5①・無敵の身体+フォカロル 戦②
フォカロルの技によってアンドロ・マリウスは水の牢獄に閉じ込められてしまう。
ピクリとも動かないアンドロ・マリウス。溺れてしまっているようだ。
マルバスは溺れているアンドロ・マリウスを救出するために手を伸ばそうとするが、自分も取り込まれそうになるため、なかなか手で掴めない。
「おいッ!! アンドロ・マリウス。しっかりしろ!! まだ死ぬな!!」
「あらま、どうしよ。帝王の妹殺ししちゃったな」
アンドロ・マリウスの意識はない。フォカロルはそのことを彼女らの反応で信用する。
「まっ、いっか」
さらに、彼は次の標的をマルバスに定めた。彼はアンドロ・マリウスだけでなく、マルバスまでも殺そうと考えている。彼は自身への加害問題を発生させた奴を絶対に許さないのである。
彼は溺れているアンドロ・マリウスを助けようとするマルバスに向けて攻撃を行う。
手をピストルの形のハンドサインにして放つ『水鉄砲』。3滴程の水滴が銃弾のように発射され、マルバスの肉体を目指している。
その攻撃を察知したマルバスは、やむを得なくアンドロ・マリウスの救出を一時断念。
フォカロルの攻撃を避けるために、少し立ち位置を移動する。
「フォカロル。いい加減にしろよ。邪魔してくんな!!」
避けながら、マルバスは隠し持っていた小型ナイフをフォカロルに投げつける。
だが、やはり小型ナイフの刃はまるで湖に落ちたかのようにフォカロルの体に当たり、そして外へと弾き出された。
「やめといた方がいいの、わからないのかな?
さっきの攻撃も当たらず、今回も当たらず。
ぼくに打撃や武器は通用しないんだよね〜」
フォカロルはそう言いながら、瞬時にマルバスの目の前に詰め寄る。
マルバスはその速さに思わず、ビクリと体を震わせて驚いてしまった。
「わからない?
実体のない敵だと無能なんだよ、君はね」
フォカロルはマルバスの手を取り、それを自分の胸に貫通させる。遠くから見れば、マルバスの手がフォカロルの胸を貫通させている状態だ。
「いぃ……」
だが、実際はマルバスは手を水の中につけているような感覚を抱いていた。彼女は違和感や気味の悪さを感じている。
人間なのに水のよう。その事実を脳が処理しきるにはまだ2秒ほど時間が足りないらしい。
「わかっただろ? 君は絶対に、このぼくに勝てない。液体の身体は攻撃を受けないんだよ」
「お前、人間なのか……? なんか気味が悪い」
「そんなに恐れるなよ。悲しくなる。
ねぇ、ぼくと一緒に屋敷に来ないかい? メイドさんも待ってるよ。ぼくの屋敷でね」
メイドさん……。
その時、マルバスの脳内は気味の悪さから彼の発言へとメイン思考を変えた。
そして、彼の発言を理解した瞬間に気味の悪さなど吹き飛ばされ、怒りの感情が脳内に充満しだした。
「襲撃事件…………お前、オレらのメイドに何をしたのだ!!」
フォカロルの身体の中で無いはずの心臓を握り潰すように怒りが拳を握らせる。
一方、フォカロルはマルバスの反応を楽しんでいるようだ。ニヤリと笑い、マルバスの前から移動する。
「───さぁね。
だけど、まぁ、ぼくは虐殺をするけど、素晴らしい特徴のある者に少しくらいは優しくしてあげてるから。その人のことは心配しすぎなくてもいいよ」
そして、フォカロルはマルバスの前から少し多めに距離を取る。
「だから、君自身も心配しないで。悪いようにはしないさ。大切に扱ってあげるよ」
どうやらフォカロルはマルバスを屋敷に連れて帰りたいらしい。
彼の屋敷に誘われるなんて明らかに罠だ。だからこそ、マルバスは彼からの誘いを断る。
「ふざけるな、フォカロル。お前の頼みなんて死んでも聞くか。オレは妹メイドを絶対助け出してみせるぞ!!」
「そうなの〜?
ぼくのためには来てくれないのね。でも、ぼくは君を連れて帰りたい。じゃあ、どうするか。どうしよう。
もちろん、連れて帰るのさ!!
行け、『流水』!!」
フォカロルがその技の名を口にすると、フォカロルは隠し持っていた2本の水筒の蓋を開ける。すると、水筒の中身の水が宙に浮き始めた。
「ッ!!!!」
マルバスは嫌な予感を抱いてしまい、すぐさまフォカロルの水筒に向かって銃弾を発射する。
だが、銃弾で水筒を撃ったところで何も変わらない。
水筒から出てきた大量の水は、宙にプカプカ浮いている。
しかし、突如その宙に浮いていただけの水が動き出した。
水が塊となり、まるで蛇のように宙を動き回っている。
動き回る最中、水の塊は柱に当たると、柱を削ってしまった。柱を削るほどの水の塊。その塊が3つほど、フォカロルの側を動き回っているのだ。
「さて、うまく踊り避けてくれ。大事な器官は傷つけないようにね」
その瞬間、3つの水の塊がマルバスに向けて発射された。
3つの水の塊はマルバスの周囲を縦横無尽に飛び回る。マルバスの足や手を狙った突撃が続く。
皮膚をかすってしまえば、怪我をするのは確実。
だが、フォカロルはこの水の塊を遠隔操作できるらしい。
「クソ……ッ!! 嫌な技だなこれ!!」
一方、マルバスは内心焦りながらも、ギリギリで水の塊の突撃を避けていた。
このままでは、水の塊たちの攻撃を喰らってしまうのも体力と時間の問題。
しかし、フォカロルの攻撃をやめさせようにもマルバスの戦術は1つも通用しない。
液体の身体のフォカロルにダメージを与える武器をマルバスは持っていないからだ。
「なんとかしないといけない…………けど」
どうしようもない。
今のマルバスはフォカロルを倒すことはできない。彼女はただ一方的にやられるだけ。
フォカロルはそのことを分かっていた。分かっていた状態で、マルバスをお遊びとして使っている。そして、優越感に浸っている。
「ほらほら、これはお仕置きさ。罰さ。
加害問題を行った君の自業自得さ。
いやぁ〜〜清々しい良い気分〜アハハハハハ!!!」
フォカロルは笑っていた。自分に手を出せない弱者に対して、笑っていた。
自分の実力はこの場で最強だと過信していた。
──────ビシャッ
だからこそ、油断した。
──────バシィッ
「なっー!?」
フォカロルの肉体を横薙ぎに刃が通る。
油断していたフォカロルの上半身と下半身が真っ二つになる。
フォカロルの身体は床に崩れ落ちた。そして、その背後には女の姿。
全身に水を被ってびしょびしょになっているが、それはアンドロ・マリウスであった。
溺死したと思っていたアンドロ・マリウスは生きていたのだ。




