11 ①・アンドロ・マリウスへの呪い+蝕の集合体
マルバスと暴走したアンドロ・マリウス。2人はまだ大廊下にいた。
マルバスには帝王を追いかけるよりも先にやらなければならないことがあるからだ。
「なぁ、アンドロ・マリウス。お前、帝王になりたいんだろ?」
マルバスは持っていた拳銃に弾を込める。その行動はどうやら暴走状態のアンドロ・マリウスの敵対反応として捉えられたらしい。
暴走したアンドロ・マリウスは、マルバスに狙いを定める。
「 」
「バトろう、どちらかが倒れるまでよ!!」
「 ッ!!」
暴走したアンドロ・マリウスはまっすぐに向かってくる。
まっすぐに小細工なしに突撃する。それが帝王と暴走した彼女の闘いから学んだことだ。
「猪突猛進だ。彼女の中の呪いは“帝王一族”か“意識を向けた者”に襲いかかる……目的が単純だ、だったら!!」
マルバスは向かってくる彼女に向けて銃弾ではなく、小さな爆弾3つを彼女に向けて放つ。
そして、宙に投げられた爆弾3つにマルバスは銃弾を放った。
そうすることで、爆弾は暴走アンドロ・マリウスの前で爆発。
大きな爆音を響かせる。
────ドォン!!!!
「(予想以上だ……だが、まだなんだろう?)」
マルバスは暴走アンドロ・マリウスから少し距離をとって、爆煙が晴れるのを待ち続けている。
爆煙が晴れていき、その中から現れた暴走アンドロ・マリウス。
彼女はやはり傷一つついておらず、形を得た呪いの塊が銃弾も爆発も防いでいたようだ。
「やっぱり、攻撃は効かない。つまり、倒すに倒せない。あいつは不死身とは違うからな。不死身は傷をつけられる。だが、あいつは傷をつけられない。無敵だ、無敵の能力」
「 !!!」
暴走アンドロ・マリウスは向かってくる。
そして、暴走アンドロ・マリウスだけではなく、形を得た呪いの塊も彼女の体内から飛び出し、襲いかかろうとしている。
マルバスは両手に拳銃とマシンガン用の弾を握りしめ、「『Mixer arms』」と口にする。すると、拳銃とマシンガンの銃弾が合わさり、新しい合成武器が誕生した。
「じゃあ、良いことを思いついたぞ。呪いが防げる以上の銃弾を、お前にぶちまけて……」
新しい合成武器の照準が暴走アンドロ・マリウスに向けられる。
引き金を一度引いただけで、大量の銃弾が一気に発射された。
ただし、その銃弾はバラバラ。暴走アンドロ・マリウスに当たる気もない銃弾さえある。
しかし、マルバスにとってはそれで良かった。
壁に当たった銃弾を跳ね返らせることで、暴走アンドロ・マリウスを貫くつもりなのだ。
そうすることで、暴走アンドロ・マリウスの無敵を崩すつもりなのだ。
「(暴走を解除させてもらう。怪我させてでも、オレらにお前は必要だ!!)」
だが、結果はマルバスの予想と異なってしまった。
〜〜
「 」
「は!?」
それはまるで、帝王の使っていた能力。
なんと、暴走したアンドロ・マリウスに銃弾の弾は一発も当たらなかったのだ。
結果、暴走アンドロ・マリウスとの距離はさらに縮まってしまう。
「 」
「くそッ、帝王みたいな能力使いやがって!!」
マルバスは再び、合成武器の引き金を引く。
しかし、今度は形となった呪いの塊が、四方八方から跳ね返って彼女の体を貫こうとする銃弾を全て叩き落とす。
「バカな!? まさか……。
なるほどな。蝕の集合体ってのがわかったぜ。こいつ、一度食らった攻撃をコピーするんだ」
帝王の腕を飲み込んだ。マルバスの銃弾も飲み込んだ。マルバスの爆弾も飲み込んだ。
だからこそ、今、暴走アンドロ・マリウスはそのすべてに対応することが出来ているし、それを操ることもできる。
「ってことはさっさとアンドロ・マリウスを救い出さないと。本体がマズい!!」
そう気づいた瞬間、マルバスの目には形になった呪いの塊で出来た刀の刃が暴走アンドロ・マリウスによって振り下ろされそうになっているのが見えた。
────────────
アンドロ・マリウスの中で発生した呪いは最初はただの帝王一族の滅亡のための呪いだった。
目的達成までは絶対に“死にきれない”という呪い。そして、“帝王一族を滅亡させたい”という恨み。
それは、今まで帝王一族に殺されて、死後も改造ベイビーの素材に使われる遺伝子として利用された。
帝王一族への怨念…………それがアンドロ・マリウスの中にある呪いだった。
しかし、それは今、何故か【蝕の集合体】に変貌してしまっている。
【蝕の集合体】とは、この大陸に古くから伝わる災い。いつどこから現れるかも分からない滅びの穢。
それは、発生理由も発生方法も不明。自然に理由もなしに現れる。人為的な怪物か、理を外れた異形か、あの世からの破壊者か、大陸の破壊衝動か。さまざまな原因が考えられているが、未だに謎が少ない。
だが、その行動はわかっている。
蝕の集合体は、それに意思を抱いた物に襲いかかる。襲いかかり、食らうことで、そいつの情報を自由自在に扱うことができる。
犬を食べれば、犬と同じ大きさになる。人を食えば人と同じくらいの大きさになる。町を食えば町と同じくらいの大きさになる。
無尽蔵のコピー能力。それが【蝕の集合体】だ。
ただ、【蝕の集合体】は長くこの世にいることはできない。だからこそ、【蝕の集合体】への対処法は逃げることだ。逃げるしかないのだ。
逃げなければ、食われる。食われれば、さらに【蝕の集合体】は強くなる。
─────────
マルバスは瞑った目を開ける。
彼女は生きている。どうやら、間一髪のところで助けられたのかもしれない。
身体に痛みを感じる場所はない。彼女は暴走アンドロ・マリウスの攻撃から救われたのである。
「その攻撃はさせないよ。彼女は命の大恩人なんだ」
暴走アンドロ・マリウスの持っていた刀の刃は、青い短刀の刃とぶつかることによって、軌道を変えられたようだ。
マルバスをかばうように、男が暴走アンドロ・マリウスの攻撃を反らしている。
「…………お前、エリゴルか!?」
マルバスは驚きでさらに目を見開いた。
「再会できてよかった。爆発音が聞こえたんだけど」
「ああ、エリゴル。オレをあんたが助けたのか。オレは助けてなんて……!!」
その瞬間、マルバスは不満そうな表情をエリゴルに向けていた。彼女としては助けられるのはあまり本望ではないらしい。
彼は彼女に嫌われたのではないかと、一瞬顔を青ざめる。
「ひっ!?」
しかし、だからといって彼女は彼を嫌いになってなどいなかったようだ。
「………………だけどありがとう」
マルバスはそう言うと、彼の頬に手を当てる。
その瞬間は彼女にとって、彼の成長を感じ取った時間でもあったし、そして何よりそれを誇らしく思ってしまう時間でもあった。




