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9②・もう1人の相棒+亥 戦②

 その後、僕はキユリーについて考えるのをやめた。煩悩を捨てて、猪狩りに専念しようと思ったのである。


「あっ、そういえば猪狩りなのに道具も罠も持ってきてないや」


だが、煩悩を捨ててしまったせいで、冷静に思い出してしまった。

猪狩りについての知識も方法も道具も罠も持ち合わせていないことに……。


「くっそ……。どうすればいいんだ。戻るか?」


戻るにしても、無事に戻れるかどうか不安だ。

この禁忌の森の木々は動く。

だから、道を間違えたと思って人々は遭難するのだ。

前回はシトリーの助言もあって、なんとか助かったが今回は1人。

土地勘もない人間が森の中をさ迷い歩いている真っ最中。

しかも、獣道を探して歩いていたので帰り道がまったく分からない。

ん? まったく分からない?


「あっ…………ヤベッ」


遭難。

僕は遭難してしまったのだ。それは一番禁忌の森でやってはいけないこと。

適当に歩いていれば一生出られない。




 遭難。その真実がどれだけ僕を苦しめたとお思いだろうか?

もう今すぐにでも発狂したかのように叫びだして、森の中を走り回りたくなるくらい心が追い詰められそうだった。下手したらついでに全裸になっていた。

それほど、僕にとって遭難という事実は重い。

だが、人間の声が聞こえてきたのでそこまでの奇行は起こさない。森の奥から聞こえてきた人間の声。もしかしたら助けてくれるかもしれないという喜びが僕の生きる希望となったのは言うまでもない。


「…………………ッ………………」


よかった。少し遠い位置からだが、人の声が聞こえる。

その声に引き寄せられるように僕は走った。

森の中を全速力で走っていく。

希望にすがるように、助けを求めるように僕は声のする方向へと走っていく。




 だが、僕はすんでの所で木々の間に身を隠した。その声がする人物との距離は4m。そこまで走って近づけた。それなのに4m先に人間がいるのに、僕はあわてて身を隠した。


「おいマルバスだっけ?

お前はなにもできないんだよ」


なんて事を言っている男の声を耳にしたからである。

2人の男女の会話に聞き耳をたてるのはよくないと考えたのだが……。

マルバスという名前が男の口から出てきた時点で僕は見聞きせずにはいられなかった。


「オレを人質にするなんてバカだなお前ら。私は付喪人だぞ。お前らが勝てるのか?」


「それがどうしたんだよマルバス御姫さん。

俺だって付喪人だし、“起動きどう”も使える上級者なんだぜ。相方も同じくだ」


男の言う相方とは釘野郎のことだろうか。

きっと男と釘野郎は禁忌の森で待ち合わせているのだろう。


「そうだといいんだろうよ。だが、バティンやハルファスがいるぞ?」


「お前ッ、バカだな~。そんな奴らに俺の相方が負けるわけねぇだろ。それに、お前を人質に取ってるんだぞ」


「貴様!!

まさか裁判を!?」


「ああ、利用するように要求したよ。相方も見物人に紛れ込むって言ってたから確実にある」


「クッ……貴様ら!!」


「お前の知り合いであるヴァスターさえ消せれば、厄介なヴィネと戦わずにこの国を去れる。そして、俺たちは“青い目の男”から礼金を受けとる。金額は8000万だ。それを2人で山分けするって魂胆さ」


「お前らが逃げたとしても犯罪者として指名手配すればお前たちはもう……」


「そうか……。お前、御姫さんだから国々の現状を知らねぇのか。現在は魔王国を除いた国々が危機的状況なんだぜ。時代が動いているんだよ。もう止まらない。

だから、金が必要なんだ。金があればどんな時代になっても多少の権力は持てる。この変化にも乗り遅れないのさ。アヒャヒャヒャヒャ!!」


そう言って高笑いする男。

明らかに悪役っぽい男だが、あいつも釘野郎みたいな起動が使えるというのなら厄介だ。

それにマルバスは両腕を縛られていて動けない。僕が助けに行っても僕だけでは男には勝てないし、マルバスは戦えない。

せめて、男がどこかへ行ってくれればよいのだが……。

僕は仕方がないと諦めつつ、2人の様子を伺うことにした。


「……ヒャッ?」


だが、男の笑い声が急にひきつったようになり、止まった。

急にその場の空気が変わった。



──────────────────────────


 ザワザワザワザワザワ…………

ドドドドドドドドドド!!!!


木々が揺れる。

森の奥。遥か遠くに奴はいた。

暗闇に潜みながら、その目は3人を睨んでいた。

暗闇に浮かぶ3つの目。

死体が動くような不気味さ。

見ている。見ている。見ている。見ている。見ている。見ている。見ている。見ている。見ている。


「なんだ?

あいつは……?

起動きどう!!!!」


そう言って男はあわてて変身し、その存在に向かって駆け出した。

その速さは釘野郎の瞬間移動よりも10倍くらいすばやい。

まばたき1度で、もうあれほど離れた距離まで移動している。

そして、男はその速さのまま、その存在に攻撃を仕掛けようとした。

まだ、全身が怪人のように変身する前である。

下半身はすでに変貌しきっていたが上半身はまだだった。

けれど、焦りを感じたのか。

男は不完全な変身でもかまわないとでもいうように攻撃を仕掛けた。


バギッ!!


男の攻撃は正確には届いていなかったかもしれない。

蹴りをくらわせる前に、その存在の体は砕けたのだ。

まるで脱皮のように……。


グジッ……!!!!


次の瞬間、男の体が3つに分かれる。それは瞬間移動と瞬間移動がぶつかり、男よりも中身の方が強かったというだけのこと。

脱皮した皮はその場に捨てられて、中身だけがこちらへと飛んできた。マルバスの前へと飛んできた。

【今回の成果】


・マルバスと釘野郎の相方を見つけたよ


・相方の身体が3つに裂けたよ

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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