罪人の適性があるみたいだね。アハハハハ!!」
ナベリウスさんの笑い声を聞きながら、僕は馭者の話を思い出す。
禁忌の森みたいな行っちゃいけない場所はなかったはずだと彼は言っていたが、嘘を言われたことになる。
結局、禁忌の森みたいに僕は罪を負うことになってしまっているのだ。
もしかしたら僕はナベリウスさんの言う通り、罪人の才能があるのだろうか。本当にいらない才能である。
数秒後。ナベリウスさんは僕の事を指差して笑い終えると、ベッドから離れて立ち上がり、僕の正面に移動した。
「いや~笑って悪かったね。さて、そろそろ本題に入ろうか。14日のことについて話そうじゃないか」
「14日にはいったい何があるんです?」
「…………私たちはもう数か月前から決めていたんだ。計画も練ってきた。そろそろ話さなきゃね」
彼女はそう言うと、僕の両肩に手を置いて、ジッーと僕の顔を見つめてくる。
「あの…………ナベリウスさん?」
「私はね。この国を変えようとしているんだ。怖くはないよ。
今の国王を打ち倒し、新しい国を作るのさ!!
私の調査では必ずやり遂げれると確信している。14日~16日の間に終わると予想しているんだ。
東の町は王家に攻め入る。革命だ!!
この国に革命を起こすのさ!!」
「かっ、革命!?」
革命って王族相手に戦いを挑むって意味なのだろうか。
つまり、僕はその革命の結果を見届けなければいけないと言うことか!?




