表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/280

11 ・十二死+亥 戦④

 地面に崩れ落ちるように倒れたマルバス。

亥の攻撃によって出血が止まらないほどの傷を受けている。

だが、釘野郎の相方のように身体が切断されているわけではなさそうだ。

おそらくそれは偶然だった。

マルバスの持っていた武器の合成が解けた時、亥の一撃が刀に当たって勢いを殺したのかもしれない。

それに両手刀ではなかったのも理由になるかもしれないが、まさにマルバスが生きているのは奇跡であった。


「………ッ………!!」


なのに、マルバスは地面を這ってでも飛ばされた刀を拾おうと前に前に手を伸ばす。

刀は砕けて使えないということを彼女は知らない。彼女の視界からは見えない。ただでさえ、傷が深いのだ。

このまま、地面を這って行けば出血多量で死んでしまうかもしれない。いや、刀に手が届かず、途中で死んでしまうかもしれない。そう思うと彼女を止めずにはいられなかった。


「おい…………マルバス!!!!」


僕は亥のことなど目もくれず、マルバスのもとへ駆け寄る。


「おい、生きてるよな?

おい、聞こえてるか?」


僕は倒れた彼女の身体を抱き抱えて、必死に呼び掛ける。

すると、マルバスの目が僕の顔を見つめながら、苦しそうにヘッと笑った。


「…………へっ、悪いな。怪我しちまった。足と胸を斬られちまったみたいだ。ハハッ。なぁ、刀と銃をオレに取ってきてくれないか」


マルバスはまだ諦めていない。

これ程、傷ついているというのに、彼女はまだ戦おうとしている。明らかに無茶だ。本当に死んでしまうかもしれない。それが分かっていないのだろうか。

自分の傷の痛みくらい自分で分かるだろうに、彼女はそれでも戦おうとしている。そんな姿を僕は見たいわけじゃない。


「嫌だ…………」


「は?」


「逃げるよ。一緒に!!」


そう言うと、僕は彼女の身体を無理やり背負おうとする。シトリーの時のようにおんぶしてこの森から逃げようと考えたのだ。

これ以上の戦闘は無駄死にになってしまう。だから、2人で逃げようと考えたのだ。

しかし、彼女はそれを拒否してきた。

背負おうとする僕の背中から無理やりにでも地面に転がるようにして落ちる。

そして、彼女は「痛ッ……」と苦痛に顔を歪めながら、僕に言った。


「……逃げるって無理だぞ。あの速さを降りきれると思うか?

あの速さから逃げられると思うか?

お前も見ただろ?」


そうだった。前の形態の化物猪の時は単に運が良かっただけ。奴の足が4足歩行なのに3本で歩きづらそうだったからである。

しかし、今回は1本足。一度転けてしまえば大変だが……。動くにはマシな形態。

それでいて、あの超スピード。

……逃げられるわけがない。

確実に追い付かれて殺される。

なら、どうすればいいんだ?

どうすれば僕たちは助かって、亥の脅威から身を守れるんだ?

分からない。もう終わりなのだろうか。


「そんなこと言われたって……。このままだと僕たち死んじゃうじゃないか!!!」


考えがまとまらない怒りをマルバスにぶつけてしまう。マルバスは悪くないのに……。

実際は焦っていたんだ。目の前で人が死んで、マルバスが傷ついて、自分も命の危険がある。そんな状況で冷静でいられるはずがない。

死にたくない。諦めたくない。

そんな想いが、生への執着が僕にはまだ生きろと言っている。


『谿コ縺…………』


その時、幻聴が耳元で囁いた。その一言だけが僕には聞こえた。ハッキリと……。


「……………………そうか」


そうだった。そうすれば僕もマルバスも助かる。簡単な話だったんだ。

これは幻聴のお陰だ。幻聴が教えてくれたのだ。この状態を解決する方法を教えてくれた。


「おい、何をする気だ?」


マルバスが亥に向かって歩いていく僕に問いかける。

その問いに答えず、僕は黙って鞘から短刀を引き抜いて鞘を地面に捨てる。

そして、亥と向かい合った際に、僕はマルバスからの問いに答えてあげた。


「そうだよ。簡単な話だったんだ。悩むこともない話だったんだよマルバス。

────“殺せ”ばいいんだよ。亥を殺せば僕たちは死なないんだ」


簡単な話だったんだ。亥を殺せば、もうこの場で僕たちを狙う者はいないはずだから。





 亥が叫ぶ。


「カッカッカッカッカッカッカッカッカッ!!」


シトリーを奪った僕の事を覚えていたのだろうか。

それとも、立場バトルの決着に喜んでいるのだろうか。

僕には怪物の意思が分からないけれど、亥は刀を握りしめて僕めがけて振るい下ろして来た。

いきなりの一撃。油断していたらすぐに頭蓋骨が地面と同化する所であったが、僕はそれを避ける。

そして、すぐに移動。

マルバスを戦闘に巻き込むわけにはいかないので、僕はすぐに別の方向へと駆け出す。


「来い!!」


すると、その誘いを聞き付けて亥が僕のあとを追いかけてきた。

いや、すぐに僕に追い付いて亥は刀を持っていない方の拳で僕を殴る。

それは横腹に入る強烈な速度の一撃。

僕はスマッシュされたテニスボールのように吹き飛び、森に生えていた木に激突した。


「ガバッハ!?」


痛い。だが、マルバスとの距離は10mほどしか離れていない。

亥がひとっ飛びで追い越してしまうほどの距離。

こんな距離じゃ、マルバスを巻き込まないようにした意味はあまりない。それでも、ここまでが限界だった。あとは攻めるだけ。


「痛ッ…………」


幸い、骨は折れていないようだ。

僕はすぐに起き上がり、亥を睨み付ける。

しかし、いない。いるはずの場所にいた亥の姿がない。

その事に気づいた次の瞬間、僕の体は再び宙を飛んでいた。

亥が木ごと僕を蹴り飛ばしたのである。

木を見事にキックして折り、僕は再び宙を飛んでいた。




 ゴロゴロと地面を転がる。

痛い。痛い。痛い。痛い思いをしながら転がり続けて、ようやく止まった。


「くそッ…………遊ばれてるな」


僕はクラクラとする頭を押さえながら、立ち上がる。

しっかし今度はどこだろうか?

亥はどこにいるのだ?

普通なら追い付くスピードなのに、姿がいまだに見えない。

ああ、マルバスとの距離もずいぶんと離れてしまったようだ。

マルバスが亥に襲われていなければいいのだが……。そればかりはもう願うしかない。


「やっぱり、慣れないな。予知をするにも時間が足りなすぎる」


最初の亥の一撃を避けられたのは、予知のお陰である。予知をする度に左目が疼くが、そこは我慢。釘野郎と戦った時のように予知を利用して戦おうとしたのだが、さすがに桁が違いすぎた。

もしかしたら、偶然に亥を殺す瞬間を予知で見れたとしてもあの超スピードで逃げられてしまうかもしれない。勝利を確信してはいけないということだ。


「くそッ、どうすれば確実にトドメをさせる瞬間を見なければならないのに……」


その瞬間。木々がメキバキと異様なほどの音を経てて折れ、激しい轟音と共に亥が僕の目の前に現れた。


「…………!? フゴッ

カチカチカチッ」


そして片足で器用に着地。

しかし、やはり片足ではバランスを崩しやすいようで倒れそうにフラフラとバランスを取っている。その姿を見て、僕は確信した。


「弱点は足か!!」


片足一本で全身を支えているなら、足を絶てばいい。亥がさきほど僕に追い付くのに遅れた理由は僕と木を蹴り飛ばしたからだ。

蹴り飛ばして倒れてしまったから起き上がるのに時間がかかった。まぁ、数十秒だけだが……。

ただ、これで分かった。足を狙いに行けば行けばいい。


「うオオオオオオオオオオ!!!!」


そして、走り出す。短刀を構えて、亥の足を切り落とすために……。バランスを取ろうとしている今ならチャンスがある。

そう思って全速力で亥に向かって走った。

だが、遅い。

短刀の刃は亥には届かなかった。

まだ半分も距離があるのに、亥は超スピードで移動してしまった。いや、足を切り落とされないように逃げたのではない。強烈な突進を僕に向けて放ってきたのである。まさに猪突猛進。


「ゴッ!?!?」


超スピードで圧倒的な威力の一撃。

もともと普通の猪の一撃でさえ、すごい威力を放つ危険な生物だ。車でさえも壊すなんて噂を聞いたことがあるような……ないような……。

そんな噂の化物だ。僕なら普通の猪と出会ったら戦わない。逃げる。死にたくないし怪我を負いたくないから逃げる。

けれど、今回の【十二死】の亥は猪のような生き物ではない。

しゃべれるし、1本足だし、3つ目だし、化物猪形態の時の牙を武器に変えて簡単に操るし、人間サイズだが筋肉ムキムキだし、化物みたいに速いし、化物みたいに強い。

そんな化物の突進。

僕は大きく宙を舞いながら、死んでいる感触を味わった。

「ッッッ(死ぬ。避けられなかった)」と思いながら僕は突き飛ばされたのである。

感覚が追い付かない。痛覚が麻痺している。視点が合わない。何も感じない。

空が見える。森の木々の隙間から空が見える。

最後に分かるのがこの空の色か。

そして、落ちていく。落ちていく。地面に向かって落ちていく。

「(これが…………死………か………)」











諦めるな。











「ゴハッ!?」と口から思わず声が出た。地面に落ちた衝撃で、身体中に激痛が走る。

どうして僕は生きているんだろうか。

僕は亥の突進をくらってもう死んだと思っていたが、生きている。生きていた。その事がうれしい。


「ギィィギッ!?

痛ってぇ…………けど復活!!!!」


立ち上がるだけで悲鳴が出てきそうだ。全身が泣きたくなるくらい痛い。もう次に倒れてしまえば完璧に動けなくなるほど痛い。

それなのに、僕は立ち上がっている。痛みに耐える必要もないのに戦おうとしている。

亥に勝ち目はないのになぜ僕は立っているのだろう?

これでは、さきほどのマルバスと同じではないか。本当に死んでしまうかもしれない。でも……。


「どうせ、死ぬなら……やってみるか」


僕は短刀をしっかりと握りしめる。そして亥に向かって走った。最後の全速力。最後の突撃。


「うオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


もはや玉砕に近い覚悟で亥に向かって走っていく。一方、亥は僕をその場で待っていた。弱々しいかき消えそうな命を前に向かっていく動作を見せない。


「生キテイル?

面白イ。久々ダ。全力デモ死ナナカッタノハ!!」


亥はそう言って僕が向かってくるのを待っている。攻撃をくらっても生きていた僕への慈悲なのだろうか。

好都合だ。移動しないなら、僕が向かっていくのみ。

僕と亥はお互いに間合いに入り、亥は振り下ろせば一撃で終わる距離に到達した。


「グググ、キサマ……!!!」


だが、振り下ろさない。亥は僕の短刀を避け続ける。いや、避けることに集中していた。亥は僕を攻撃することもせずに避け続けている。




それは亥からの慈悲ではない。僕の実力だ。僕の左目は予知を見ることができる。

釘野郎の時は防御と攻撃のために使った。2分間大作戦である。

しかし、今回は違う。


「『終気しゅうき攻舞こうぶ』」【終わる気分で攻める。舞みたいに】


僕は守りを捨てた。攻撃にのみ特化している。つまり、予知では“攻撃の仕方しか見ていない”。

そして、時間起きに予知を見ていない。

“常に継続的に見続けている”。

左目だけが違う景色を見ているというのも気持ちが悪いが、それでも刃を振るう。予知通りに攻め続ける。この腕が止まるとき、それは勝敗が決まるか僕が死ぬときだ。

攻めろ、攻めろ、腕を止めるな。


「……ガハッ!?」


僕の口から血が出てくる。吐血した。

それでも短刀を振るい続ける。予知の通りに正確に振るい続ける。

その時、亥はついに牙刀を握りしめて、僕に向かって攻撃を仕掛けてくる。牙刀が来る。


「アリエン。アリエン。アリエン!!!!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


シュバッ……!!!!

だが、ついに僕の短刀が亥の持っていた牙刀を腕ごと切断した。

そこで勝敗は決した。超スピードしか攻撃方法がなくなった亥。そして、防げない一刀。


「…………シトリーはお前には渡さない!!

お前には絶対にィ!!」


ズバッシャ……!!!!!!

僕の短刀が亥の身体を斜めに2つに分けた瞬間である。



────────────────────────────

 こうして、真っ二つになった亥は死んだ。断末魔も言わずに死んだ。

そして僕も地面に倒れる。もう限界だったのだ。

マルバスは無事だろうか?

早く勝利を伝えてあげたい。

けれど、もうダメだ。ああ、意識が途切れそうになる。

けれど、最後に亥を殺れて相討ちできた。立場バトルに勝てた。

もうこれで思い残すことは何もな………………。

次回は元日0時。年越しの瞬間ですよ。2021が始まった瞬間の投稿です。つまり、↑の話は今年2020年最後の投稿話ですね。そして新章へ。よいお年をー。皆様素晴らしき2020年最後の日を……大晦日をお過ごしくださいね~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ