13 ①・裏切り者のマルコシアス+蝕の集合体への対処
裏切り者と遭遇。『虹武将“橙”。正直者の『フォルセティミス・マルコシアス』は僕らを裏切ったのだ。
出会い頭に遭遇した僕らはお互いに武器を握りしめ、相手を抑えかかろうとする。
戦闘経験ではもちろん僕が叶うはずもない。だが、距離的にも運的にも僕の方が尽いていたようだ。
僕は、マルコシアスの一撃を避けて背後へと回り込む。そして、彼の背中に青い短刀の刃を当てた。
「やぁ、裏切り者。ひさしぶりに会ったな」
「裏切り者とは心外な。もともと僕はこちら側です。あなた達に着いていたのもベリアルの監視が故。僕にとってはあなた達こそが敵なんですから」
お互いに隙を見せない状況だ。僕は青い短刀の刃をマルコシアスに向けているが、いつ彼に反撃を食らうかわからない。
突き刺す前に攻撃を食らうことだってあり得る話だからだ。
だからこそ、僕らはしばらく会話を行う。少しでも相手が隙を見せたら攻撃ができるようにするためだ。
「じゃあ、敵なら戦闘不能になって欲しいな。僕らは今、忙しいんだ。僕には時間がないんだよ」
「そうなのか。虹武将にこっぴどく殺られて逃げてるのか?
お前らみたいな帝国への反逆者にぴったりな話だね」
「虹武将に恐怖など抱くものか。僕だって1人倒したんだから」
「へーー。嘘はいけないよ。正直にならないと。それより、他の連中はどうしたんだい?
君は見捨てて逃げてきたんじゃないのかい?」
そんな台詞を口にしたマルコシアスは冷静な態度を取っているが、少し動揺を見せた。
そして、彼からの返答に僕も少し動揺を見せた。
見捨てて逃げてきた?
それは、たしかに、そのとおりかもしれないのだ。僕は、マルバスに甘えて見捨てているのかもしれない。
そんな中、僕の耳にフレンドちゃんが囁く。
「ねぇ、フレンド。さっさと殺しちゃいましょ。時間の無駄ですよ。裏切り者には死を。早めに殺しちゃいましょう!!」
いつもより殺意マシマシな発言を耳元でしてくるフレンドちゃん。何か焦っているのだろうか?
「あなたのためです。こいつの運命はそういう運命なのです。
さぁ、フレンド。殺しちゃってください……」
たしかにフレンドちゃんの言うとおりかもしれない。どうせこいつは虹武将だ。僕らの敵だ。
今、僕がやるべきことはベリアルを探すことだ。ベリアルを探し出して、アンドロ・マリウスの中にいる蝕の集合体を何とかしてもらう。
そのためにはこんなところで道草を食っている場合じゃないのだ。時間を無駄に使っている場合じゃないのだ。
「…………」
フレンドちゃんの言うことは正しいかもしれない。
このまま、マルコシアスに時間を使っていたら無意味だ。
ベリアルを見つける時間が足りない。マルバスを助ける時間が足りない。アンドロ・マリウスを救い出す時間が足りない。
今は一分でも一秒でも、時間が惜しい。
マルコシアスをさっさと殺して、ベリアルを早く捜しに行かないといけないんだ。
マルバスを死なせたくない。アンドロ・マリウスを連れ戻したい。
できるだろうか? いや、しなきゃいけないんだ。
そうじゃないと、僕の心が不安に押しつぶされてしまう。
でも……。それじゃいけないんだ。
「…………なぁ。マルコシアス。相談があるんだ」
フレンドちゃんからの囁きは聞こえない。僕は青い短刀の刃を下げて、マルコシアスに頼むことにした。
「えっ、何をしてる。僕は敵だぞ?
この剣で君の首を切り落と……!?」
マルコシアスは驚きで思わず、口を閉ざした。
だって、僕は信じることにしたからだ。裏切り者を頼ることにしたからだ。
僕は頼った。僕はマルコシアスに向かって土下座を行ったのである。
「お願いです。どうか、アンドロ・マリウスを救ってください」
「きっ、君。さすがに。いや、いやいや。お前らは帝国を脅かす存在なんだ……」
「アンドロ・マリウスを救わないと、帝王も危険なんだ。帝国への呪いが蝕の集合体となってる。
まだ顕現したばかりだけど。これ以上、成長すると誰も勝てなくなってしまう」
蝕の集合体と帝王家への呪いが合わさったことで、帝王家を滅ぼすまで止まらない呪いと化してしまったアンドロ・マリウス。
そんな暴走した彼女を止めるには、今のうちにしかないのだ。
僕らにとっても帝国側にとっても危険な状況なのだ。
だからこそ、今はお互いに協力し合うしかないと僕は頭を下げている。
だが、マルコシアスは慌ててはいるものの、すぐに返事を決めきれないらしい。彼は自分の中で葛藤している。
「たとえそうだとしても。僕は君を救わない。だって……だって、裏切り者だぞ」
「アンドロ・マリウスを救ったら、殺しに来ても構わない。それまでの同盟だ。
僕らは帝王を討つ、君らは僕らを殺す。その流れに修正するための協力だ」
「それを口にするのか。
その覚悟が君にはあるのか?
僕は、すぐさま君を斬り殺すかもしれないぞ。僕は君の目の前で、救われたアンドロ・マリウスを斬殺するかもしれない。それを君は見ていられるのかい?」
仲間が死ぬ未来。救い出した仲間が殺される未来。
そんな未来がいつか来るかもしれないなんてわかってる。
「わかってる。それでも僕は未来に進む。
今のままでも過去のままでも、僕は嫌なんだ。僕は未来に進みたい。
大切なのは、未来に挑むことなんだ。だから、僕はこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!!」
でも、何もしないまま後悔する今の方がつらい。
仲間が死ぬ未来なんて不安はない。
だって、仲間が死ぬ未来を変えることだってできる。予知すればいいんだ。
僕が未来を変えればいい。僕は未来予知ができるんだ。
せっかく見えた不幸な未来を現実にさせるつもりはない。
そのために、今がむしゃらに行動しないといけないんだ。
だって、今をどうするかで未来なんていくらでも変えられるのだから。
「だから、僕に協力してください!!」
「はぁ…………」
マルコシアスがため息をつく。
「僕は正直者なんだ。同じ正直者はその声質でわかる。今の君は、正直だ」
「それじゃあ…………?」
「虹武将にもベリアルにも言うなよ?
正直言うと、僕が手柄を獲て、帝王様に褒めてもらいたいからね。
帝国を影から救った英雄になるのさ。
ああ、安心しなよ。蝕の集合体ってのは知ってる。たぶん僕のほうが強い。
能力には、相性ってもんがあるらしいしね」
そう言って、彼は剣を収める。
アンドロ・マリウスの中にいる蝕の集合体を対処できるまでの短い期間だが。
再び、マルコシアスを味方にすることができたのだ。




