14 ②・天然と人工と絶対と修正と+アガレス 戦①
遅れてしまい申し訳ございません。また、12月4日の公開はお休みです。申し訳ございません
僕とアガレスは似た能力を持っている。
お互いに未来を知ることができる能力だ。
違いがあるとすれば、それは天然物か人工物かというだけ。
「うおおおお!!!」
僕は青い短刀を握りしめて、アガレスへの攻撃を行おうとする。
狙うのは腹部。その刃を突き立てようとする。
だが、彼はそれを難なく避けて、彼の持っている剣で今度は逆に僕の首筋を斬ろうと振るう。
だが、一瞬、彼は刃の軌道を変えた。首筋から胸部に向けて軌道を変えた。
そこへ吸い込まれるように僕の体が移動する。いや、違う。
「バカなッ!? すでに!?!?」
未来予知したはずだった。僕は首筋への未来予知を行い、体をずらして避けようとしていただけだった。だが、彼はさらに読んでいたのだ。僕が避ける先を読んでいた。
僕より先の未来を見ていた。僕が避ける先への攻撃を開始していたのだ。
「まだまだ軟弱。その反応速度、貴様も未来が見えるようだが。
先を見るのは、私の方が極めているのだ!!」
アガレスが刃を振り下ろす。僕の体から血が吹き出ていく。
嫌な予感がする。アガレスは未来を見ることができるのだ。もしも、僕より先の未来を見ることができるのなら……。
僕はおそらくアガレスに勝つことができない。
痛い。ガッツリと体が斬られてしまったらしい。生温かい血が床に流れていく。僕の体内から外へと流れていく。
「くそっ!!」
僕は痛みに耐えながら、それでも倒れることはなかった。この程度の一撃じゃ、マルバスだって倒れない。
ただ、斬られただけである。まだ致命傷ではないはずだ。
幸いにも、血しぶきが舞っている最中なので、アガレスからは攻撃が見えないはずである。
「ぁ……くらえーーーー!!!!」
僕は持っていた青い短刀を投げ飛ばす。血しぶきはカーテンのように青い短刀の軌道を隠す。
その一瞬の視界を隠すことによって、未来視を鈍らせるつもりだった。
「未来視するのに何秒かかる? 正確な位置を把握できるか!!」
未来視をし終わった頃には既に青い短刀はアガレスの脳天を突き刺す。それくらい素早く投げた。
だが、アガレスは告げる。
「言ったはずだぞ」
その瞬間に僕の胸にさらに放たれる一撃。
アガレスの剣による一撃が、再び僕の胸を斬りつけたのだ。
「ぐぁああ!?!?」
さらに傷が増えてしまった。さらに身体に刀傷をつけてしまった。血がさらに飛び出していく。
今度はダメだった。僕はとうとう立ち続けることができなくなってしまい、自分の血に顔をつけることになる。
体中から血が流れていく。床に顔をつけてしまった僕は、痛みに耐えながらアガレスの方を向く。
「言っただろう? 先を見ることは私の方が極めているのだよ。私は未来視を従えているのだからな」
「アガレス…………」
「小僧、お前はまだまだのようだな。おそらくお前も今まで未来を見ることで生き残って来たのだろう?
だから、お前と私には差がある」
アガレスはゆっくりと近づき、僕に向けて何かを投げた。それは先ほど僕が投げた青き短刀である。
青き短刀の刃が僕に背中に突き刺さったのだ。
「ガッはァッ……!?!?」
「お前は今まで自分が勝利する未来を見ていない。
お前は、守ることを捨てていない。
だから、ダメなのだ……」
そして、アガレスは僕の体を蹴る。その一撃でさらに流血してしまう。
「死ぬ未来を恐れる者は心から生を捨てよ。死を望め。
そうでなければ、お前は変われぬ」
「生を捨てる……?」
命を捨ててでも未来を見ないといけないということだろうか。
たしかに、僕は今まで自分が生きている前提の未来を見ていた。
攻撃を行う時に見る未来。攻撃を防ぐ時に見る未来。周囲の人を未然に助けるために見る未来。自分を未然に助けるために見る未来。
すべて、命を次につなげるために未来を見ていた。
「敵の死を望め。自らの死を望め。守るべき者の死を望め。
その覚悟があればお前は私に近づける。生を諦めてでも未来に進むのだ」
死を望む。たしかに、相打ちする覚悟で未来を見たことはなかった。
アガレスの言うとおりだ。彼はおそらく相打ちする覚悟で未来を見てきたのだろう。
彼は虹武将の中でも上位の実力者。きっと、これまで数多くの死線を乗り越えてきたのだろう。
きっと、僕よりも圧倒的に戦闘経験が豊富なのだ。
しかも、あの太刀筋。剣豪レベルの剣の上手さ。
流れるように放たれる刃の軌道。剣術も僕より上だ。
さらに、相打ちする覚悟で行われる未来視。それでいて、いつでも自由に見ることができる未来視。
それも生を求める僕とは違って、覚悟が僕よりも上だ。
つまり、僕とアガレスには3つの差がある。
戦闘経験も剣術も未来視も……僕の上位互換だ。
だから、彼が正しいのだろうか?
「忠告ありがとうよ……アガレス」
彼の言うとおりにすれば、僕は強くなれるのだろうか。
彼の言うとおり、敵の死も自分の死も守るべき者の死も、未来視で事前に見ておく。そうすれば、先手を取ることはできる。
躊躇することもなく、全てを切り捨てていくことができる。だって、未来視で先に見たものをもう一度見ることになるだけだ。
アガレスのような命に未練のない人ならば、それで心を揺さぶられることもない。
「だけど……!!」
そんなこと、僕は絶対にしたくない。
だって、守るべき者の死を見て、それをそういう未来だと諦めるなんて冗談じゃない。
僕の未来予知は僕が未来を変えるためにあるんだ。
「……死んでもごめんだな。
なァ、アガレス、僕はあんたがわかったよ。あんたは運命を返れないんだ。返れない未来を見ているんだ。
だって、あんたは自由自在いつでも未来を見ることができる。
つまり、そこには自分の意思がある。未来を見るという意思がある」
意思があってしまうと、未来を見るのも自己判断である。
一度、未来を見てしまえば、それを変えるには転換期探さなければならない。つまり、また未来を見なければならない。
しかし、未来の転換期がどこにあるかなんて、自分でわかるはずがない。
再び未来を見ようとしても、すでに未来の転換期を見逃していれば未来は変えられない。運命は変わらない。
だから、未来を意思で見るアガレスは未来を変えることができない。
どんなに悲惨な未来を見たとしても、変えられない運命なのだ。
「あんた、命を捨てる覚悟があるっていうけど。昔は違ったんじゃないのか?
変えられない未来を見続けて、守るべき者の末路を知っているのに助けられず。
捨てて、捨てて、捨ててきたんじゃないか?」
もしも、僕が自由に未来を見ることができていれば、僕もアガレスのようになっていたかもしれない。
僕の未来を見える能力は、僕の意思とは無関係だ。朝は嫌な未来を見て、それを修正する一日を過ごしている。もしも、嫌な未来を見ない朝を迎えられたら、どんなに良かっただろう。それが未来予知か夢かがわからないから、心休まることもできない。
「ああ、たしかに、あんたが自由自在に見れることが羨ましいよ。僕は見たくもない未来を見させられる」
いつも、この未来予知が自分の意思でコントロールできるようになってくれればと思っていた。
自分の未来が見える力が嫌だった。
だけど、僕の未来予知は特別だったんだ。
僕の未来予知は修正のチャンスをくれている。
未来を修正することのチャンスをくれているのだ。
「だけど、僕の未来予知は違うんだ。修正のチャンスなんだ。僕は運命を変えることができる。そのチャンスを貰えているんだ」
嫌な未来を見る。アガレスはそれを真実として見る。僕はそれを修正箇所として見る。
絶対の未来と修正の未来。
どちらも未来を見ているが、それは違う能力なのだ。
「貴様ッ…………。貴様に私の何がわかる!!
この力は未来を見る力だ。未来とは、変わることはない運命だ。運命ってのは初めから決められているんだ!!」
「そうかもしれない。僕も今、左目が疼いている。おそらく同じ未来を見ているんだよ」
僕とアガレスが見ていた未来は、僕が座ったままでアガレスに再び斬られてしまう未来だ。
だが、教えてやろう。そんな未来は来ない。
未来が決まる転換期。運命への道というのは無数にあるということを……。
「教えてやるよ。未来には無限の可能性があるんだぜ」




