4 ・6日後の未来+東の魔女
僕の知られてはいけない秘密を知っている『ナベリウス・ラピス』さん。
僕の情報はすべて調査済みであると彼女は言っていたが、それは本当なのだろうか。
「僕については調査済みってわけか。じゃあ次の質問に答えることができたら協力してあげるよ」
それを確かめるためにクイズを開催することにした。
これに正解することができたら僕は彼女に協力してあげるというわけだ。
彼女が悪党から助けてくれた恩人であることには代わりないし、そこは本当に感謝している。
しかし、怪しいのだ。
誰にも言ったことのない秘密を知っている彼女にすぐに協力するというのは不安だ。
「ふーん、いいよ。君の事なら何でも調査済みの私が答えてあげよう」
しかし、ナベリウスさんは強気だった。
「それでは1問目。釘野郎から逃げた後に僕がキユリーに言われて少しショックを受けたカタカナは?」
「はい!! バカジャナイデスカ」
くそッ、正解だ。
こんなことまで調べられているなんて情報が筒抜けじゃないか。
「じゃあ2問目。釘野郎に弱点蹴りが作戦かと聞かれた時の返答は?」
「チガウヨ。あれは偶然だよ」
なぜだ。なぜ正解するんだ。
「いよいよ最後だ。究極のファイナルチャンス。僕がキユリーの名字について独り言をした時、その中に出てきた野菜の名前は!!」
「……胡瓜?」
完敗だ~ワッショイワッショイ!!
さすがナベリウスさん。絶対答えられそうにない僕の発言についてのクイズを出したのに、すべて答えられてしまった。
アハハハハハ、すっごい怖い。恐怖しかない~。
結果、全問正解。
僕は彼女の頼みを断りたかったのかもしれないが断れなくなってしまった。
「…………全問正解だ。さぁ、男に二言はない。僕の左目の力を借りたいんだろ?
絶対に秘密にするなら使わせてあげてもいいよ」
「うん、まぁ、そうなんだけど。エリゴル君に見てもらいたいのは未来なんだけどね。
まず、遥か遠い未来……。この世界の様子を見て欲しいんだ。
次に今日から6日後の未来。つまり16日だね。その日のこの国の様子を見て欲しいんだ」
遥か遠い未来・6日後の未来の様子?
「そしてその様子を私に教えて欲しい。結果……いや、どんな国内になっているかな?」
期待を込めた目で僕に訴えかけてくるナベリウスさん。
しかし、残念だ。僕は彼女の期待に答えることができない。
「あの…………言いにくいんですけど。
そんなに離れた未来の様子は見れないんです」
「えっ!?」
「すみません。僕の目だと1時間後くらいまでが限界で……。あっ、でも寝ている時の予知夢なら数日後とか見れるんですけどね」
「そんな…………」
「それではこれで失礼しま……」
その時。
ベッドから降りようとする僕をナベリウスさんは逆に押し倒す。
ベッドに横たわった僕が下、ナベリウスさんが上。
「ふぇ……?」
何がなんだか、頭がこの状況に追い付けていない。
「……それじゃあ仕方がないね。君は帰られなくなっちゃうけど大丈夫だよね?
大丈夫……。痛くはないから」
ナベリウスさんの目と僕の目が合う。
心臓がドクドクと音をたてて激しく波打っている。
ドクンドクンと緊張し興奮した心臓の鼓動がだんだん速くなる。
なんだ。何をする気なんだ?
「ナベリウスさん……?」
そして彼女は僕の首に手を当てる。
ガチャンと金属音が鳴った。
!?!?!?!?
ナベリウスさんは僕の首元に向かって手を伸ばし、そして何もなかったかのようにベッドから降りて、もとの椅子に座る。
何もなかった……。何もされなかった……。
ふとナベリウスさんが手を伸ばした僕の首元を触ってみる。
「ナ…………ナベリウスさん? これはなんですか?」
「それは時限爆弾。犬の首輪みたいなデザインでしょ?
それには盗聴機とタイマーがセットされている。
誰かに私の事をしゃべったら爆発。
タイマーが切れないように、毎朝2時に私が解除しなきゃ爆発。
12日から16日まで毎朝2時に私に会いに来てくれたらいいの」
なるほど!!
つまり僕の命はナベリウスさんの手に握られているというわけだ。
彼女に逆らえば爆死。彼女を裏切れば爆死。
僕はどうやら彼女の奴隷にでもされた気分を味わっている。
「おいおいおい、マジですか?
ナベリウスさん。ここまでします?
まぁ、お遊びなんでしょ~?」
だが、僕は彼女の言うことを本気にしなかった。
冗談だと勝手に思っていた。
ナベリウスさんが僕を爆死させるような首輪を着けさせるわけがない。
だって、ナベリウスさんは僕を治療してくれたのだ。
そんな恩人が僕にひどいことをするわけがない。
「いや、エリゴル君の命は私にかかっているんだよ?」
しかし、ナベリウスさんは真面目な顔で僕に告げる。
「エリゴル君。君には私の未来を見届けて欲しい。遠い未来の様子を見てもらう事は諦めるから。
だから、14日にこの国で起こる事を見届けて欲しいんだ。
本当は予知を見せて帰らせてもよかったんだけど、どうせ原因も結果も新聞が好評するだろう。
だが、結果である16日の予知が見れないなら別だよ。君には見て欲しい。
私の計算では14日に始まり、16日に終わると考えている。だから逃げてほしくない」
「何を言ってるのか分かりません!!
それに、僕を監禁したら怪しまれるぞ?」
「だから、監禁はしない。
セットしたのは12日2時から16日の2時まで……。その時間に間に合うように来ればいい。あっ、もしも今日から12日までの間に逃げようとしても無駄だからね?」
僕は急にナベリウスさんのことが怖くなってきた。彼女の瞳の奥は他者に無感情。そんな風に思える。それが怖い。
僕はベッドから降りて彼女の側を離れる。
目的が分からないので、彼女に近づくのは避けておいた方がいいと考えたのだ。
机の上にある荷物を素早く手にとって中身の短剣を確認しつつ、僕は彼女に問う。
「…………なんでですか? なんでそんなことをするんです?」
「ここからは他言無用だよ。私はね。
この国を混乱させる。14日がその決行日だ。その日のために今まで準備してきたのさ。だから、君には見届けて欲しかったんだ。予知の未来と当日の未来が等しいかどうか」
「………ッ…!!」
僕は彼女の話に思わず唾を飲み込む。
彼女が僕にとって悪い人ではないと分かっている。しかし、彼女はこの国にとっては悪い人かもしれない。
僕が行うのはただ見比べるだけだと彼女は言うけれど、僕は彼女が悪人だと言うことを誰にも口にはできないのだ。
見て見ぬふり、知って知らぬふり。
正直、罪悪感で体が押しつぶれるかもしれないと思った。
しかし、ナベリウスさんに関する何かを教えようとしても首の首輪が爆発してしまう。
「僕が誰かを救うには僕が黙っているしかないのか……?」
───やるしかない。
だが、諦めてはいない。
せめて被害者が少なくなるように僕が対処すればいい話だ。
「その通りだね。まぁ、予知夢じゃないと先の未来が見れないというのは調査外だけど……。
君がこの国の行く末を実際に見届けてくれるなら、私は満足だよ。それじゃあ12日の2時にね」
結局、この日はナベリウスさんとは別れることになった。
首輪を首に着けたまま、僕はナベリウスさんの家の扉を閉める。
外はもうすっかり夜の時間だ。
マルバスとバティンとの宿屋での待ち合わせの時間もとっくに過ぎている。
「最悪の日だったな……」
僕は1人っきりの夜道でそう呟いて西へと向かう。
マルバスとバティンには本当に申し訳なかった。
───そして数時間後、キンスリード宿屋にたどり着いた僕がバティンとマルバスにさんざん怒られて、ネックレスの件でもさらに怒られたのはまた別のお話である。




