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2 ・馭者+お酒

 馬車の中。

僕は忘れ物をしたと言うマルバスを待ちながら、馬車の中で暇をもて余していた。


「あーひまだー」


マルバスが忘れ物を取りに戻ってから20分。


「おい、おとなしくしろエリゴル」


バティンが初めて僕の名前を呼んでくれた。罵倒つきではない。


「なぁ…………やっぱり僕って嫌われてるのかな?」


「ん? ああ、私は嫌いだな」


「むむ…………。いや、お前から嫌われてるのは知ってるんだよ。

けどさ、この城内の皆が僕のことを嫌っているような気がしてさ~。

僕はいまだに罪人なんだって……。

逆らえばその場ですぐにでも殺されちゃうんだって。

あれほど味方をしてくれたヴィネさんやマルバスも僕のことを罪人としか思ってくれてないんじゃないかってさ」


「ふーん罪人ねぇ~。いいじゃないか罪人」


「えっ?」


「私は罪人は好きだな~。いつ殺しても怒られない」


「…………お前に相談した僕がバカだったよ」


「ようやく自覚したか」


やっぱり僕はバティンと仲良くなれそうにない。

こんなドヤ顔で僕のことを見下してくる女性を慕うことは出来ない。

それが例え、マルバスの妹であったとしても……。


「あと……エリゴル、お前は勘違いしてるな」


「勘違い?」


「この城内にお前の味方なんていない。お前はそもそも余所者だ。

まぁ、これ以上嫌われたくなければ手柄をあげることだな」


「手柄か……」


なるほど、手柄か。

バティンからの珍しいアドバイスである。

手柄をあげれば信頼されて、城内の皆から白い目で見られなくてすむのだろうか。

やってみる価値はあるかもしれない。

そんなことを計画している最中であった僕にバティンは更にヴィネさんの事を教えてくれた。

もちろん、殺意をむき出しにして……。


「あと付け加えるが、父上はこの国の誰の味方でもないぞ。姉様や私の味方でもない。

父上はいつでも平等だ。基本誰にでも平等だ。

もしも平等じゃないならば、お前は気に入られているんだろうよ。

まぁ、私は絶対にお前の味方ではないからな。

あっ、命令を拒否したい時は私の命令を拒否しろよ?」


「忠告ありがとよ。だけど、お前はいちいち僕への殺意を向けすぎだ!!」


「…………そうか?(キョトン)」


「そうだよ!! 少しくらい自覚しろ!!

(キョトン)も無しだ。

はぁ……相手が僕じゃなかったら普通に傷つくぞ?」


「安心しろ。お前以外には言わない。私に殺意を向けられた奴は全員死んでしまうからな……(ストンッ)」


「こっ、怖いこと言うなよ。てか、(ストンッ)ってなんだよ!!

首なのか? 僕の首が落ちるのか?」


「……黙れ。姉様がいらっしゃった」


「おい、いきなり話を変えるなっ……ん?」


一応、馬車の窓から外を見てみる。

本当にマルバスがこちらへと向かってきていたら、喧嘩なんて見せつけるわけにはいかない。

彼女にとっては姉妹での旅行だ。

荷物持ちである可能性の高い僕が彼女たちの旅行の邪魔をするわけにはいかないのである。


「やぁ、待たせたな。2人とも!!

仲良く待ててたか?」


馬車に乗り込んできたのは頭にサングラスを乗せて、黒いジャージを羽織るマルバスの姿。


「「(オオッ!!)」」


僕とバティンはその姿に目を奪われそうになりながらも現実に帰ってくる。


「「いやいや、姉様マルバス。こいつとはやっぱり仲良くなれませんよ!!」」


「そこは息ピッタリなんだな」


そう言って馬車に乗り込んできたマルバスはバティンの隣に座る。

僕としては隣に座ってほしかったが、仲良し姉妹なのでバティンの隣に座るほうが普通なのかもしれない。

ただ、問題はバティンから向けられるドヤ顔が異常に腹立つだけだ。

───異常なほどバティンを殴りたくなる。

だが、殴ってはいけない。それくらいは理解している。

僕は罪人。逆らえばすぐにでもバティンに殺されてしまうのだ。

怒りを我慢。我慢。我慢。


「あっ、そういえばマルバス。旅行ってどこへ行くんだ?」


「そういえばエリゴルには伝えてなかったか。オレたちが向かうのはアナクフスという国だ。

まぁ、着けば分かるさ」


アナクフス……?

聞いたことのない国だ。この世界の地理に弱い僕が「着けば分かるさ」と言われても分かるはずがないのだ。

───まぁ、いいや。せっかくの旅行である。

僕にとっても、姉妹にとっても……。

僕はのんびりと昼寝でもしながら到着するのを待とう。



──────────


 「お客さんー!!

おーい。お客さんー!!」


ペシペシと頬を叩かれる。

そして僕の名前を呼んでくるダンディな男声。


「なんですか…………?」


せっかく気持ちよく眠れていたというのに、睡眠の邪魔をされてまだ目が覚めていない。


「って。酒臭ッ!?」


その臭いのお陰で僕の目はパッチリと見開いてしまった。


「おー、やっと起きたかーヒック。おじさん心配したんだぞ~?

2人が出ていってもまだ寝てうんだから~ヒック。

まぁ、お二人様から2本のお酒チップとして貰ったから許してやるけどよぉ~ヒック」


僕の目の前にいたのは片目が眼帯でチョビヒゲのおじさんだった。

その『馭者のおじさん』は顔を真っ赤にしてお酒を飲みながら、僕に話しかけてくる。

いったい何杯お酒を飲んだのだろう。

これでは彼が次の仕事場に行くにも一苦労だ。

いや、僕が早く馬車から降りないと仕事も始まらないか……。


「ああ、すみません。今すぐ降りますから!!」


僕は急いで荷物をまとめる。

これ以上、馭者のおじさんに迷惑をかけるつもりもない。

それに2人が先に出ていったのなら追い付かなければいけない。

こうして荷物を持ち、馬車から降りようとする僕だったが、馭者のおじさんに呼び止められた。


「あっ、そうだそうだ。おい、若者。

お二人から預かってる物があるんだよ」


「預かってる物?」


馭者のおじさんは手に握った紙を僕に差し出す。

僕は差し出された紙を受け取って、中を確認してみた。


『3時間後までにキンスリード宿屋』


紙にはその名前だけが書かれており、それ以外は何も書かれていない。裏側は真っ白。


「これってなんです?」


「それはあのお二人のお泊まりする宿屋に決まってるだろ~。

そこに行けってことだろ?」


そう言って、馭者のおじさんは再び酒ビンを掴むと、今度はラッパ飲みで一気に飲み干した。

昼間から勤務中に酒を飲む、だらしない中年男性である。


「なるほど、ありがとうございます。馭者のおじさん。飲酒運転だけはしないでくださいね」


「…………おう、飲酒運転はしないぜ。

けど……上には黙っててくれるかい?

お客さんからチップ貰ったってバレたらクビになっちまう」


急に我に帰った馭者のおじさんの焦った顔を浮かべ始める。

もう酔いが覚めたのだろう。

勤務中に酒を飲み干した事を焦り始めているのだ。

まぁ、馭者のおじさんは悪い人ではないし、クレームを本社に言うつもりもなかったのだが……。


「……ええ、その代わり1ついいですか?」


このチャンスを利用しないのはもったいない。

僕は馭者のおじさんに1つだけ聞きたいことがあったのだ。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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