2 ・赤羅城と帝王+帝王バラム 戦③
少し遅れてしまいました。申し訳ございませんでした
お祝いの間へと向かう大廊下を1人の男が疲れ切った体で進んでいた。
「はぁ……何処だ。あいつら、死んでなきゃいいが……」
それは全身血まみれの赤羅城。
彼の体に突き刺さった大量の刃を床に投げ捨てながら、彼はお祝いの間へと向かっていく。
「あいつらがいるとすれば、お祝いの間だろうな。載冠の儀……止めに行ってたもんな」
刃を抜き捨てるとすぐに赤羅城の肉体は再生を始める。
彼の不死身の体が彼を死なせようとはしないのである。
それが彼の受け呪いであり、彼を縛る苦しみでもあった。そして、彼はそれが嫌いだった。
だが、今の彼は正直、この呪いに感謝している。
「…………正直な。早く、帰って。茶でも飲みてぇ気分だったが。気が変わったぜ」
彼は大廊下の一柱に向けて声をかける。
すると、その柱の影から1人の女が姿を現した。
「久しいな。“赤”よ」
堂々と柱の影から現れたのは帝王『バラム・アーネモネ・レメゲト』。
この帝国や周辺にある帝国領土の国を納める、大陸の中でも高位な権力者である。
「よぉ、帝王様。あんた、そんなに顔をさらけ出す性格だったかい? 変わっちまったな」
「貴様こそ、外で反省してると思えば。
丸くなったようだな。弱者狩りに飲まれて牙が腐り落ちたか?」
「あいにく、俺は人種職種年齢男女平等主義者だぜ?
今も昔も俺は俺だ。きちんと全員殺してるさ。だが、今は、こっちについた方が面白いんでな」
「そうか。虹武将の赤はいつも同じ熱意を持っている。みな戦闘に飢えている。だが、それ故に短命だ」
そう言って構える帝王の手にはただの刀が握られていた。
一方、赤羅城が握っているのは大太刀。それも赤羅城専用に作られた殺戮のための大太刀である。
武器の性能では赤羅城の方が圧倒的に上である。彼の大太刀ならば、帝王の持つ刀など一撃で壊してしまうだろう。
だが、赤羅城には分かっている。
帝王はこの大陸で5本指に入る程の実力者。
「大陸の怪物の1人……との闘いができるなら死して本望!!
だが、あいにくだな。俺は不死身なんだぜェェ!!!!」
赤羅城と帝王の闘いが始まった。
さっそく、赤羅城は帝王に向けて必殺技を放った。
「『不死風花』」
赤羅城の激しい大太刀による連続攻撃。
まるで流れる風のように連撃は帝王の全身に放たれる。
上下左右斜め。
あらゆる方向からの攻撃が、帝王の肌に突き刺さろうと振り下ろされていく。
だが、帝王はその攻撃を一つ一つ弾き返す。
勢いだけでは折れてしまうであろう刀を使って、彼女は赤羅城の攻撃を全て弾き返しているのだ。
「…………」
「やっぱ、そうだよな!! 帝王様!!」
もちろん、赤羅城にとっては帝王に攻撃が当たらないことなど予想はしていた。
『不死風花』が防がれた時点で、彼は必殺技を続けることを一度中断する。
だが、もちろん諦めたわけではなく、赤羅城は攻撃の手をやめることはない。
帝王の横腹を狙った一撃も弾かれる。
帝王の額を狙った突きも弾かれる。
帝王の腹を狙った突きも弾かれる。
「でもよぉ、俺は守りなんてできねぇからな。攻める攻める攻めるぜェェェ!!!!」
赤羅城は攻撃の手をやめない。
一歩も引くことなく、前へ前へと進み続ける。
対する帝王は、一撃一撃を弾き返し、後方へ後方へと下がっていく。
赤羅城は帝王の動きをありとあらゆる立ち位置から攻めていく。
そして、数撃分の攻撃を防いだ帝王は気づいた。
背後には柱。これではここで耐えきるしかなくなってしまう。
「さぁ、帝王様?
そろそろあんたも攻めて来なきゃいけないぜ」
赤羅城はちゃくちゃくと帝王を柱に向けて誘導していく。
そして、ついに帝王は柱に背をつけてしまった。
「…………」
「でも、これで終わりだよなァァァ!!!!」
そして、とうとう赤羅城は再び必殺技を放つのである。
「『不死風花』ーー!!!!」
帝王の背後には柱があり、彼女はこの場で必殺技を受けきるしかない。
しかもこの至近距離。赤羅城の大太刀では、刀の間合いよりも広いため、弾き返すのも至難の業。
赤羅城の殺意が溢れ出て、赤羅城は思わず笑みを浮かべた。
この一撃を弾き返すことはできまい。
赤羅城はこの必殺技に全てをかけるつもりでいた。
だが……。
「攻めていく……か」
帝王は赤羅城の『不死風花』を弾くことも防ぎきることもせず。帝王は避けたのだ。
赤羅城が振り下ろす一瞬の隙をついたことで、綺麗に避けてしまったのだ。
「どういうことだ!?!? あの瞬間、ほんの一瞬で!?」
赤羅城はその動きの終わりを目で追うことしかできない。大太刀の刃を帝王に向け直すには隙を見せすぎている。
「では、余も少し攻めてみよう!!」
帝王の握った刀の刃が赤羅城の横腹に突き刺さった。
さすがの不死身の赤羅城でも、痛覚は感じている。彼は一瞬苦痛の表情を浮かべるが、すぐに持ち直す。
「グッ……。だが、貴重な一撃を使っちまったなァァァ!!
もったいないぜ。そんな一撃じゃ俺は殺せねぇぞ!!」
赤羅城は帝王の方へと体の向きを変えて、今度こそ大太刀の刃を……。
「今度こそだ。『不死風花』!!!!」
「あれ…………?」
赤羅城は壁に持たれかかりながら首を傾げている。
彼は今、確かに帝王への一撃を放ったはずである。
「どうなってんだ……こりゃ?」
今、赤羅城の体は柱の側に背もたれて倒れている。
彼の腹には大きな穴が開いており、さらに両手両足には武器の刃が突き刺さることで、固定されていた。
首元を少しでも動かせば、柱に突き刺さった赤羅城の大太刀の刃が血管を切ってしまいそうだ。
そして、先程までの戦い以上に血を流しすぎており、出血多量の症状である。
「俺は……技を放ったはずだよな……?
俺は気絶してたのか?
記憶が曖昧だ。全身も首も痛てぇ……」
赤羅城は血に濡れた視界の中で、帝王の姿を見ている。
「どうした? 終わりか?」
赤羅城からの視線を感じた帝王は彼を見下すように眺めている。その視線は冷酷で、哀れみのない瞳であった。
「 」
その視線とともに、赤羅城の耳に流れてきたのはお祝いの間から聴こえるナレーターの声。
どうやら、載冠の儀のアナウンスを行っているようである。
「…………そろそろ時間だ。“赤”よ。よき準備であった」
「見逃すのか? 俺は不死身だぜ……」
「疲労しきった貴様にはもう何もできまい。
そのまま、貴様らに相応しい新時代を夢に。朽ちてゆくことを願う」
そう言って、帝王は赤羅城を見逃して立ち去っていく。
赤羅城はその背中を見ながら、ふと考えてみた。
「疲労ねぇ……」
帝王の体には傷もホコリもついていない。対して、赤羅城の体は死にかけで、しかも力が入らないくらい疲れている。
いつもなら、これほどまでに疲労することはないはずだ。
不死身の再生スピードもなんだか遅く感じてしまう。
そんなことを考えていると、彼はふと一つの解答を思いついてしまった。だが、さすがにそれはないだろうと、思う前に否定する。
「……嫌な想像しちまった。娯楽本じゃあるめぇしな。カッカッカッ……!!」
さすがにそれはないだろうと……彼はその考えを頭の中に捨てた。
疲労している理由なんて、出血多量のせいだと思い直すことにしたのだ。
一方、赤羅城が何やら考え事をしているとも思わず、帝王は最後にもう一度赤羅城の方を振り返る。
「…………」
赤羅城は動いていない。
そのことを確認した帝王はお祝いの間へと足を踏み入れていった。




