4①・帝王を追いかけて+フォカロル 戦①
アンドロ・マリウスとマルバスが再びお祝いの場のステージ側へと視線を向けてみる。
すると、帝王はお祝いの場に背を向けて立ち去ろうとしていた。
「おい、アンドロ・マリウス。帝王が何処かへ行っちまうぞ」
「ああ、載冠の儀の後、就任強制命令を発令しないといけない。でも、帝王は聖剣をもとの玉座に戻さないといけないからね。その時間だと思う」
「つまり、しばらくの間、帝王は……」
「そのとおりです。一人っきりになります」
「「じゃあ闇討できる!!」」
そういうわけで、2人はさっそく帝王の背後を取るためにこっそりと帝王のあとを追いかけていくのである。
さて、帝王の背後を慎重に追跡していく2人。
帝王はどうやら玉座の間へと向かっているらしい。
カッツカッツと帝王のハイヒールの足音だけが室内に響き渡っている。
帝王は追跡されている事に気づいてないように、ただひたすら進んでいく。
アンドロ・マリウスとマルバスは、大きな柱に隠れながら、帝王の様子を遠くから眺めていた。
「いいですか? マルバスさん。
聖剣が向こうにある時点で我々は勝てない。なので、あいつが聖剣を直してからが勝負です」
「つまり。玉座の間からあいつが出てきた瞬間から攻めるんだな」
「そのとおりです。それまでは絶対にバレてはいけない」
小声でお互いに話し合い、気配を隠しながら進む2人。
その最中、マルバスはとある柱に視線を向けてしまう。
視線の先にある柱は酷く崩れかけており、さらに血が周囲を濡らしている。
そして、柱にもたれかかるように動いていない死体……それは、赤羅城の物であった。
マルバスはその驚くべき死体に目を見開き、赤羅城の姿から視線をずらすことができない。
「赤羅城…………お前」
マルバスも赤羅城が不死身なことは知っている。
なので、彼が死んでいるわけではないと分かっている。
だが、今まで見たことないほど彼は衰弱していた。
何度も殺され続け、再生が追いついていないみたいだった。
マルバスはそんな彼の事を心配して駆け寄ろうとする。
「赤羅城、意識はあるの?」
だが、アンドロ・マリウスは動こうとするマルバスを羽交い締めにして止めた。
「マルバス、ダメです。駆け寄っちゃダメ。音で気づかれる!!」
柱に隠れながら移動することで、なんとか気配を隠している状態だ。
少しでも動きを出してしまえば、帝王に見つかっても文句は言えない。
だからこそ、アンドロ・マリウスは彼女を抑えたのである。
「彼は生きてます。ほら、少し指を動かしたでしょう。それに罠かもしれないですよ」
「…………ああ、すまない。そうだな。オレとしたことが」
マルバスは柱から足を出す寸前で、冷静になる。
そして、マルバスは赤羅城の方から視線をずらし、再び帝王へと狙いを定めた。
「そうだよな。今、帝王に見つかれば、巻き添えで赤羅城にも被害がある。すまない。あいつのあの姿に驚かされたんだ」
「ええ、落ち着いてくださいね。相手はこの大陸の上位に立つ高位な権力者。赤羅城でも歯が立たないんです。そんな奴を相手にするんですから、少しの油断が命取りですよ」
アンドロ・マリウスとマルバスは再び帝王の姿を視界に映す。
すると、帝王はどうやらこの大廊下からは既に姿を消したようだった。
大扉が閉じる音が大廊下に木霊している。
玉座の間までは大廊下以降も通路を4つほど通らなければたどり着けない。意外と距離もあるため、これにて玉座の間までの第一関門は終了となる。
アンドロ・マリウスとマルバスは、大扉が閉まった音を耳にして帝王の姿が見えなくなったのを確認すると、柱の陰から顔を出した。
「「行った……みたい」」
マルバスとアンドロ・マリウスはホッと一安心。
マルバスはすぐさま赤羅城の方へと視線を向け直した。
やはり、彼はまだ回復していない様子だ。
「あいつが、あれほどまで回復できないのは妙だよな。なぁ、アンドロ・マリウス」
「そうなのですか?
あっ、彼に奇跡の薬でもかけてみます?」
アンドロ・マリウスはポケットから小さな小瓶を取り出す。それは奇跡の薬が入っている瓶だ。
奇跡の薬は、虹武将に伝わるどんな怪我も傷も治してしまう効果を持った薬だ。死にかけたマルバスも今はその薬のお陰で元気いっぱいになるほど効果がある。
その薬をアンドロ・マリウスは赤羅城の側へと駆け寄り、飲ませてあげようというのだ。
「赤羅城…………意識はある?
今助けるから。これを飲みなさい」
だが、アンドロ・マリウスは赤羅城の口に薬を流し込もうとした瞬間だった。
彼女の持っていた小瓶に向けて何かが投げられたのである。
アンドロ・マリウスの持っていた奇跡の薬の小瓶めがけて投げられたのは、小さなナイフ。
ナイフは見事、奇跡の薬の小瓶を割り、中身の液体を床に散乱させることに成功させてしまう。
「あッ!?!?」
アンドロ・マリウスもマルバスもそのナイフが飛んできた方向を見る。
その犯人はゆっくりとお祝いの場から大廊下の中へと入ってきた。
逆光で姿は見えないが、どうやら男のようだ。
「手癖の悪い女め。そんな物、ズルいじゃないか。だから、嫌いなんだよね。得してる奴って」
そう言って、逆光が差す位置から移動した男。
それは、マルバスにとって因縁のある敵であった。
その人物の名は【青年英雄】『プルトン・マーベラ』。またの名を犯罪組織【闇星】の幹部、水行の使者『フォカロル・ハーデス』。
「やぁ、カマキリ共のお2人さん。そんなにヒソヒソと何処へ行くの?」
「貴様、【闇星】!!
フォカロル・ハーデスだな」
マルバスは挨拶がてら、腰に忍ばせていた銃をフォカロルの頭にめがけてぶっ放す。
これにはフォカロルも対応することができず、そのまま銃弾が彼の眉間を貫いて……。
「判断速くないかなァァ。
いきなり銃弾をぶっ放すなんて狂ってるんじゃないの? クソ虫め!! 短脳味噌め!!
ぼくへの加害問題として受け取るには充分すぎるよね、これ!!」
……しまわなかった。彼はマルバスに対して文句を口汚く言い続けている。彼に向けて放たれた銃弾は彼の額に命中はしたのだ。
しかし、まるですり抜けるように銃弾が彼を傷つけることがなかった。
それでも、マルバスは動揺せずに彼に言い返す。
「狂ってるのは貴様じゃないか?
オレの母親をよくも殺ってくれたな!!
闇星、よくオレの前に来てくれた。叩き斬ってやる!!」
「ふざけるな!!
ぼく一人で殺ったんじゃないんだ。ぼくに責任の押しつけはやめてくれないか?
それにその話は過去だ。過去の話をほじくるなよ。そうやって、ワーワー文句を言うの。ぼくへの加害問題だからね!!」
「貴様ッ…………」
マルバスは苛立ちを押さえ込みながら、フォカロルと対峙する。彼女はもう銃弾を放たない。
何故なら、もったいないからである。
彼の煽り(本心)に乗っかって銃弾をぶっ放しても、当たらないことは先程理解したからだ。
だからこそ、意味のない攻撃に銃弾を使うのがもったいないと感じてしまう。
今回持っている武器にだって限度がある。こんな奴のために貴重な武器を減らしたくはない。
だから、マルバスは苛立ちを耐えている。今はフォカロルの相手をする時ではない。今すべきなのは帝王との闘いである。
「まぁでも、あんたいい腕してるね。欲しくなるよ。
そうだ。今度、ぼくの屋敷に歓迎するよ?
君の知り合いもきっといるだろう。すぐに仲良くなれるさ。
これは、せめてもの謝罪の意だ。この前はモルカナ国で迷惑をかけたかもしれないからね」
「モルカナ国…………?」
ふとマルバスの中で思い浮かんだのは、襲撃事件。
十二死の出現後、荒れた城内で暴れまわり、数十名を無慈悲に殺害した犯人がいた。マルバスとしては、その正体がわからないままだったのだ。
フォカロルはさらに話を続ける。
「それにしてもさぁ。あんたの所のクソって、馬鹿だよねぇ〜。今日見たよ。あいつ、涙こらえてたよ。
いやー、堪えるのに必死だったわ。汚い獣を愛すなんてアホすぎでしょ。相手はただの獣だよ。まぁ、自分の身の丈を理解してるのは偉いか」
「はぁ?」
「知らないの? 意外だなぁ。君は何も知らないの?
アレだよ、えっと、エリゴルって奴。君らの金魚のフン。
ああ、ごめんごめん。あんな使い捨てどうでもいか。
何の戦力にも価値にもならない奴だ。
ほんと、エリゴルってかわいそうだよね
生きてても何も残せない。そんなやつは端によってぼくらのために砂利と化すべきだ。だって彼、無駄な雑魚人生を送る価値しかないもんね」
その言葉、もうマルバスには届いていない。すでにマルバスの心に限界が来てしまった。エリゴルへの罵倒がマルバスの心のブレーキを壊してしまったのである。




