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13 ②・帝王家への怨念たち+蝕の集合体への対処

おそくなってしまい申し訳ございません

 僕は、マルコシアスと一時的に共闘関係になった。そして、そのまま彼と一緒に大廊下へと戻ってきたのだ。


「マルバス!!」


僕は殿を務めてくれた彼女の名を叫ぶ。

だが、僕の目に映る光景は僕の叫びを絞めてしまう。

周囲は戦いの激しさを物語るように、荒れ果てていた。

そして、その中央付近でマルバスが倒れている。うつ伏せで倒れている。大量の出血が彼女の命が危険なことを示している。

だが、僕が名を呼んだことを理解したのか、マルバスは顔を上げた。


「…………なぜ。き……た?  帰」


「嫌だ。僕は逃げない。

全部、叶える。僕らはそのために来たんだ。

────さぁ、来いアンドロ・マリウス!!」


僕はマルバスからの命令を無視した。だが、それでいい。


「   」


さて、暴走したアンドロ・マリウスを意識したことで、彼女の敵として認識される。攻撃対象に加えられたのだ。

そして、暴走したアンドロ・マリウスはまっすぐ向かってくる。


「向かってきたよ。マルコシアス、まずどうするの?」


「君は隙を作ってくれ」


「わかった。隙を…………隙を!?」


つまり、僕は暴走したアンドロ・マリウスと戦わないといけないらしい。

しかも、奴が持っている武器も新しいのが増えている。おそらく、マルバスとの戦闘からコピーしたのだろう。

マルバスの使う合成武器のコピーを使ってくる。

そんな奴に青い短刀だけで立ち向かえるのだろうか?


「……いや、やるしかない。やるんだ!!」


僕だって成長している。虹武将にも勝てたんだ。

暴走したアンドロ・マリウスにだって立ち向かえるはずだ。

マルバスとアンドロ・マリウスをすぐにでも救うために、僕は戦う必要がある。






 僕は青い短刀を持って、暴走アンドロ・マリウスの方へと走る。

暴走アンドロ・マリウスも僕に向かって走ってくる。

お互いに向かってきているため、その距離はすぐに縮まった。

青い短刀の刃を僕は、暴走アンドロ・マリウスに向けて突き刺そうとする。

あの蝕の集合体が溢れ出てくるための心臓付近の穴である。ガラスが割れた部分のような傷口に僕は青い短刀の刃を突き刺そうと考えたのだ。

おそらく、弱点はそこだろうと安易な考えだったのだ。


「ッ!?」


突き刺す寸前、穴から蝕の集合体が僕の腕に絡みつこうとしてきた。

やはり、防衛機能はあるらしい。正直、そのまま突き刺して隙を作ろうと思っていたので、油断した。

僕は慌てて腕を引っ込める。


「危ねぇ」


だが、自分の腕に気を取られていて、奴の両手のことを意識していなかった。

暴走アンドロ・マリウスの両手が僕の首を絞め上げようとしている。

その怪力は人間の物とは思えないくらい、すぐに息ができなくなるくらいの力だった。


「ッッ!?!?」


息が苦しい。このままでは絞め殺される。

視界が意識が遠のいていく。その中で、僕の“左目が疼いた”。

───だから、これでいい。








 意識が消える。

暴走アンドロ・マリウスは僕の意識が無くなったことを確認すると、すぐに僕の首から手を離した。

奴は自分を意識した存在を敵として攻撃してくる存在。

だから、銃弾も攻撃も奴には効かない。奴のことを意識した瞬間に、相手を攻撃対象として捉え、食おうとする。それは生命でも無機物でも、奴に危害を加える物はすべて対処されてしまう。

逆に言えば、危害を与えない意識しない状態になればいいのだ。

そう、一瞬の気絶。その気絶で、僕は暴走アンドロ・マリウスに意識を向けることができなくなった。だから、奴の攻撃対象から一時でも外れた。

身体が倒れていく最中、僕は未来予知で見た通りの行動を行う。

頭から倒れそうになる寸前に、息を吹き替えし、そのまま暴走アンドロ・マリウスに攻撃を与えるのだ。


「…………死ぬ未来は見てないんだよ!!」


僕は身体を落下させながら、暴走アンドロ・マリウスの脇めがけて蹴りを入れる。


「   !?」

「当たった!?」


暴走アンドロ・マリウスは苦痛の表情を見せていないが、実際に攻撃が当たっている。

あの蝕の集合体で防いでいた防御壁が間に合わなくなっていたのだ。


「無敵の弱点だな。

お前は暴走している理性のない異物。だから、トドメもささない。

お前を出すには、死をも厭わない覚悟が必要だ!!」


「   」


怒っているのだろうか。

奴は腹からどす黒い呪いの塊で作られた合成武器を2つ手に取る。

おそらく、銃と剣の合成武器と、爆弾と剣の合成武器だ。

奴がマルバスの合成武器を取り込んでコピーしたということは、あれは本物として使えるはずだ。


「脅してるつもりなのか?

僕には怖くないね。マルバスのコピーなんだ。マルバスの戦闘技術がないお前なんて。これっぽっちも怖くない!!」


奴が合成武器の二刀流で、僕を始末するつもりなのだろう。

たしかに、あの武器相手に近距離戦も遠距離戦も不利だ。

だから、あの合成武器相手には戦わない。

僕は、合成武器の攻撃を避けることにしたのだ。

“左目が疼く”。“左目が疼く”。“左目が疼く”。

未来予知がうまく作動している。

ベリアルの十の修行のお陰で、身体が昔よりもスムーズに未来予知に着いて来ている。


「3回も避けれた……」


だが、安心したのもつかの間。

蝕の集合体からの攻撃が始まる。心臓付近に空いた穴から僕を飲み込もうとするように、呪いの塊が襲いかかって来たのである。


「しまった!?」


視界が黒く覆われそうになる。

調子に乗りすぎたのかもしれない。このままでは、逃げ切れない。



───────────────


 蝕の集合体が僕の身体に触れる。触れたのはほんの少しだ。だが、それでも効果は的面らしい。

頭の中で蠢く。記憶の中で蠢く。気持ちが悪い。何も感じたくない。意識したくない。消えてしまいたい。

何かが見えそうだ。何かが聞こえそうだ。

頭にノイズがかかり、テレビがつくようにその光景は僕の頭の中に広がろうとした。


「●●●●●●●●●●●●●●●●●」

───。


しかし、それを防いだのは青い短刀である。手に持っていた青い短刀が光り輝いている。その輝きが眩しく、その空間を照らしていた。そして、僕の視界は光に包まれた。


───────────────


 目が覚める。

暴走アンドロ・マリウスが目の前に立ち尽くしている。

僕はいつの間にか、膝をついて座っていたのだろうか。

暴走アンドロ・マリウスはなぜ動きを止めたのだろう。


「───あれ?  意識している……?」


暴走アンドロ・マリウスへ意識を向けているのに、奴が襲ってこない。攻撃対象になっていない。

その疑問は、この刹那の時間で解決する物ではなかった。

今すぐに、アンドロ・マリウスと蝕の集合体を分離させなければいけないからだ。


「よくやった!!  君のお陰で隙ができた!!

これで切り離せる!!」


いつの間にか、僕の側にはマルコシアスが立っている。

そして、マルコシアスは告げた。自らの必殺技を放つために……。





 マルコシアスは天秤の付喪人である。

その能力は相手に“これまでの罪の重さを物理的にのしかける”というものである。


「『悪人が弱者を裁き、民が悪人を裁き、民は神によって裁かれる。神の裁きに代わり、汝、我が裁く。神にあだなす者、それすなわち罪人!!」


マルコシアスが謎の祈りを詠唱すると、暴走アンドロ・マリウスと僕とマルコシアスだけの空間が現れる。

生きているモノは3人のみ。ただ、暗闇に覆われた空間に一筋の光が射し込んできた。

───簡易呑天空間。空を呑む結界、その一時的小さい範囲の結界。使い捨ての空間。


「なんだよ。あれは!!」


僕はこの空間状況を把握しながら、空を見る。

空からは黄金に輝く神。天秤を持った黄金に輝く神様が降臨しなされたのだ。

そして、マルコシアスは暴走アンドロ・マリウスを指差して告げる。


「罪の意識に潰れるがいい。

犯結(はんけつ)』!!!!」


「     」


その瞬間、暴走アンドロ・マリウスの身体に罪の負荷がかかった。

強力な重力。罪の重さが暴走アンドロ・マリウスを押しつぶそうとする。

だが、僕はその技の重大な欠点に気づいた。


「いや、待ってくれ。マルコシアス!!」


僕はマルコシアスにその気づきを伝える。


「蝕の集合体には感情がない。だから、罪の意識を感じる原理がない。これじゃあ、失敗だ!!  

これじゃあ、奴を倒せない!!」


蝕の集合体は罪の重さという物を背負うことができない。意思がないのだ。感情がないのだ。

しかし、指摘されたマルコシアスは笑う。まるで僕の気づきを指摘するように笑う。


「それは違うよ。そもそも僕には、蝕の集合体を倒す気はないんだから。

たしかに蝕の集合体には感情がない。でも、身体は別だ。だって、暴走しているだけで体は生きてるんだから」


体は生きている?

それって、つまり、アンドロ・マリウスが罪の重さを背負っているのだろうか。

今、アンドロ・マリウスが背負っている罪の重さを蝕の集合体が感じているのだ。


「だから、蝕の集合体は驚いているだろうね。攻撃を受けているのに、敵対反応が側にないんだ。攻撃を仕掛けているのは己の器自身さ」


アンドロ・マリウスの身体がとうとう床に倒れた。

そして、彼女の体から黒い液体のような物が血の代わりに流れ出てくる。

あれは、まさか、蝕の集合体の一部なのだろうか?


「あれは、蝕の集合体と帝王家への呪いが混ざった物だ。いいかい?

あの蝕の集合体が出きったら、君はすぐさまアンドロ・マリウスを回収するんだ」


罪の意識が、蝕の集合体と化した帝王一族への怨念を吐き出させている。“死にきれない呪い”を吐き出させている。




────────────


 彼女を苦しめてきた呪いが、全て吐き出ていく。


「敵は何処」「帝王を滅ぼす邪魔はさせぬ」「我ら怨念」「敗者の我らは死後も奴隷」「憎し帝王一族」「敵は何処」「帝王家め。我らの死後も奪いおって」


吐き出された蝕の集合体から声が聞こえてくる。こぼれ出ていく黒い液体ももう残されていないみたいだ。彼女の体の中の蝕の集合体は全て出しきられたのだろう。


「アンドロ・マリウス!!」


とうとう我慢ができなくなった。

僕は、その水たまりを踏まないようにアンドロ・マリウスの元へと歩いていく。そして、倒れている彼女を抱きかかえる。


「…………ごめんなさい。エリゴル…………」


アンドロ・マリウスはそう告げると、目を瞑ってしまった。

僕は彼女を背負って、マルコシアスの元へと向かう。

その道中、敗れた者たちの怨念の声が僕の耳に聴こえてくる。


「攻撃がいない」「成仏したい」「溶ける。何処にいる?」「我らのための生命よ、どこだ」「外は寒い」「蝕の集合体が強まる。思考も食われる」「器を、器で維持するのだ」「我らと共の肉体が、縛り付けてくれるはずなのに」「混ざりたくない」「赤子よ、我らの分身よ」


帝王家を呪うための怨念だった。アンドロ・マリウスの中にいることで、その役割を保っていた怨念たち。

だが、アンドロ・マリウスから離れたことで、その縛りは無くなった。

アンドロ・マリウスの中でしか怨念としての意志を持てない存在だったのだが……。

体を捨てた。器を捨てて、全て外に出切ってしまった。

帝王家を呪うための怨念たちが、帝王家とは関係が無くなってしまったのだ。

だからこそ、戻る場所のない怨念たちは蝕の集合体に呑まれていく。

これから、怨念たちは帝王家を判別できずに、蝕の集合体として、ほんとうに意識のない存在と成り果てる。

帝王家への攻撃・自らを意識した存在への攻撃。

その2つの個性が、1つ消えてしまう。もう二度と帝王家を問答無用で狙うことはできない。


「─────さようなら」


聞こえない程の小さな声でアンドロ・マリウスが告げた言葉の意味も、怨念たちにはもう理解することができない。

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