17 ・並行世界の分岐点+アガレス 戦④
5人目の僕の首が切り落とされる。
7人目の僕はアガレスの攻撃を止めようと、背後から彼に青き短刀を突き刺そうとする。
しかし、アガレスはすぐに振り返り、彼を縦に一刀両断。
すると、11人目の僕がすぐさま、青き短刀を彼に向かって投げてみる。
だが、アガレスはそれを軽く回避し、11人目の僕に向かって走る。
こうして、11人目の僕はなんの抵抗もできず、斬られてしまった。
そこへ、17番目と13番目の僕が駆けつける。彼らは11番目の僕を切り捨てた時点で、彼に向かって走っていた。
一方でアガレスは向かってくる17番目と13番目の僕に笑いながら、突進していく。
「フハハハハハ!!!」
僕たちの返り血を浴びて不気味に笑うアガレス。
そんな彼を見て、僕らは戦意を喪失しかけていた。
「悪魔だ……」
「これじゃあ、この世界の僕が出血死で死んじまう」
17番目の僕がアガレスの攻撃を防ぎ、13番目の僕がアガレスの足に青き短刀を突き刺す。
アガレスは一瞬痛みを感じたかのような表情を浮かべたが、すぐに13番目の僕の腹部に刀の刃を突き刺す。
「一人では……死ぬかよ!!」
13番目の僕はタバコの火を服の中に隠していた爆弾に点火して、彼の側に落とそうとする。。
どうやら帝国で爆弾を操る世界線の僕だったらしい。その彼がアガレスと相討ちしようとしている。
だが、アガレスの反応から見るに、13番目の僕の作戦は失敗してしまったようだ。
「そんな未来、既に見ておるわ!!」
既にアガレスは【双眼鏡の付喪人】の未来視の力によって、こうなることを把握していたのだ。
アガレスは勢いよく13番目の僕から刀を抜き取ると、落ちていく爆弾の手懸部分に刃を見事通し、それを振り飛ばす。
背後へと飛ばされた爆弾は空中で爆発。
「嘘だろ……? イカれて…………ッ!?!?!?」
こうして、13番目の僕は斬られてしまった。
13番目の僕が倒されてしまった。
その僕の負け姿を見て、8番目の僕と9番目の僕はお互いに死を覚悟していた。
「どんどん殺られてる……ヤバいな。僕らにも限界があるのに」
「くそうッ。あと何人だ? 帝国でアガレスと戦う運命の僕の数は……?」
13番目の僕の影から新たに2人の僕が姿を現す。
だが、姿を現してすぐにアガレスと戦闘を繰り広げることになってしまった。
「あれを避けた分岐点は2つか。だんだん、分岐点が少なくなってる」
「僕らはどうする? 向かうか?」
「やるしかない!! この世界の僕は大事な僕だ。未来予知は貴重だ……」
そう言って、アガレスに向かっていった8番目と9番目の僕。
彼らは17番目の僕の補助に入りながら、アガレスと戦っている。
ただ、3対1の戦いでもアガレスは倒れる素振りを見せない。
「まだまだ私が死ぬ未来視はできていないぞ!!」
彼の体力は消耗し続けているし、これまでの僕が付けた傷も多い。さらに、休みなく僕らと闘っているのだ。それなのに、彼はまだ闘い続けている。
「こいつ。なかなか倒れない」「くそっ!! 化け物かよ」「だが、こっちは3人だ!!」
僕のうち2人がアガレスの攻撃を防ぎ、1人が攻撃に集中する。
3対1の闘いのため、アガレスは押され気味になっている。1人の攻撃が確実にアガレスに当たるようになったからだ。
「これしきのこと……!!」
体力を消耗し始めたのだろう。アガレスは攻撃に徹するのをやめた。刀を床に向けて下ろしたのである。
それはチャンスだった。僕たち3人が攻撃に移り変わる隙が生まれたのだ。
「隙を見せたな!!」
「行くぞ!!」
「これで終わりだーー!!」
3つの青き短刀がアガレスの肉体に迫る。正面左右からの青き短刀の刃が目指すのはアガレスの身体。
だが、アガレスは自身から流れ落ちる血を見えないように手に貯めていた。
そして、その血を1人の僕に向かってかける。
血は1人の僕の視界を封じてしまった。
「ガッ!?!?」
「あいつ、自分の流れ出る血を!?」
「だが、こっちは2人…………いや、しまった!!」
1人の僕の目潰しにより、その悲鳴で他の2人がそれぞれ彼を見る。
そうすることで、また新たに僕らに隙が生まれてしまった。
「未来予知のできぬ貴様らなど、私の敵ではないわ!!」
アガレスの横薙ぎの攻撃が僕ら3人に一度に襲いかかってくる。
3人の僕はその攻撃を防ぐこともできずに殺されてしまった。
そして、その攻撃から生き延びた並行世界の僕は1人だけ。18番目の僕だけだ。
お互いに体力を消耗し続けている。
アガレスはこれまでの僕らとの戦いで、外傷30箇所にも及ぶ負傷。
この世界の僕は既に出血が始まって15分経過している。
「はぁ…………はぁ……。なぁ、エリゴルよ。あとどのくらいだ?」
「(まずいな。この世界の僕がこのままじゃヤバい。出血多量だ。残りはどのくらいだ?)」
「早く、未来予知のできる並行世界の貴様を探し出して連れてこい」
「ああ、既に僕はそうだな。僕も未来予知のできる世界の僕だ」
未来予知のできる能力の並行世界は貴重なのだ。それは無数にある並行世界の中でも特に数が少ない。
その理由としては、既に何個かの並行世界に僕がいないからだ。
ここに辿り着く前に何個かの未来予知のできる並行世界の僕は死んでいる。
つまり、それ以外の世界の僕よりもハードな人生を生きているのだ。
他の並行世界の僕はなんらかの別の能力を持っていることは多い。だから、生き残れている。
しかし、未来予知のできる並行世界の僕らは死にやすい。ここに至る前に死んでいる数が多い。その理由は分からないが、何かに巻き込まれやすいということは確かだ。
「(この世界の僕は、僕を見つけるのに苦労しただろうな……。使いこなせていないんだからね。
無限にも感じる無数の並行世界から僕を見つけたんだ……簡単には死ぬわけにいかない)」
並行世界の順番はバラバラである。並行世界を1つずつ確かめて、この世界の僕は僕らを呼び寄せたのだ。さらに、まだ使いこなせていない状態での能力だ。
だから、1人目を見つけるのにも時間がかかった。未来への分岐点とはそれほどに数多き物なのだ。
「ようやくか、エリゴル。他の能力の奴らとは違う。それがいいのだよ」
「だったら、もう終わらせてあげてくれ。この世界の僕には、生きてて欲しいから」
18番目の僕は未来予知ができる。だが、この力でいろいろなつらい経験をしてきた。
「他とは違うな。能力だけではない。貴様、少しは戦闘経験があるようだな」
アガレスは18番目の僕との闘いの未来を見たのだろうか。
そして、アガレスは動き出す。先手はアガレスの攻撃。
僕はそれをギリギリの所で防ぐ。
さらに、そのまま僕はアガレスの刀を弾き返し、その隙をついてアガレスの身体に刃を突き刺す。
「グッ!?!? 貴様も……死を恐れてないのか」
「ああ、僕は恐れてない。死なんて何度も見てきた。その度に鍛え上げてきた。お前のように!!」
この世界の僕は守り抜いている。18番目の僕には辿り着けなかった並行世界の僕だ。
だからこそ、18番目の僕がやらなければいけない。
18番目の僕にはアガレスの気持ちがわかる。僕も大切な物を落とし続けてきた。この力があるのに、救えなかった命は多い。だからこそ、18番目という並行世界の僕はここで相討ちするべきだ。
これ以上、僕みたいな並行世界を生まないために……。僕は別の並行世界で死ぬべきなんだ。
「僕の並行世界の僕は、お前と同じだ!!
これ以上、あの世界で分岐点を作らないために!! これ以上、あの世界が元の並行世界を生み出さないために!!」
18番目の僕はアガレスの肉体に突き刺した青き短刀を離さない。青き短刀の刃を押し込んでいく。
「グッァ!?」
アガレスの刃が僕の腹部に突き刺されても、僕は決して離さない。
お互いの体から大量の出血が流れ落ちていく。お互いの刀に流れ滴れていく、お互いの血液。
そして、とうとうアガレスにも限界が来たらしい。
彼の押し込める力が少し緩まったのを18番目の僕は感じた。
「貴様、そうか。ゴフッ……。貴様も同じか。アハハハハハ。そうだよな。なぁ、エリゴル……」
「なん……だ?」
「私の力でも救える……。そんな並行世界の私もいるのかね?」
「いると思うぞ。僕がこの世界の僕とは違うように」
「そうか、じゃあ。じゃあ、私は悪い結果になる並行世界の私だったのだな。よかった……」
アガレスはもう刀を振るうことができないくらい体力を失っている。これまでたくさんの僕と戦い、これまでたくさんの傷をつけられた。
そうして、アガレスは倒される寸前まで至った。
彼の望む、全身全霊での闘いを彼はひさしぶりに味わえたのだ。
「……私にも救える並行世界があるなら良い。この私が基準ではなく、もしもの私ならそれでいい。
そんな分岐点も私にはあるのが、私は嬉しいのだ」
アガレスに未練はない。自分が大切な人たちを救える並行世界もあるのだろうと考えることができたからだ。
「(そんな世界の私はどんな暮らしをしているのだろう? 幸せか? 笑っているか? 愛せているか?
私の望んだ。そんな世界が、そこにはあるかな?)」
「(これで僕も終われる。もうあの世界で分岐点を作らずに済む…………ここでなら、僕は……)」
「エリゴルよ、私を……殺せ。私はもう満足だ」
「ああ、僕にも時間がない。すぐ終わらせるよ」
アガレスは18番目の僕からの攻撃を受け入れようとする。18番目の僕は青き短刀の柄を握り直し、さらに押し込めようとした。
だが……。
「そんな……馬鹿な。何故だ!?」
18番目の僕の身体が透明になっていく。青き短刀を押し込める力が出ない。
「まさか、限界だと……!? クソッ、最悪だ。ここまで来て……」
どうやらこの世界の僕が能力を発動できる限界に達してしまったらしい。この能力が解除されてしまい、18番目の僕が強制的に帰らされてしまおうとしているのだ。
「ふざけるな!! こんなの……なんで……この世界でなら」
「私を……殺せないのか?」
「───ああ、相討ちだ。
せめて、せめて最後に一目…………ダメだ……消えていく。力が……。僕は……」
「エリゴル・ヴァスター……貴様。私を殺してはくれぬのか?」
「ああ、お互いに生き地獄だ……検討を祈ってるぞこっちのアガレス。僕も君の気持ちがわかるから……な」
18番目の僕は悔しそうに消えていく。その姿をアガレスは血を流しながら見届けた。
そうして、闘いは夢の中のように過ぎ去っていく。
蜃気楼のように晴れていく。
「…………」
その場にいるのは僕とアガレス。お互いに血を流し、床に倒れながら、僕らの初戦はこうして幕を閉じた。




