3②・ヒャッハー+アナクフス
「ヒャッハー!!!!旅行者がいるぜ(悪党B)」
「かわいそうでちゅね~。『東の町』にはこわーいおじちゃん達がいるって知らなかったんでちゅか~?
ガハハハハハハッ!!!(悪党D)」
宝石の付いたネックレスを盗まれて、少年を追いかけていたら数十人の怖い悪党に囲まれてしまった。
「………最悪だ」
なんだこの状況。なんだこの集団。なんだあの乱世。
僕を取り囲むようにして、モヒカンとかトゲトゲの服を着た奇抜なファッションの悪党達が武器を握りしめている。悪党全員が「ヒャッハー!!」って言ってる。
あんな残虐そうな悪党集団に狙われている自分が哀れだ。
彼らは自信満々で武器を構えている。
対する僕は武器なんて短刀しか持っていないし、1人でこの数人を相手するのは無理だ。
「くそッ……どうすればいいんだ」
僕が悩んだ末に思い付いた作戦は4つ。
①天才的最強転移勇者的存在であるこの『エリゴル・ヴァスター』様は超スーパーチート能力で悪党達を討伐し、力の差を見せつける。
②土下座。僕のクールで美しい土下座を披露することで悪党の良心を揺さぶらせる。
③短刀しか持っていない状態ではあるが、儚く美しく抗って戦死する。勇ましい死に方で……。
④2人は絶対来ないだろうから、新キャラが助けに来てくれるのを祈る。
さて、どれを選べば一番よいのだろう。
解説。
①は絶対に不可能だ。僕にはチート能力なんてない。未来が見えるくらいの能力しかない。
そんな能力だけであの悪党達を倒すことができると本気で思っているのか?
②が一番いいかもしれない。
③を選ぶことは拒否する。死にたくない。
④は正直に言うと期待している。でも、来ないんだろうな。だって、僕を助けても新キャラには何のメリットもない。
だから選ぶべき判断は②なんだ。
僕は両膝を地面につける。正座の形で地面に座る。
そんな様子の僕を不思議そうな目で眺める悪党達。
「なんだー?(悪党E)」
「なにしてんだ?(悪党N)」
「おい、妙な真似をするとぶっ殺すぞ!!(悪党D)」
「ゆ………」
「「ゆ?(悪党達全員)」」
「ゆ……………」
「「ゆ?(悪党達全員)」」
「勘弁してくださいィィ!!
お金もないんですよ。だから、スンマセンでしたァァァァ!!」
その土下座。土下座というにはあまりにも美しく。土下座をしているというよりはあまりにも芸術的な物を見せつけているような土下座であった…………。
「「…………(悪党達全員)」」
感じるぞ、その視線。
究極を眺めているようにあわれみを向ける視線だ。
やはり、悪党達はきっと良心を感じているはずだ。
こんな弱々しい男の美しき芸術的な土下座を見せつけたのだ。
きっと今頃、良心を痛めているに違いない。
さぁ、悪党達よ。このまま僕を見逃して帰ってください。
「「………(悪党達全員)」」
数分間土下座をしているのに悪党たちはその場に立ったまま動かない。
もうそろそろ悪党達が良心を痛め始めてもいい頃な気がする。
やっぱり、お金だろうか。お金がほしかったのだろうか。
「…………てっ(悪党V)」
てっ……?
「てめぇ、いい加減にしろや!!
俺達がそんな命乞いを聞くと思ってるのか?
みんな殺っちまおうぜ!!(悪党V)」
「「ヒャッハー!!!(悪党達全員)」」
いや、そもそも謝って許してくれるほど悪党達に良心が残っているわけではなかった。
彼らにとって僕は獲物。
だが、悪党達にも情けの感情があるのだろう。
悪党達は刃物を地面に捨てて、木の棒や木製バットなどを握りしめる。
そして、土下座状態の僕をおもいっきり蹴ったり、叩いたり、殴ってきたのだ。
「おい、こいつの有り金を全部奪っていくぞ!!(悪党E)」
悪党Eの掛け声と共に悪党達が僕の衣服を引っ張って強制的に脱がせながら踏みつけてくる。
「おい、待て。荷物の中を探せ!!
きっと旅行客だから持ってるはずだ。
金か食料は後回しだ。通行手形だ。
通行手形を絶対に見つけるんだ!!(悪党X)」
僕は殴られ蹴られの袋叩きでボコボコと怪我を負わせられながらも必死に逃げようと地面を這いつくばる。
「ウグッ…………グッ!!」
しかし、25人の悪党集団に襲われているのだから逃げ場がない。
そして、袋叩きにされながら何発暴行を受けたのかは分からないが、そのうちの一撃がガツンッと僕の体に衝撃を与えた。
「がッ!?………」
当たり所が悪かったのであろう。
悪党達からの痛みと苦しみを味わいながらも、僕はゆっくりと目を閉じてしまった……。




