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3①・帝王に相応しい者+載冠の儀

 さて、一方、ここは“お祝いの場”。


「ご来場の皆様。これより21年に一度の大儀式、載冠の儀を開催いたします」


お祝いの間に広がるのは司会者のナレーターの声。

ついに載冠の儀が始まりを迎えるのである。

ナレーターの声を聞き、会場にいた権力者たちが正面ステージに視線を送る。

そして、お祝いの場はシーンと静まり返った。


「…………」


誰も音を出さない静寂の中、カッツ、カッツとハイヒールの音がお祝いの場へと近づいてくる。

そして、その人物が姿を現した瞬間、ナレーターは声を高らかにその名を叫ぶ。


「我らが領土を納める帝王、『バラム・アーネモネ・レメゲト』様!!!!」


お祝いの場に現れたのは帝王。彼女は護衛もつけずに、権力者たちの前に姿を現したのだ。

もちろん、会場では突然の帝王の登場にざわついている。いつもはカーテンの向こうにいた帝王がその素顔を世間に見せるのは初めてのことなのだ。


「あれが……」

「帝王様……」

「この帝国を統べるお方……」

「初めて見た」

「あれがカーテンの奥にあった美貌……」

「これほどまでに美しい顔であったか……」


お祝いの場にいる全員が帝王の全身を見る。

圧倒的な威圧感。圧倒的な冷酷さ。

その視線を向けただけでも、権力者たちの全身をピリピリとした緊張感が走る。

そして、帝王の口から“載冠の儀”について詳しい説明が語られようとしていた。







 帝王はステージの中央まで歩いてくると、そこで一時足を止めた。

帝王は周囲にいる権力者たちの顔を一通り眺める。その行為は権力者たちに帝王との立場の差を理解させるためのものでもあった。

帝王と権力者。例え彼らが国王であろうとも、誰も帝王には逆らえない。この場で一番偉い存在こそが帝王なのである。

故に、これから発せられる帝王のお言葉を遮ることは許されない。


「ご苦労。余のために大義である。我が帝国の領土の王よ。我が大陸の小さき勝者よ。

此度は載冠の儀に集まってくれたこと、礼を言う」


「この中には、載冠の儀について知らぬ若人もおろう?  故に余が語ろう」


───載冠の儀。それは“次なる帝王を決める式典”。

帝王はこの場で次世代を担う帝王を発表するつもりなのだ。


「────“21年に1度”、新たなる帝王の地位を得る者を決めるのが載冠の儀である」


そして、帝王は側に持っていた謎の剣を空に掲げる。


「これは“聖剣”……。この大陸を統べる資格ある者にのみ扱える。

この聖剣は“この場の最も素晴らしき王”に光を示す。

その者が次なる帝王として、王座と聖剣を受け継ぎ、冠を被り、帝国を治める帝王となるのだ」


その聖剣と呼ばれる剣。黄金や宝石よりも美しい柄、刃はダイヤのような見た目の輝き、そして一箇所に“謎の丸い物”を覆っている赤い大きな宝石がつけられている。

その聖剣からは、神々の光のような暖かな雰囲気と、悪魔の囁きのような惑わされる気迫が混じり合っていた。

その剣を見ただけでも、時代にまったくそぐわない加工物であると誰もが理解することができる。


「…………」


権力者たちには、その聖剣を心の底から手にしたいと思う者もいれば、その聖剣の神々しさに嗚咽を吐きそうになる者もいたが、誰も音一つ出さなかった。







 さて、一方その頃、アンドロ・マリウスはお祝いの場にたどり着いていた。彼女にとって本物の聖剣を見るのは数年ぶりである。


「ほんとうに始める気だわ…………!?」


だからこそ、あの聖剣の懐かしさに心を奪われていた。

その聖剣の輝きに一瞬心を奪われてしまっていた。

そんな様子のアンドロ・マリウスを帝王はステージの上から発見する。

来てほしくなかった存在がこのお祝いの場にも来てしまった。


「(来てしまったか。我が妹よ)」


だが、あの距離ならば、載冠の儀を邪魔してくるのには時間が足りない。

つまり、聖剣は確実にこの場の最も素晴らしき王に光を示してくれる。


「(あいつが得るか。余が得るか。……信じるしかないか)」


帝王にもはや迷いはない。

アンドロ・マリウスから奪った帝王の座。彼女が帝王としての器を今も持ち続けていれば、聖剣はアンドロ・マリウスに光を示す。

そして、同時に帝王の座を奪ったことがバレたバラムの権力は地に落ちる。


「では、刮目せよ!!!!」


帝王が自分の目的を達成するためには、再び帝王になる必要がある。

アンドロ・マリウスは誰にも存在を知られていない隠れた子。

そんな奴に帝王の座を渡すわけにはいけないのだ。たとえ、アンドロ・マリウスが本当の帝王だったとしても……。


「帝王となった者には21年間、帝王としての地位。聖剣所有の権利。そして、就任強制命令(ファースト・オーダー)の権利を与える」


「─────心せよ。全ては聖剣の意のままに」


帝王バラム・アーネモネ・レメゲトは告げる。

帝王が空にかざした聖剣。聖剣は太陽光を浴び、虹色に輝き始めた。


「(今度こそ、余が……私が)」


「(バラムーーーー!!!!)」


─────聖剣は次なる帝王に光を示す。

















───────────────────


 聖剣の光は揺らぐ。そして、聖剣の光が人物を差す。

聖剣がこの場の最も素晴らしき王、帝王となるべき者を選んだのである。


「そんな…………」

「次なる帝王が決まった」

「次の帝王は……」


権力者たちは光の示す者が自分ではないと分かると、その光の先を見る。権力者たちの視線の先はアンドロ・マリウスではない。


「ハッ…………ハハッ。アハハハハハハハハ!!!!」


全身の緊張が解けて、彼女は笑った。ついに認められたのだ。

偽りの帝王として、長年皆を騙して生きてきた。帝王の座にふさわしかった人物が自分だと偽って、帝王の権力を維持していた。そして、正義を執行していった。


「聖剣は認めた。余が次世代のための帝王である!!!!」


帝王『バラム・アーネモネ・レメゲト』。

彼女はとうとう正式な儀式で選ばれた。再び、帝王になれたのだ。


権力者たちは一斉に静寂を断ち切ったかのごとき拍手の嵐をバラムに送る。


情報国Master漏洩殿『グシオン・ユニバーサル』はこの大ニュースを一刻も早く瓦版にしようと、手元のメモに全てを記述している。


そして、アンドロ・マリウスはその現実に絶望していた。


「なぜなの。私が……私だったのに」


その声は誰にも届かない。彼女が帝王の座として相応しかった時はもう過ぎ去っていたのである。

今、聖剣はバラムを帝王に選んだ。

その真実によって、もう彼女は立ち直ることが出来なくなってしまったのだ。


「(あぁ…………バラム。帝王…………私、私は……)」


希望が消える。

これまで、生きる希望だった灯火がかき消される。

辛くても苦しくても、耐えてきた。きっとあの玉座に戻ってこれると信じていた。

それだけがアンドロ・マリウスの心の支えだった。自分こそが本当の帝王だと、自分は奪い返す側の正義だと……。





だが、今、アンドロ・マリウスは帝王としての座を正式に奪い取られてしまったのである。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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