3①・宝石の付いたネックレス+アナクフス
アナクフス……。別名・観光の国。
さまざまな造りの建物が多いのは過去にたくさんの移民がこの国に移り住んだからだ。
各国で戦争が頻発していた頃、当時の王様が戦火から逃れてきた難民達に住む家や仕事や移住する権利を与えた。
それをきっかけに戦後もたくさんの移民がこの国を訪れるようになって人口が増加した。
さまざまな国の移民達はそれぞれの方法でお店を盛り上げて急成長。
外国に進出している一流の商店をたくさん生み出してきた発祥の地とされている。
しかし、国内では貧富の差が激しくなり、内乱が起こってしまい国が2つに分裂。
そして現在。
貧困層の住む町が全体の2割。中間層が住む町が全体の5割。富裕層の住む町が全体の2割。中間層の住む町と富裕層の住む町との間に建てられている巨大なお城に王族が今も住んでいる。
外敵から自国を守るために40mの壁に覆われた国。それがアナクフスである。
新天地を歩く。
見慣れない町並みを観光客として満喫しながら歩く。
たくさんの屋台が並ぶ通りを歩きながら、僕は馭者のおじさんが教えてくれたことについて思い出していた。
「行っちゃいけない場所?
ああ、モルカナ国の禁忌の森みたいな感じの場所かい?
特にはなかった気がするけど……。
ただ『東の町』には行かない方がいいぞ。東には『魔女』がいるし、貧乏人が住む町だ。旅行客のあんたみたいな若者が行ったら身ぐるみ剥がされてしまう。だが問題ないだろ?
西に向かえばいいんだからな」
東の町には行かない方がいい。
馭者のおじさんは交換条件として教えてくれたけど、特に危険はなさそうだ。
禁忌の森に入った結果、罪人の身分に落とされて死にそうになった。
そんな不幸な僕は危険な場所にトラウマを感じているのだ。
しかし、この国にはそんな危険な土地や場所はない。
つまり、問題もなく安心して旅行を満喫できる。
「東の町に近づかなきゃいいのなら問題ないな。マルバス達も近づかないだろうし……。3時間後に集合するのなら、観光しても問題はないな?」
楽しい楽しい旅行生活が僕を待っている。
バティンとマルバスは先に宿屋に到着していて、2人で観光でもしているだろう。
どうせ再開するのは3時間後だ。この国を観光する時間はたっぷりある。
「そうだ。サプライズプレゼントでも買って行ってあげよう」
そう言って、僕はなけなしの財布を握りしめて屋台を見回るのであった。
そして1時間後。
「ありがとうございましたー!!」
さまざまなお店を巡った最終的に僕は2つのネックレスを購入。
赤と青の宝石の付いたネックレス。
これを2人に渡せば、きっと喜んでくれるに違いない。
財布の中は空っぽになったが2人が喜んでくれるなら問題ない。
そんなことを思いながらふと町に建てられていた時計塔を見てみると、集合時間までまだまだ時間がある。
「キンスリード宿屋に集合するまであと2時間くらいか」
この後の時間をどう過ごすか悩んでみたが、先に宿屋で2人を待っているのもいいかもしれない。
僕はそう考えてキンスリード宿屋に向かって歩き出す。
さてさて、西の方角はこっちだったかな?
西の方向に向かって歩いていたはずの僕が見たのはボロボロに崩れ落ちた廃墟が広がる町並み。
「あれ~?」
門をくぐれば中間層から富裕層の住む町へと変わるはずなのだが、門をくぐった先は戦火に巻き込まれて数日後の町のように荒れ果てていた。
「方角を間違えてしまったかな?」
そう思って、引き返そうと振り返ったその時。
「「うわっ!?」」
門の向こう側から全速力で走ってきた少年と出会い頭にぶつかってしまった。
僕も少年も尻餅をついてしまう。
「痛てて…………おい少年大丈……?」
お尻を擦りながら顔をあげて立ち上がった僕の視線の先にはぶつかってしまった少年の姿は消えていた。
「ん?」
目の前から消えた少年。
「もしや!?」と思って視線を更に遠くへ向けてみると、少年ははるか遠くへと走っていた。
僕は慌てて荷物の中に入れていたはずのネックレスを確認する。
先程、マルバスとバティンのために買っておいたはずの宝石の付いたネックレス。
そんな大切なお土産が荷物の中から消えていた。
スリに取られたのだ!!
「あああああ!!
おい待てよ少年!!」
僕はスリの少年を走って追いかける。
僕はスリの少年に盗まれたネックレスを取り返さなければいけない。
このまま盗まれて逃げ帰るなんてできるわけがない。
意地でも捕まえて取り返してやると決意した。
僕は少年を追いかける。
そして、どんどん東の町の奥へと足を踏み入れていることに気がつかないまま、僕は必死にスリの少年を追いかけるのであった。




