10②・マルバスと亥+亥 戦③
数日ぶりの再会。お互いに大変だったということを語り明かしたい2人であったが。
今、そんな暇があるわけがない。
とりあえず、化物猪との戦いを何とかしなければいけないのだ。
「おい、エリゴル。オレの両手を縛ってる縄を急いで切ってくれ。なんかないのか? 刃物とか。そして逃げてな。オレが殺る」
「ああ短剣ならあるぞ」
僕はマルバスの両手を縛ってる縄を青色の短剣で切る。
スルスルと地面に落ちる縄。
これでマルバスは自由になったが、彼女に勝ち目があるのだろうか。
彼女に勝ち目があればよいのだが、やはり不安だ。
「いや、いっしょに逃げるべきではないのか?
あの男を3つに分けさせた化物だぞ。それに見ただろあのスピード。僕たちには勝てないって……」
普通はそうだ。あんな化物相手に戦う理由ももうない。化物猪と戦う理由なんてなにもないのである。
しかし、マルバスは両手に武器を構えてその場から動こうとはしなかった。
彼女の両手には銃と刀。
彼女はあくまでも化物猪と戦うつもりらしい。
「いや、ここで倒すんだ。相手が十二死だとしてもオレは逃げない。その理由が分かるか?」
マルバスは僕を庇うように前に立ち、僕に問いかけてきた。
その理由なんて分からない。彼女が逃げない理由なんて分からない。
僕が首を横に振ると、マルバスはその答えを教えてくれた。
「オレはあの国の姫だ。オレがこのまま逃げたら誰があの国の民を守る?
オレはな……オレが戦うのはな。絶対にもう大切な人を失うような人を見たくないからだ!!!!」
そう言ってマルバスは化物猪に向かって走り出す。
その彼女の答えには熱意がこもっていた。
かつて、城へと侵入した賊に母親を殺された彼女だから言えること。
大切な人を失う国民の姿を見たくないという彼女の願い。
その願いを聞いておいて、僕は逃げるべきではないのかもしれないと察した。
僕も残る。足手まといかもしれないが、何かがあった時のために戦える準備はしておこう。
それに、僕は見たくなった。
彼女の戦いを。彼女の願いを。彼女の決意を。
だから、僕は彼女の背中を応援するように見続けている。
「頑張れ!! マルバスゥゥゥゥゥ!!」
「『Mixer arms』!!!!」
彼女が叫ぶ。戦いの合図。
それは釘野郎や男の『起動』のように、戦闘体勢に入るための技である。
だが、亥は片手に握った巨大な牙で出来た刀をおもいっきり、地面にぶつけた。
マルバスごと地面に叩きつけようとしたのである。
その結果、土煙が舞う。土煙が2人の姿を覆い隠す。
だが、その土煙もすぐに晴れて2人の姿が僕の目にも映った。
マルバスも亥も怪我なく立っている。
お互いにお互いを睨み付け、狙いを定めている。
だが、マルバスが持っていた武器が1本無い。
彼女が持っていたはずの刀が彼女の手には握られていないのだ。
───いや、どうやら僕は勘違いをしていたようだ。
正確には彼女の武器がなくなっているわけではなかったのだ。
彼女の持っている銃の形が変貌しているのがその証拠。
銃口の形が刀のように変貌を遂げていた。
そう、つまり合体している。
“刀と銃が1つに合体している”。
「「…………」」
土煙が晴れると、すかさず銃口を亥に向けるマルバス。
そして、銃弾を亥に向かって4発放った。
1発は亥が今いる方向へ。残りの3発はまったく違う別の方向へ。
これでは弾は1発しか当たらない。無駄撃ちだ。その時の僕はそう考えた。
だが、さらに厄介なことに亥は超スピードで銃弾を避けようと移動。
銃弾を避けるために瞬間的速度で別の場所へと着地した。
銃弾はすべて当たらずに、亥は無傷。
……となるはずだった。
「……!?」
ギギィィーーーと大きな音と共に木が亥に向かって倒れてきたのだ。
マルバスの放った銃弾は禁忌の森に生えている木に激闘。そして樹齢200年以上はありそうな木を横に切り落としたのである。
その結果、2本の木が亥の上にのし掛かって倒れてきた。
「クチャクチャ…………シューシューシュー」
重そうに木をどかそうと必死になっている亥。
奴の足は片足なので踏ん張るにも力が入っていない。
前の化物猪の姿なら、巨大な体で数秒で這い出てこれたのだろう。
しかし、今の亥は人間サイズの怪人のようになっている。瞬間的速さを手にいれた分、強度が減っているのだ。
つまり、今は絶好のチャンス。
「…………猪を狩るんだ。罠は仕掛けるもんだろ?」
そう言って、再び銃口を向けるマルバス。
今度は亥は動けない。確実に眉間に撃ち込める。
そして聞こえる3発の銃声。
これでもうマルバスの勝利は確定したも同然。
その時の僕もマルバスも同じことを考えていた。
失敗は2つ。
1つ目。
それは一瞬のうちに起きた事であった。
亥は自身の持っていた短い方の牙が使えることに気づいたのだ。
その刀は先日、マルバスがあの巨大猪に銃弾を撃ち込んだ際、切り落とした方の牙で作られたのであろう。切り落とした方の牙で作った物なので、それは長さが短かった。だから、木々にのし掛かってこられても長い牙の刀は取り出せなかったが、短い方は取り出せた。
だから、巨大な木々の間に挟まれた今でもそれを取り出して使うことが出来たのだ。
飛んでくる1発目の銃弾。
亥はその1発目を短い方の牙刀にぶつける。
そして、そのまま銃弾を弾いたのだ。
木々に向かって弾いたのだ。
もちろん、その銃弾の効果で短い方の牙刀は破損。
そして、銃弾を弾いた先にある木もまっぷたつになってしまった。
その瞬間。自由になった亥がその場から移動。
例えるなら新幹線よりも何倍も速い速度。まばたきをする暇もない素早さ。
風を吹かせるような速さで2発目と3発目を回避したのである。
「しまっ………!?」
その事にマルバスが気づくのが遅れた。
マルバスは慌てて銃弾を放とうとしたのだが、もう遅い。時間が来てしまった。
さらに厄介なことが起こった。
それが2つ目。
そしてマルバスの持っていた武器が2つに戻ってしまったのだ。
時間切れ。マルバスが合成していた武器が2つに分かれて、地面に落ちる。元通り、刀と銃に戻る。
ここまでの戦闘時間は4分。もしも彼女の合体能力に時間制限がなければまだ何とかなったのかもしれない。
亥はその瞬間にすでに攻撃を終えてしまった。
すでにマルバスの背後3m先に亥は移動している。
背中を向けるようにして……お互いに立っている。
そして、マルバスの胸と足に入る刀筋。
大量の血が吹き出し、赤い花のように地面に落ちていく。血飛沫が止まらない。
「バ……カな…………?」
彼女の身体はその場でフラフラと数歩だけよろめき、そして崩れ落ちるように倒れた。
地面と共に赤く染まりながら……。
【今回の成果】
・十二死の亥とマルバスが戦ったよ




