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1④・不審者変質者+宣教師

 さて、全裸で女性に強烈なビンタをくらった男。現実世界なら、出会った瞬間に即通報されて大学行きが取り消しになり、悪い方のメディアデビューしてしまうこと間違いなし。確定演出。ただの不審者変質者。

残念ながら、それは僕だ。

そんな僕の自己紹介がまだ足りていないかもしれない。


僕の本名は『宮本みやもと かおる』。どこにでもいる普通の高校生♪

「いけなーい遅刻チコッ!?!?!?!?」

僕はある日、公園を散歩していたときに高級車に跳ねられてその生涯を閉じる。

しかし死後、頭の悪そうな黒髪の―女神―ルイトボルトに出会い。

「あなたに新しい命をあげるから頑張って!!よろしく~」

軽々しく女神に命令され転生して来た…………。


なんてライトノベル風なことがあれば僕的には幸せなことだ。



 高校の卒業式のあの日。

最後に校歌を歌っている最中であった。

そのときは体育館の窓の外から心地よい風が吹いてきて、「ああ、この校舎とも今日でお別れか」なんて目を瞑って思い出の日々を思い出していた。

だが、次に目を開けた瞬間に、新しい景色が目に飛び込んできた。

そこはどこかの教会らしき場所。

体育館が改装してクリスチャン高校になったわけではない。それに、そんな工事をするなんて聞いていない。周囲の人も見知らぬ人達だったし、校長先生の代わりに神父さんが話をしている。


「ええ……これから君たちは宣教師としてありがたいルイトボルト教の教えを各地に広めてもらいます。読み語るための書物は各自後で貰っておいてください。それでは…………」


何かの宗教の教え? 宣教師?

いや、しかし、高校の卒業式から旅立ちの始業式に変わるとは思いもしなかった。

いや、そもそも待ってほしい。なんで、ここに僕がいるのだ?

こんなところにいきなり移動させられて僕の頭は冷静さを失っていたのである。




 始業式は終了し、何も分からないまま僕は教会から外に押し出される。

教会の周りにはコンクリートジャングルなんてない。

草!!! 草!!! 全部草!!!

何もない草原に一軒の教会がポツンと独りで建っている状態なのだ。誰も頼る者はいない。


「これは…………あれか?」


この状況、本で読んだことがある。

何も知らない町に急に移動させられている。

物語でたびたびある奴だ。広告でだって嫌になるほど見たことがある。

テンプレパターン!!!

だが、車には退かれてないから問題ないのではないか?

今この状況は果たしてテンプレなのか?

卒業式中にこんな状況に陥ることがテンプレなのか?

そんなふざけた考察をする前に現実を見直そう。


「これはまさか…………高校の卒業式後で異世界転移しちゃったのーーーーーー!?!?!?」


それから宣教師として各地を転々と歩き回り、この国に着いたというわけだ。


『はい、自己紹介終わり』


───────────────


 そんな僕が何故全裸になって女性にビンタをくらっているのかは省略しよう。

まぁ、彼女のビンタが強すぎて走馬燈のようにこれまでの光景が頭の中に浮かんだ。

そう考えてくれた方が僕にも助かる。

とにかく、僕はオレっ娘女性にビンタをくらった。

ああ、痛い。思っていたよりそのビンタが痛かった。

これがご褒美だと言える奴を僕は尊敬してやるよ!!


「ああ、痛い。まだ他人にビンタをされたことなかったのに…………」


「ハァ? どこかのお坊っちゃまか?

腰抜け環境育ちの腰抜け変態代表か? てめぇは?

羞恥心を持て!!!」


酷かった。罵倒されてしまった。

この女。僕がせっかく善意で全裸になってあげたというのに、この罵倒。

残念ながら、僕はMではなく若干Sなので、普通に苦痛でしかない。

しかし、ビンタと罵倒をセットで注文した覚えはないのだけれど、冷静に考えるとこの状況は100%僕が悪い。

さすがに高校生を卒業する目前の者が、どんな理由があろうとも、いきなり女性の前で全裸になるのはダメだった。


「………………いや、すみませんでした。おふざけが過ぎました」


当然だ。ふざけすぎた。

これが現実世界ならセクハラで即訴えられて悪い方のメディアデビューとなってしまう。

いや、下手したらここでも晒し者にされて訴えられるかもしれない。

しかし、寛大な心をお持ちのオレっ娘さんは、裁判を起こす気ではないらしい。それはありがたい。この世界に裁判制度がなければもっとありがたい。


「…………まぁ、別にいいけどよ。オレは気にしない。それよりも邪魔したな」


そう言って彼女は僕に背を向けると、人通りの多い場所へと歩いて去っていく。僕から逃げるように去っていく。




 結局、僕には関係のない話だった。

オレッ娘女性に尋問されてビンタをくらって『これが僕と彼女が波乱の運命に呑まれながら歩んでいく物語の始まりであった』的なこれからも知り合う展開が待っているわけでもなく。別れてしまうのか?

いや、やはり、僕には関係のない話だ。仮にチート能力でも備わってくれていれば、僕が協力することになるのだろう。

でも、僕は普通の人間だ。僕は正義の味方ではない。

僕が協力できるのは彼女の復讐が叶うのを願うことだけだ。

だから、僕は彼女の復讐が成功することを祈る。僕は宣教師のように祈る。

そうして、彼女の母親の復讐が叶うことを祈りつつ、僕もこの人気のない路地から去っていこうとしたその時。


「大変なんです!!

子供が森に……禁忌の森に入ってしまった!!!」


通りにて、誰かが大慌てで声をあげて助けを求めている。

禁忌の森……?

この国に来たばかりの僕にとっては聞いたこともない地名。

禁止されていて忌み嫌われる……そんな感じの名前である。

声をあげて誰かに協力を求める声の主は、心配で不安なのだろう。

子供が森に入っていくところだけを見てしまい、止めようにも間に合わなかったのだ。

だからこそ、声の主はこうして他人に協力を求めている。

だが、誰も声の主の言葉を聞いてはくれない。

声の主が助けを求めようと駆け寄ると、みんなそっぽを向いて逃げ出すのだ。

そそくさそそくさ。

そんな人々を見て、僕は悟った。

禁忌の森には本当に誰も入りたがらない。




 そこにどんな禁忌が定められているかは分からない。禁忌には何かしらの理由があるのは明らかではあるが、それが分からない以上、不安なのには変わりない。

例えば、禁忌が女人禁制なら僕は男だから入っていくのに問題ないけれど、男も女も声の主の話から逃げていくということはそういう物ではないのだろう。

禁忌か……。

僕はそういうのを信じるタイプなのである。

やっちゃ駄目だよ的な注意喚起の禁忌もあるが、本当にやらない方がいい禁忌もある。罰が与えられたり、呪われたり、殺されたりする可能性もあるのだから。

まぁ、本来はどんな禁忌でもそれを侵す行為はしない方がいいのだ。自己責任。

しかし、この度は仕方がない。子供の安全がかかっている。

神話の読み聞かせを聞いてくれる優しい子供達が1人減ってしまうのは嫌だ。

その考えに到った瞬間に僕の口は既に動いていた。


「そこの人、禁忌の森に案内してはくれないかい?」

【今回の成果】


・エリゴルの秘密だよ


・禁忌の森に子供が入っていったと助けを求める声がしたよ

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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