22 ・見張り合い虹武将+話し合い★
一方、場面は変わる。
そこにいるのは、お互いを監視しあっているアガレスとベリアル。
先程まで、2人は紅茶を手にし、優雅にティータイムを味わっていたが……。次第にアガレスの顔色が先程から悪くなっていた。
「────どういうつもりだ?」
アガレスの能力は未来予知。アガレスはなにやら今から起こる未来を見て、焦っているようだ。
「なぜだ……そこまで」
「おいおい、どうした? 急に。
また、虹武将が1人やられたかい?」
「違う。
だが、嫌な予感がするのだよ……」
アガレスはなにやら大慌て。その焦りからか思わず、額から汗を流し、丸机の上の紅茶カップをなぎ落としてしまった。
そんないつもとは違う様子のアガレスをベリアルは不審に思いながら、尋ねてみる。
「あんたらしくない。どうした? 話を聞こうか?
それとも、己でよければ手伝おうかい?」
「黙れ、貴様がいればよりややこしくなる」
「でも、敵対関係で睨みっぱなしなんだしさ、己もあんたをここから逃がすわけにはいかないのさ。どうかな、ここらで停戦っての」
「────ぐぬぬぬ」
アガレスは心の中で葛藤している。
予想もしなかった未来を予知してしまい、回避のために動き出したい。
だが、お互いに敵対関係で見張り合っているベリアルをどうにかしないと移動もできない。
かといって、ベリアルと一時停戦でもしようものなら、被害がかえって悪くなる可能性もある。
ベリアルがお祝いの場にいる権力者たちを虐殺したり、帝王に刃を振るう可能性もある。
敵対状態の彼を城内に入れてしまうのは状況を悪化させる可能性が高い。
彼は基本、ノリと興味と面白みでしか動かない自由人なのだ。
しかし、このままベリアルだけに意識を向けるのはもっと危険かもしれない。アガレスは渋々、ベリアルの提案を受けることにした。
「……そうだな」
「えっ、いいの!?
ありがとう、アガレス。よっしゃ、じゃあ今日はどんな反逆をしてやろうかな〜」
「ただし、監視下にはいてもらう。条件付きだ。お前の反逆は監視下で厳重に阻止させてもらう。主導権は私にある。よいかね!!」
「そんなーー!!!!」
「そんなーじゃない。貴様もいい歳なんだから、虹武将としての自覚をだな!!」
「いい歳なのはあんたもでしょう。そろそろ2位の座を譲ってあげれば、ウヴァルが2位になれるのに」
「それでウヴァルをお前が制御するのか?
バカにバカを従わせるわけにもいかんのだ。組織には常識を持つ者が必要なのだよ」
「もぉー、説教かい?
ほら、そんなのいいからさ。早く行くんでしょ?」
こうして、虹武将の紫と黄は動き出す。
─────────────────
一方、同時刻。
大陸内にあるとある国。雪が溶けることなく降り注いでいる“冬宙国”。
昼も夜も雪が振り続けるこの国では、コタツという外の世界の技術が流行している。
その国で1人の男がコタツで丸まりながらも文通を行っていた。
「ムゥ、やはり寒い日はコタツに限りますな。麿としてはぬくぬく。
あぁ、そちらは風邪などひいておらねばよいのですが。 プルトン殿」
この文通は【手紙の付喪神】による能力で、大陸中に広まっている技術であり、一瞬にして手紙を送りあえるという。
そして、今、その技術を使っていた男は土行の使者。犯罪組織【闇星】の幹部の1人である。
また、こうして文通をしているのだから、彼にはもちろん文通相手がいる。
「自慢かな?
はぁ、あのさぁ。こっちはマジの命懸けなの。
【青年英雄】とか言われて受け入れられてはいるけど。やっぱ、帝国は怖いよ。助けて!!」
一方、土行の使者の文通相手は同じく同僚。
現在、帝国の載冠の儀に【青年英雄】として潜入している男である。
彼の名前である青年英雄『プルトン・マーベラ』とは仮の姿、真の名は『フォカロル・ハーデス』。犯罪組織【闇星】の幹部だ。
そんな彼が同じ同僚に助けを求めたのである。
だが、土行はその頼みをことごとく蹴った。
「なりませぬ。麿は土行の使者。流浪人でも暇人ではないのですぞ。それに、もう麿があなたの野望を手助けする理由はありませぬ」
「少しくらい良いじゃないか。
あんたの目的の十二死集めだって手助けしてあげてるんだから。
それともなんだい。君もぼくを加害するのかい。お前も加害問題を起こすのかい」
「麿は既に手助けした忘れることなきように。あなたの【青年英雄】としての軍資金も手柄も、半分ほどは麿が裏回しした物ですので。
数年分の恩が麿にあるはずですぞ?」
「そりゃ、仕事を押し付ける身として当たり前のサポートじゃないか。仕事のサポートだろ。
ぼくが寄越せと言いたいのは加勢だよ。直接加勢に来てって言ってるんだよ。バカ!!!!」
「それはなりませぬ。何故なら今の麿は……」
「なに? ぼくを助けてもくれないの?」
「麿としても動きたいのは山々。ですが。誠に残念ですが。
麿は“モルカナの女”との戦いで命からがら逃げ出したばかり。その傷が癒えず。とても救いに行ける状況ではありませぬ」
どうやら、どうしても土行は助けに来てくれないらしい。
こんなに頼んでも来てくれないならと、水行は彼からの助けを諦めた。
だが、助け自体を諦めたわけじゃない。水行としては誰でもいいから自分を助けてくれる人材が欲しいのだ。
「じゃあ他の奴らは? 連絡してくれよ。このぼくの野望達成に人数が足りないんだ。流石に1人では十二死回収も苦労するよ」
「“火行”はどうやら行方不明。風の噂で女帝を降りて、国外逃亡したとか聞きました。
“金行”は現在、帰省先の本部近辺で魔王軍【生】の軍勢と交戦中。
“木行”は国に引きこもっておりまする」
さらに、他のメンバーも全員助けに来て貰えそうにない。水行は、他の奴らは使えないと呆れ果てながらも、自分の苦労を改めて実感した。
「おいおいおい、ぼくが一番苦労しているじゃないの。ぼくへの加害問題だね、これ。
いいもん!! ぼくが野望を達成したらみんな殺してやる」
そして、水行の感じた苦労は他者への殺意へと変わる。
そんな様子を感じ取った土行はニッコリと穏やかな笑みと文体を浮かべて彼を励まそうとした。
「─────その野望叶うと良いですね。ずっと夢見ていたのですから。ええ、麿はお祈りしております」
「その心にも思ってない文章の出し方やめろ。不快という加害問題だぞ。
いいのか? そんなにぼくを蔑む気なら情報提供しないからな」
「ム、それは困ります。あと少しなのです。もう少し帝国にある情報を仕入れていただきたい」
調子に乗った土行を一喝した水行。
土行の焦る顔が文字からでも浮かび上がってきそうだ。
水行は土行の様子を想像して少し嘲笑い、さらに続ける。
「とは言っても。此度が最後だからさ」
「なぬぅ!? 最後!? そんな……」
「ぼくの野望が数時間後には叶うはず。だから、ぼくはもう情報を流すつもりはないからね。お前のための間者はもう終わりだ」
「それでは、ついに“帝国を獲る”ための行動を行うのですね? それは頼もしい」
「ああ、一部部外者もいるけど概ね問題なしだね。さぁ、とうとう始めるよ。載冠の儀で、ぼくは次世代の帝王になるのさ…………」
この時、水行は頭の中で、既に自分が帝王になっている未来を想像していた。
うまくいけば、自分自身が帝王の権力を手に入れることができると考えると、水行としては笑みが止まらないのだ。
随分、長い期間、その瞬間を味わうために水行は生きてきた。
そして、もうすぐその瞬間を見れると思うと、嬉しくてたまらないのだろう。
「フフフっ……クククッ」
「────ええ、楽しみにしておりますぞ。元気な姿で会えることを祈っておりまする」
「なぁ、お前さ。失敗するだろうな〜って考えてるだろ?」
「…………それではこれにて」
「否定はしないのね…………最低だな!!!!」
ここで水行は手紙の付喪神から届いた手紙を破り捨てた。
強制的に文通を切った。
これで土行との文通を行うことはできない。
だが、水行としては土行のことなどもうどうでもいいのだ。
こんな肝心な時に助けに来てくれない同僚たちなんて、水行にとっては無価値なのである。
「認めさせてやる……どいつもこいつも見てろ。全員、みんなみんなみんな。このぼくが支配してやる!!」
こうして、水行は再び決意を固めた。
全てを支配するために、全てを平伏させるために……。
水行の使者『フォカロル・ハーデス』は動き出す。




